「うーん…『ご褒美』の仕度が遅いなー。おい、蓮!ちょっと最上くんの様子を見てきてくれ。」

店内の清掃と飾りつけを急ピッチで進めていた俺達を尻目に、のんびりと茶をしばいて…
もとい、優雅にお茶を飲んでいた社長が時計を見て、俺に声をかけてきた。
店内はいつもよりも綺麗に磨かれ、本日投票してもらう俺達「ホスト」の顔写真がでかでかと並べられた。
時間はもうすぐ開店時間だ。

「はい、わかりました。」

もうだいぶ準備を終えているから、俺一人が抜けても全然問題はないだろう……。
一緒にいた社に、雑巾を渡してスタッフルームへ入ろうとする。

「よぉ、蓮。」

店から裏へ入ったすぐの所で、貴島が待っていた。
壁にもたれ腕を組んだままの貴島をよそに、先へ進もうとすると肩を掴まれ、俺は立ち止まらざるを得なかった。

「何だよ、貴島。」
「お前、キョーコちゃんの事どう思ってるわけ?好きなの?」
「………別に。」
「…そっかそっか!じゃあ俺、今日は本気で行くからな?この間のキョーコちゃん、超タイプだったんだよー……『別に』って言うんなら良いよな?」
「………………。」

挑発的な眼差しを投げ掛けられ、俺は何も言えなかった。
しばらく黙っていると、貴島は後ろを向いてひらひらと手を振り、店へと戻って行く。
俺はその後ろ姿を黙ったまま、見送るしかなかった。



「あ、蓮ちゃん!ちょうど良かったわ!キョーコちゃんの水着のパレオ、何色がいいと思う?」

休憩室に行くと、真っ白いビキニを着た最上さんが、テンさんと一緒に何着かあるパレオを選んでいる最中だった。
真っ白い肌にスレンダーな体のラインが、蛍光灯の下でも眩しい。
「何で水着?」とも思うが、ここは海の家で、片側一車線の道路を挟んだ目の前は海水浴場と海。
本来ならTシャツ短パンで接客したっていい位なんだ。
そして今日の『ご褒美』の最上さん。
水着姿と言うことは、彼女も今日一日は店に出ると言うことか。

しかし……ビキニタイプなのだから、露出される肌の面積が大きいのは当たり前なのだが。
好きな人のこんな露出の高い姿など直視できなくて、思わず顔をそらしてしまう。

「やっだ!もう蓮ちゃんったら~照れちゃってるのね!」
「や、そんなんじゃ…」
「じゃあどれが似合うと思う?ちゃんとキョーコちゃん見てあげてー?」

改めて「ちゃんと見ろ」と言われても…実は既にもう目の奥にしっかり焼き付いてしまって離れないんですが……
好きな人の水着姿なんて、恋する青少年には目に毒ですって!
でも、自分が選んだものを着てくれるという特権は魅力的だ。
こっそりと最上さんを見ながら考える。
華奢な白い肌に、パールのように艶めく白のビキニ。
全てが眩しい最上さんに似合う色………

「…そこの、グリーンのはどうですか?」
「ああ、これね。フリルがある分、色柄はシンプル爽やかでいいわよね?よし、これ着けてキョーコちゃん!」

ミューズが最上さんに手渡したのは、白から段々とエメラルドグリーンに変化していくグラデーションのパレオ。
エメラルドが濃くなってくると、模様の白い小さな花柄が綺麗に浮かび上がってくる。
他のよりも生地がふんわりしていて、それもまた惹かれた理由のひとつだ。
それに…エメラルドのグラデーションは、初めて二人で出掛けた日のワンピースの色でもあったから……

「よし、じゃあこの色なら口紅はこっちの色ね?…って、もうこんな時間?!私ちょっとダーリンの所行ってくるから、蓮ちゃん口紅よろしくね!」
「えっ!?あ、ちょっと………っ!」
「だいじょぶよー!蓮ちゃんジュリちゃんのよく見てたでしょー?出来る出来る!じゃっ☆」

早口で捲し立てるように一気に喋った後、テンさんは嵐のように去ってしまった。




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ここに来て亀の歩みに……
パステルではでっかく図太い馬の骨な貴島くん。
モー子さん口説いといて、きょこにもいきますかあなた…!