花火は大輪を咲かすけれど、一瞬で散ってしまう。
だけど、その散り様は美しいから。
お願い…私のこの想いを照らして?
この夏だけの命と決めた、私の恋心を………



「きゃーっ!敦賀くん!もっと遅くなる予定じゃなかった?」
「ええ…仕事がひとつキャンセルになりまして。」
「本当~!?じゃあ一緒に飲んでくれない~!?」

会場について早々、綺麗なお姉様方に捕まった敦賀さんをこれ以上見ていたくなかった。

「モー子さんごめん、ちょっと…光さんたちもすみません、お手洗いに行きたいので……」
「あ、うん。いってらっしゃいキョーコちゃん。」
「……わかったわ。」

一緒にいたモー子さんと、ブリッジロックの3人に断りを入れてその場を離れる。
会場は社長の迎賓館だから、勝手知ったる何とやらで裏口を通り、あの人に見つからずに廊下へ出た。

「……ああ、でも逃げたらお芝居の糧にならないか。」

別に、本当にトイレに行きたかった訳じゃない。
ただ…あの人と、あの人を想う自分から逃げたいだけ。
この夏だけと決めたのに、勝手に育つこの恋心を殺した時……私はどうなってしまうのだろう。

次の秋から冬にかけてのドラマで、準主役のオファーが来た。
DMに匹敵するほどの、濃い内容の恋愛ドラマ……
DMの時には『未緒』と言う少し特殊な役柄だったために、恋愛の方面には大して絡まなかった私。
だけど次は、ヒロインと主人公を奪い合わなければならない。

深く激しく切ない気持ちを、報われる保証もないのに主人公にぶつける彼女。
仮台本を読ませてもらったけど…私には、そんな彼女の気持ちは理解できなかった。

そんな時に浴衣のCF撮影があって……

「京子ちゃん、思い浮かべてごらん?好きな人と一緒に過ごすひと夏を。
浴衣は夏しか着れないだろう?それと一緒で、何か事情があってその彼ともその夏しか一緒にいられないんだ。その先報われることもない。」

『好きな人』『報われない』のキーワードで出てきたのは…敦賀さんの神々スマイル。

「だから彼との思い出を永遠に刻むために、君はその浴衣を着るんだ。ひと夏だけと決めたその恋を、浴衣は美しく彩ってくれるから。」

ひと夏だけの恋……

そのカメラマンの言葉は、私の心の鍵を緩めるお手伝いをした。

今だけ敦賀さんへの気持ちを解放して、演技の糧にしたらどうだろう。
ドラマが始まる頃にはまた封印して、永遠にさよならするの………

そうして撮影に挑んだ浴衣のCFは、予想以上に好感触を得て、冬の着物のCM出演まで決定した。
ドラマの撮影も始まったが、今のところ監督に気に入ってもらえる演技ができていて順調だ。

予想外なのは……期間限定なのに、あっという間に育ってしまった敦賀さんへの気持ち。

敦賀さんに会えると嬉しい。
敦賀さんの声が聞けるとドキドキする。
他の誰かと話しているのを見るだけでも、嫉妬心が沸き出してくる。

例えそれがお芝居だとわかっていても、許せないだなんて……なんておこがましい気持ちまで育ってしまったの?
私は敦賀さんにとって、ただの『世話の焼ける後輩』でしかないのに………

虚しさを振り払うように、一人静かな二階のテラスに出た。

花火を見るのが一応の目的だから、今日は外は一切ライトアップされておらず、このテラスも真っ暗だ。
濃い闇に包まれても、私の白地の浴衣ははっきりと存在を主張する。

白地に朱の金魚が泳ぎ、薄い青と上品に使われる金糸が清涼な水の流れを表現している。
先日の打ち合わせの時「どれでも好きなのをどうぞ」と言われて…迷わず選んだ。

朱の小さな金魚は私の恋心。
敦賀さんにとってちっぽけな存在でしかない私のそれは、この夏を精一杯游いだ後儚く散るの―――

花火がひとつふたつと上がり始めた時、後ろから今一番聞きたくない声が私の名前を呼んだ。




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先日アップした『恋華衣装』の続き。
まさかの2話にorz
ここでこの浴衣が登場すると、なんの曲聞きながら書いたかバレバレですね。
そう、大塚 愛だったりします。

本誌が切なかったから、たまには切な系が書きたかったとか。
しかし暗くなりすぎよーっ!
今どんだけ煮詰まってるかがよくわかりますね!
いや本当に書いてる余裕とかないはずなのに、何余裕ぶっこいてるの。
自分で自分を叱るのが最近の日課です。

でも、拉致監禁が日常茶飯事だったOL時代の経験が、今ちょこっと役立ってまして。
「ああ、無駄な経験にならなくて良かった」とか思ってます←どんなOLよ。


あ、続きでちゃんときょこたん救済しますよ?
またいつアップになるかわからないけど。