電車の中でのショックがいまだ冷めない曇り空の午後。
じっとりと空気がまとわりつくような暑さの中を、珍しい人が訪ねてきた。

「よぉ、蓮!今年もバイトに精出してるんだなぁ。」
「リック!?今はアメリカに戻ってるんじゃなかったのか?」
「それが、仕事が早く片付いてつまんなくなってなぁ…暇だから大学のサークルに顔出してるのさ。」

そう言えば、リックも最上さんと同じ大学だ。
サークル…大学生になると、部活の他にそういうものがあるんだ。
最上さんも何かに参加しているのだろうか…

「こんにちは。貴方が敦賀蓮くんかしら…?」

リックしか見ていなかった俺に、リックの後ろから声をかけてきた女性がいた。
長い艶やかな黒髪が美しい、東洋美人。
……ん?リックにはティナという恋人が居なかったか?
なんで他の女性と一緒に行動を?←ティナは意外と焼きもちやきだから…
しかも、何だかどこかで見たことある気がするのだが……

「あ、はい…敦賀蓮です。」
「ふーん、そう……よろしく。」

品定めするかのような目線を送られ、何故かうっすらと敵意のようなものまで感じる。
初対面の女性にそんな事をされたのは初めてで、何が何だかわからず戸惑っていると、後ろから風のように最上さんがパッと飛び出して抱きついた。

「きゃあぁーっ!モー子さん!!どうしたの急に!?」
「別に?先輩がここに行くって聞いたから、付いてきただけよ。」
「でも「海はお肌焼けちゃうから行かない!」って言ってなかった?」
「気が変わったのよ。敵情は視察しておかないとね…」

どうやらモー子さんと呼ばれた彼女は、見た目と違わずクールな性格らしい。
そして敵情視察…

(えーと、もしかしなくても「敵」って俺だよな?)

友人として、最上さんに惚れる男は査定してきた…ってところかな?
しかし、最上さんのはしゃぎ度を見ると、どう考えても『俺<琴南さん』なんですが。
俺、敵にもなってないのでは?

「あっ!敦賀くん、彼女が以前話していた『キュララのCMに出ていた友人』よ?琴南奏江さんって言うの!」

さりげなく散る火花に全く気がつかない最上さんの笑顔で、見た目だけはほのぼのとするその一角。
リックがほわほわと笑う最上さんの頭をぽんぽんと撫でた。

「ハハハ、キョーコは本当にカナエが好きだなぁ!」
「リック先輩…だって、モー子さんは私の自慢の友達なんですよ?」
「でもまるで、友達に恋人を紹介するみたいなノリで、蓮が軽く凹んでるぞ?」
「せ、先輩……やだもう、そういうのじゃないですって……」

頭を撫でられながらぽわんと頬を染めて話す最上さん。
あれ…?この二人、何かいい雰囲気?
もしかして最上さんの好きな人って、リック…だったりする??
リックはティナがいるから『好きになっちゃいけない人』に当てはまる…
想うだけなら、別に相手に恋人がいたりしても関係ないし……

(リックじゃ俺、勝ち目ないじゃん)

小さい頃から兄弟のように育ってきたリック。
今は俺と一緒で、日本に生活の拠点を置きながら、友人と立ち上げたIT関連会社の役員としても働いている。
大学にも「人生いつだって勉強!」と言って、向こうをスキップで卒業したにも関わらず、日本で入り直したのだ。
俺も憧れる『完璧な男』。
彼女の想い人がリックだったら、敵わない……

「びっ、美人だぁ………」

若干凹み始めた俺の背後から、社と貴島のあほみたいに間の抜けた声が聞こえてきた。




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リック「先輩」って………
似合わなさすぎるでしょ(爆)
しかし話の都合上、リックは先輩として出陣していただきました☆
そしていきなりモー子さんの敵認定受けてる蓮くんww
が、頑張れ…!