「あ、蓮ちゃん。待ってたわよ?髪のセット直させて?」

テンさんに声をかけられたが、俺は大した返事もできずに立ち尽くすしかなかった。
白い肌に深紅のキャミソールドレスが映え、キチンとメイクされた幼顔は少女と女性の間の危うさを残した独特の色気を湛え…
いつもの最上さんからは想像できない程、美しい大人の女性へと変身していた。

「……敦賀くん?や、やっぱり私、変かしら?」

思いっきり固まってしまった俺のせいで不安になってしまったのか、しっとりとしたカルゼの裾をひらりと摘まんで眉を困ったように寄せた。
アルマンディが独自に開発したそのカルゼは、最上さんに摘ままれた事で色味を七色に変える。

「い、いえ!その…綺麗です、とっても。」
「本当…?よかったぁ。」

ほっとした表情でふわりと笑うと、本当に心臓が止まりそうで…本当に気の効いた言葉が何一つ出ない自分が情けなくなる。

「ほーら蓮ちゃん!さっさとこっち来てー?ジョンが撮影始められないわよ。」
「あー、はい…」

カウンターの一番奥からテンさんに呼ばれる。
ニヤニヤと気味悪い笑みをうかべっぱなしの社を尻目に、一先ずその場を離れ、ヘアメイクのチェックを受ける。

「おお、やっぱり俺の思った通りだ!君のその装いなら、クオンのあの雰囲気を最大限に活かしたポラに仕上がるな。何てったってあのスーツは、今回うちが一番押したい衣装なんだ!」

機材とスタッフがあらかた揃ったところでやって来たジョンは、最上さんを見てこれでもかと言う位に誉めちぎった。
ジョンと一緒に歩いてきた貴島とトニーも大絶賛だ。
誉められ慣れてないらしい最上さんは恐縮しっぱなしで縮こまってしまっている。

「じゃあクオンとキョーコはそこのカウンター席の前で、適当に喋ってくれ。恋人同士のリラックスした表情が撮りたいんだ。」
「こっ、恋人どう…」

先に所定の位置でセットを終わらせた俺に向かってくる最上さんが、一気に顔を赤らめて動揺した。
…それ、どう捉えたらいいんですか?
「恋人同士」なんて初めて言われてびっくりしたとか?

俺、全く意識されてなかった??
でも今はティーンエイジャーな『蓮』ではなく、このスーツに見合う大人な『クオン』を演じる。

「最上さん…お手をどうぞ?」

背伸びして大人の男を演じ、最上さんに手を差し出す。
頬を染めたままワンピースの裾をひらりと揺らめかせ、俺のすぐ傍まで来ると手を乗せてきゅっと握ってくれた。
そっと握られた手が温かくて、思わず口元がふよっと緩む。

「…適当に喋るって、難しいわ。何をしたらいいのかしら……」
「まぁ、何でもいいとなると難しいですよね。…そのドレス、似合ってますよ?普段のパステルカラーの服も素敵ですけど、その赤も綺麗です。」

今は大人の『クオン』だからと言い聞かせて、綺麗に着飾った最上さんを褒める。
ほわりと頬を染めた最上さんは、上目使いでふわりと笑った。

「不思議ね…前も思ったけど、敦賀くんって本当に人を安心させる力があるのね?それに、ほしい言葉をすごくいいタイミングでくれて…私なんかでも素敵なんじゃないかって思えるわ。

敦賀くんは、いつも私に自信をくれるの。本当にありがとう…」

握られた手から伝わる熱が、今俺だけに向けられるその笑顔が。
そして何よりも、最上さんにとって意外にも大きな存在になれてる事が嬉しくて、撮影中だという事を忘れて思わず背伸びした『モデル・クオン』の顔を崩してしまった。

ジョンの切るシャッターの音も遠くに感じたし、この後最上さんと何を話したのかも覚えていない。
ただ、人を好きになる事でこんなに幸せな気持ちになる事ができるんだと、改めて感じた時間だった。



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ながっ!
しかしここでどうしても入れたかったの!
大好きな膝枕後のエピ!
(膝枕のact自体ももちろん好きなんだけど、私はその後の破顔蓮も好き)
セリフはちょっと変えたけどね。
それと9巻最後の蓮の「おいで?」←あれはキョーコでなくてもふらふら行ってしまうてw
ふほほ、こんな形で好きなエピをねじ込んでみました。
(実は好きなエピソードをちまちま織り込んでいるパステルさん。

だから書き始めると、さっくりさっくり話が進む☆)