残り数日の夏休みは、俺にとって幸せな毎日になるかと思いきや………
全くもってそんな甘やかな雰囲気にはならなかった。
『だって、今はバイト仲間でしょ?他の人と態度を変えるわけにはいかないわ。』
バイトの時間はそう言ってするりと俺の横をすり抜けていくので、俺が最上さんを目で追いかけるいつもの店内の雰囲気だ。
ならせめて通勤路は…と思いきや、何と貴島が毎日光さんや社を引き連れて「一緒に帰ろう!」と声をかけてくる。
隣の駅で待ち伏せて、何とか二人になれた朝も「誰がいるかわからないから」と、必要以上に距離を詰められない。
(お…俺一人が舞い上がってるのか?)
ここまで甘い雰囲気にならないと、さすがに凹んでくる。
だけど…バイト中時々視線を感じて振り返ると、『見つかっちゃった』と言わんばかりに頬を染めて恥ずかしそうに微笑む最上さんがいて。
「ああ、本当に両想いになれたんだ…」と実感する。
雰囲気は今までと全く変わりないが、気持ちは些細な事ですぐに満たされる。
俺の気持ちは、相変わらず急上昇急降下でジェットコースターみたいだけど……
少しは上昇してる時が長くなったようだ。
(社が「お前の笑顔がますます崩れて怖いくらいだ」って言うくらいだからね)
もうすぐ夏休みが終わる。
*
最終日の店は、夕方からバイト達の打ち上げの場となっていた。
店長が特製の焼きそばを作ってくれたり、光さん達がミニライブと言って即興で曲をつくって歌ったり。
ヤローが多いから、少し離れてるはずの浜辺まで音が届くくらいの大音量で騒いでいる。
最上さんは丁寧にスタッフ一人一人と挨拶していて、なかなかこちらに来てくれない。
もどかしく思ったが、今日ここさえ乗りきれば後は甘い雰囲気になれるのかなーと、一人のんびりコーラを飲み干した。
「ほい。キョーコちゃん、もうちょっとでこっち来ると思うぞ?」
「おお、サンキュ。」
社がジンジャーエールを持ってきてくれる。
空になったグラスはセルフで流しに置きに行かないといけない(当たり前だ、スタッフみんなでの打ち上げだ)。
流しに置いて再び社のもとへ戻ろうとすると、社と貴島の目の前で光さんに声をかけられている最上さんが見えた。
「あの…キョーコしゃん!蓮としゅき合ってるってホントなのぉ……!?」
既に出来上がっているのか、呂律が微妙な光さん。
顔を真っ赤にして(いや、これは多分酒のせいだけじゃないだろうけど)最上さんに絡んでいた。
(そう言えば「好き」とは言ったけど「付き合おう」とは言ってないや…どうなんだろうそこのところ。)
最上さんが「光さん飲みすぎですよ~」と宥めているのを見ながら、社と貴島のもとへ戻る。
あくまで『年上のヨユー』とやらでこの夏は締め括るんだなあと思うと、俺はどれだけ大人になっても最上さんには敵わない気がしてくる。
もらったジンジャーエールを口に含んだ瞬間、貴島から思いもよらない言葉が来た。
「でもさぁ~。俺、協力してやったのに何にも報告なしなの?せっかくキスしてたの、黙ってやってたのにさぁ。」
〈ぶっ!〉
「わっ!?蓮、汚いって!」
まさかあれを見ていた人がいるとは思わなくて、ジンジャーエールを噴いてしまう。
「えぇ~!きょーこしゃんホントなの~?」
半べその光さんに詰め寄られた最上さんは、今度こそ顔を真っ赤にしてオロオロし出した。
そして目の端に俺の姿を確認するやいなや、目の縁に涙をためていきなり抱きついてきた。
「「えええ!?蓮とキョーコちゃん、実はそうだったの!?」」
「いつから付き合ってんの!」
「蓮!抜け駆けしてたのか!?」
周りにいた先輩達の目線が痛い。
そりゃそうだ。
みんな最上さん狙いだったのだから、年下の後輩にあっさり先を越されたこの状況は嬉しくないだろう。
いやその…と苦笑いでごまかしていると、貴島からさらに追い討ちの一言が。
「…で?この間お膳立てしてやったんだから、ヤっちゃったの?」
「「「何だとーっ!!?」」」
「「!?」」
胸に顔を埋めてしがみついていた最上さんの体が、思いっきり跳ねてこわばる。
ちらりと見える耳や首筋まで真っ赤だ。
(『年上のヨユー』ってやつはどうしたんですか最上さんっ!)
これじゃ「いかにも何かありました」的な雰囲気になるじゃないですか!
実際には何にもなかったのに、この状態じゃ俺、袋叩きですって!
何とか袋叩きは免れたい俺は、慌てて声を張り上げた。
が…焦りすぎて、言葉を間違えた。
「キスしかしてないっ……て、あ!!」
「「「蓮ーーーっ!!!」」」
***
今年の夏は終わりを告げるけど。
淡く色づき始めた俺の世界は、まだまだこれから色を足す。
次はどんな色をパレットの上に広げようか……
〈NEXT → 『君はパステルラバー』〉
全くもってそんな甘やかな雰囲気にはならなかった。
『だって、今はバイト仲間でしょ?他の人と態度を変えるわけにはいかないわ。』
バイトの時間はそう言ってするりと俺の横をすり抜けていくので、俺が最上さんを目で追いかけるいつもの店内の雰囲気だ。
ならせめて通勤路は…と思いきや、何と貴島が毎日光さんや社を引き連れて「一緒に帰ろう!」と声をかけてくる。
隣の駅で待ち伏せて、何とか二人になれた朝も「誰がいるかわからないから」と、必要以上に距離を詰められない。
(お…俺一人が舞い上がってるのか?)
ここまで甘い雰囲気にならないと、さすがに凹んでくる。
だけど…バイト中時々視線を感じて振り返ると、『見つかっちゃった』と言わんばかりに頬を染めて恥ずかしそうに微笑む最上さんがいて。
「ああ、本当に両想いになれたんだ…」と実感する。
雰囲気は今までと全く変わりないが、気持ちは些細な事ですぐに満たされる。
俺の気持ちは、相変わらず急上昇急降下でジェットコースターみたいだけど……
少しは上昇してる時が長くなったようだ。
(社が「お前の笑顔がますます崩れて怖いくらいだ」って言うくらいだからね)
もうすぐ夏休みが終わる。
*
最終日の店は、夕方からバイト達の打ち上げの場となっていた。
店長が特製の焼きそばを作ってくれたり、光さん達がミニライブと言って即興で曲をつくって歌ったり。
ヤローが多いから、少し離れてるはずの浜辺まで音が届くくらいの大音量で騒いでいる。
最上さんは丁寧にスタッフ一人一人と挨拶していて、なかなかこちらに来てくれない。
もどかしく思ったが、今日ここさえ乗りきれば後は甘い雰囲気になれるのかなーと、一人のんびりコーラを飲み干した。
「ほい。キョーコちゃん、もうちょっとでこっち来ると思うぞ?」
「おお、サンキュ。」
社がジンジャーエールを持ってきてくれる。
空になったグラスはセルフで流しに置きに行かないといけない(当たり前だ、スタッフみんなでの打ち上げだ)。
流しに置いて再び社のもとへ戻ろうとすると、社と貴島の目の前で光さんに声をかけられている最上さんが見えた。
「あの…キョーコしゃん!蓮としゅき合ってるってホントなのぉ……!?」
既に出来上がっているのか、呂律が微妙な光さん。
顔を真っ赤にして(いや、これは多分酒のせいだけじゃないだろうけど)最上さんに絡んでいた。
(そう言えば「好き」とは言ったけど「付き合おう」とは言ってないや…どうなんだろうそこのところ。)
最上さんが「光さん飲みすぎですよ~」と宥めているのを見ながら、社と貴島のもとへ戻る。
あくまで『年上のヨユー』とやらでこの夏は締め括るんだなあと思うと、俺はどれだけ大人になっても最上さんには敵わない気がしてくる。
もらったジンジャーエールを口に含んだ瞬間、貴島から思いもよらない言葉が来た。
「でもさぁ~。俺、協力してやったのに何にも報告なしなの?せっかくキスしてたの、黙ってやってたのにさぁ。」
〈ぶっ!〉
「わっ!?蓮、汚いって!」
まさかあれを見ていた人がいるとは思わなくて、ジンジャーエールを噴いてしまう。
「えぇ~!きょーこしゃんホントなの~?」
半べその光さんに詰め寄られた最上さんは、今度こそ顔を真っ赤にしてオロオロし出した。
そして目の端に俺の姿を確認するやいなや、目の縁に涙をためていきなり抱きついてきた。
「「えええ!?蓮とキョーコちゃん、実はそうだったの!?」」
「いつから付き合ってんの!」
「蓮!抜け駆けしてたのか!?」
周りにいた先輩達の目線が痛い。
そりゃそうだ。
みんな最上さん狙いだったのだから、年下の後輩にあっさり先を越されたこの状況は嬉しくないだろう。
いやその…と苦笑いでごまかしていると、貴島からさらに追い討ちの一言が。
「…で?この間お膳立てしてやったんだから、ヤっちゃったの?」
「「「何だとーっ!!?」」」
「「!?」」
胸に顔を埋めてしがみついていた最上さんの体が、思いっきり跳ねてこわばる。
ちらりと見える耳や首筋まで真っ赤だ。
(『年上のヨユー』ってやつはどうしたんですか最上さんっ!)
これじゃ「いかにも何かありました」的な雰囲気になるじゃないですか!
実際には何にもなかったのに、この状態じゃ俺、袋叩きですって!
何とか袋叩きは免れたい俺は、慌てて声を張り上げた。
が…焦りすぎて、言葉を間違えた。
「キスしかしてないっ……て、あ!!」
「「「蓮ーーーっ!!!」」」
***
今年の夏は終わりを告げるけど。
淡く色づき始めた俺の世界は、まだまだこれから色を足す。
次はどんな色をパレットの上に広げようか……
〈NEXT → 『君はパステルラバー』〉