「魔法使い、ですか………」
「うんっ、人を嬉しくさせてくれる魔法使いさんよ。」

ニコニコ笑う最上さんの顔を見て、ズキズキと心が痛んだ。

……別に魔法使い自体が悪い訳じゃない。
彼女がいつでも笑っていられるような魔法なら、いくらでもかけてあげたい。
だけど、俺が本当になりたいのは『魔法使い』じゃなくて、『最上さんだけの王子様』なんだ………
誰かの元へ、笑顔で走って行くための魔法なんてかけたくない。
最上さんの笑顔を独り占めできる、そのポジションが欲しいんだ。
だけどどうして叶わないんだろう?
どうして魔法使い止まりなんだろう………

「敦賀くん?どうしたの……?」

押し黙ってしまった俺の手に、最上さんはそっと手を添えながら声をかけてくれた。
目線が合うと、不思議そうにしながらもにこっと微笑む最上さんがいて……
その微笑みを向けてもらえる嬉しさと、何故か苦しい想いに突き動かされて。
添えられた手をぎゅっと握ると、先程自分が彩ったばかりの唇に、自分のそれをそっと押し当てた。
触れるだけの最上さんの唇は、とても柔らかくて温かくて甘くて………時が止まってしまったかと思った。

本当に時間の流れがわからなくなって、この口付けが永遠に続けばいいのになんて思い始めた頃。
次第に戦慄いていく唇に、はっと意識を引き戻されて顔を離した。
最上さんは目を大きく見開いて、ガラスのような大粒の涙をポロポロと溢していた………

(俺、今何した……っ!?)

自分のしでかしてしまった事に、ざあぁっと体中の血液が流れ出ていってしまう感覚に襲われる。

「ごっ、ごめんなさい………っ!!」

慌てて休憩室を出ると、そのまま裏口から飛び出して逃げていく。
もう開店時間がどうとか、社長が持ってきた変な企画とか…完全にどうでもよくなっていた。
ひたすら走り続けて、気がつけば駅まで来てしまっていた。
しかし今は、財布もICカードも持っていない。
ロータリーの前のベンチに腰掛けて、俺は頭を抱えて途方に暮れた。

「…………………はぁ。どーしよ………」

全然そんな事するつもりはなかったし、最上さんを泣かせたくなかった。
ただでさえ、リックの事があって凹んでたのに……
もう嫌われても何も言えない。
自業自得だ。

(どんな顔して店に戻ればいいんだ……)

散々悩んだ挙げ句、店に戻ったのは13時を完全に過ぎた頃で。
半日失踪したせいで、店のナンバーワンに輝いたのは頑張ってナンパしまくった貴島だった。
俺はトップ3に入る事も出来ずに、最上さんが優勝者の頬に女神のキスを贈るのを、ただただ黙って見ているしかなかった………




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うっかりちゅーで泣かした末の逃亡劇。
きょこたんの涙の理由がわからなくてパニックの為(いや、もともとべこべこ凹みもあるが)、デートの権利を貴島に奪われました。
ああ…可愛いけどヘタレ。

ちなみに原作同様ほっぺちゅーにしようかとも思いましたが…
「何のために口紅塗らせた!?」と思い、あとやっぱり次号本誌あたりでちゅー来てほしい!と言う願いをこめて(笑)
うっかりちゅー先を決めてしまいました☆
こんな理由ですみません。