昔大ヒットしたドラマのリメイクへの主演。
『ダークムーン』で成功を納めた俺は、その成果を買われ、またリメイク物の主演を任されることになった。

勿論今回のドラマには「彼」が出ていたわけではない。
だけど…不安がないわけでもない。
「彼」の作品でないにしても、過去の偉大な記録を塗り替えるのには、周りを圧倒する演技力とリアリティーが必要で。
役が決まってからずっと、テンさんに頼み込んで理容師の仕事について学んできた。
今日はクランクイン前の、最後の練習。
「依頼」と称して最上さんに触れるチャンスを得た。
役の練習にもなるし、一石二鳥。
彼女と久しぶりに一緒に過ごせる時間を思って、俺は驚くくらい穏やかな1日を過ごした。



シャンプーの泡と最上さんの髪のさわり心地は、思った以上に心地よかった。

「泡を流すね?」
「ん…はぃ……」

とろんとした返事が返ってきて、最上さんに気持ちよくなってもらえたんだと思うと嬉しくなる。
熱すぎずぬるすぎず、お湯の温度をしっかり確認してから、最上さんの泡だらけの頭にゆっくりかけていく。
花の香りを残しながら、排水溝へ吸い込まれていくふかふかの泡。
白い泡の中から現れるのは、水の勢いに従順な柔らかい栗色の髪。
後頭部の泡もしっかり落としたくて、手を差し入れて支えれば素直に重みを預けてくれる小さな頭。
その全てが愛おしくて、永遠にこの時間が終わらなければ…などと思ってしまう。

「終わったよ?……………最上さん?」

シャワーを止めて、顔回りと髪の水気を多少タオルに含めたところで気がついた。
最上さんの反応がいつのまにかになくなっていたのだ。
顔の上の白いガーゼを外してみれば、その向こう側には気持ち良さそうに眠る寝顔が………

「…いつから寝てたんだ。」

ドキドキしていたのは俺だけなのかと、少々がっかりする。
でもよくよく考えてみれば、期末テストも終わったばかりのこの時期に収録時間が延びて。
それでも俺の「依頼」の為に、ここまで駆けつけてくれた……その気持ちが例え「先輩後輩」の範囲から出ることがなくても、俺は嬉しい。

「最上さん?髪を乾かしたいな…起きれる?」

椅子のヘッドを戻してからそっと肩を叩いてみると、意識が少しだけ浮上したのかうっすら目を開けた。

「んー?つるがさん…?」
「うん、起きれそう?」
「んーん?…やぁなの……」

うにゃうにゃ言いながら腕を伸ばされたので体を近づけると、いきなり首にぎゅっと巻き付かれた。
温かくて柔らかい頬が、すぐ横にある。
いきなりの事で、心臓が一拍打つのを忘れて…急激に早くなった。

「も、最上さ…」
「んー…つるがさんだぁ……あいたかったぁ………」

ふふふっと耳元で空気が揺れると、そのまま規則正しい寝息が聞こえてきた。
同時に首回りの腕の力も、急速に抜けていく。

「……参ったな。」

最近はレポートが大量だったり試験期間が近かったりして、会うのを控えていたんだ。
本当は最上さんのスケジュールは社さんが調べあげてくれてたから、その気になればいつでも会いに行けた。
………最上さんも会えなくて「寂しい」って思ってくれてるなんて、知らなかったから。

「もうこれからは我慢しないよ。…逢いたい時には逢いに行くから………」

だから約束の代わりに、眠り姫の額に一つ。
ふわりと唇を落としてキスをした。




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最近は蓮キョどちらかが寝惚けてるのが好きなのでしょうか?
今回は寝ぼけた甘えんぼきょこたんでお送りしました☆

白いガーゼの向こう側に見えたのは、お互いのリラックスした顔。
甘えて甘えられての関係は、両片想いから恋人に変化しても続くんだろうな☆

………ところで、このあと髪の毛は無事に乾いたのだろうか?
そこまでは考えてないなー。