濃紺の滑らかな生地が、大輪の朝顔をより彩り豊かに際立たせる。
山吹の八寸名古屋帯も目に鮮やか。

だがそれ以上にはっと目を奪うのは、それらを身に纏い、柔らかく微笑む少女。
凛とした佇まいに和の美しさを感じると同時に、大人の女性への過渡期独特の危うい色気に当てられそうになる。

そんなポスターが宣伝するのは、高級着物店の浴衣だった……。



「あ…ここにもポスター貼ったんだ。」

社さんの声に、ちらりと壁へ視線を送る。
そこには、最上さんが今年イメージガールを務める高級呉服店のポスターが貼ってあった。

『若者にも着物や浴衣を着てもらいたい』と言う事で立ち上げられた、若者向けブランドのイメージガールを最上さんは今年1年務めることになっている。
しかし、あまりにも美しく着こなす彼女のお陰で商品は記録的大ヒットを飛ばしていて、恐らくこの調子ならばあと2年は専属として契約更新の話が来るだろう。
それくらい、最上さんは魅力的にこの仕事をこなしていた。

「本当にキョーコちゃん、綺麗になったなぁ………」

社さんがしみじみと呟く。

確かに彼女は美しくなった。
相変わらずメルヘンな思考は健在だし、時々突拍子もない行動をとったりするけれど。
時々見せる憂いを帯びた表情に、胸を鷲掴みにされる。

(君は一体誰を想ってそんな表情をするの…?)

その表情の先に誰か男がいると思うと、胸が焦げ付きそうなほど苦しくなる。
いっそ嫉妬で狂ってしまえたのなら、どんなに楽なことか……
愛おしいと思う気持ちはすでに溢れて駄々漏れなのに、一番届いて欲しい人へは伝わらない。

どうして他の男なんだ………
誰よりそばにいたはずなのに。

「敦賀さん、社さん。おはようございます。」
「お、琴南さん!おはよう。」

挨拶をされて振り返ると、琴南さんが黒髪をさらりと靡かせ颯爽と歩いてきた。

「おはよう琴南さん。」
「おはようございます…今日は一緒じゃなくてすみませんね、あの子はこれの次のCFに向けて打ち合わせですよ。」

隣に最上さんの姿がないかちらりと確認したのを、鋭く観察されていたらしい。
琴南さんは「これ」と、ポスターを指差した。

「…敦賀さんはこれを見て、何とも思わないんですか?」
「……とてもいい仕事をしているよね。」

琴南さんの言いたいことは何となく察しがつくが、一応誤魔化してみる。
琴南さんははぁ、とため息を一つ吐いた。

「まぁ、私がとやかく言う事ではないんですけど。あんまりあの子を思い詰めさせないでくださいよ?『面倒見のいい先輩』なら尚更ね……」

鋭い視線と意味深な言葉を投げ掛けられ、一瞬ギクリとした。
他の男が寄り付かないように、こっそり牽制をかけてきたのは事実。
排除したせいであの表情を引き出させてしまったのだろうか。
表情にこそ出さないが内心密かに動揺していると、琴南さんは「ああ」と俺に向き直った。

「今週の花火大会に、あの子来ますから。浴衣も提供者がいるから、とっておきので来ると思いますし…しっかりエスコートしてくださいよ?」

それだけ言うと琴南さんは一つお辞儀をして、さっさとエレベーターホールへと向かってしまった。

「へぇー、キョーコちゃん花火大会には浴衣で参加なんだねぇ。」
「……そうですね。」
「蓮…大会の日のスケジュール、ちょっと調整してやろうか?」
「…………いいですよ。」

本当は最上さんのエスコートなんて、一分一秒だって他の誰にも譲りたくないが…仕事に私情を挟むわけにはいかない。
精一杯の虚勢をはって、社さんに伝える。
まぁ…どうせ社さんには、全部お見通しなのだろうが。

「さあ、仕事をしっかりこなしましょう。次はドラマの打ち合わせですよね?」

ポスターの中で美しく咲く最上さんの笑みを瞳に焼き付け、俺はその場を後にした。




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メロキュンお題の「夏と言えば…」を考え、本当は真っ先に出てきていた「浴衣・花火」。
しかし、たまたま聞いていた曲が切ない系だったせいでメロキュン度が完全になくなりましたorz

と言う理由から、普通に上げた短編。
浴衣とか何年も着てないので、全然覚えてないー!
生地とか一生懸命調べましたが、詳しくないのでごまかし気味(汗)
これの続き、「花火」のキョーコ目線があるのですが……
はっきり言って、今は書いてる場合じゃない!
また某所で暴走した後、事の重大さにビビってます←いつもこんなことばっか。

でもなるべく早めにあげなきゃねー。

やることはたくさんある。
とにかく出来ることは精一杯やらなくちゃ。