季節を先取りで冬物の撮影。
今撮ってる物が載るのが11月に出すカタログって事を考えたら、そうなるのは当然の事で。
クリスマスのデートにお薦めのコーディネートを撮っていた。

「うーん…やっぱりなんか足りないんだよなー!」

それまで俺に色々指示を出していたジョンの声が止まった。

「クオン自体も服も文句はないんだよ!だけどなー……」

俺が今着ているのは、年齢が20代をターゲットにしたカジュアル目なスーツとダークカラーのストライプのシャツ。
ジョンの指示に従って手に持っていたジャケットを、一度羽織り直す。
モデルの気分を乗らせるためにずっと流れていた、洋楽入りのiPodが止められた。

「どうする?ヘアメイクをガラッと変えてみる?」
「それじゃ求めてるのと変わるんだよー…ん?」

最上さんの隣で座って画像をチェックしていたテンさんが声をかける。
テンさんを見たジョンが、その隣にちょこんと座る最上さんに気がついた。

「………お嬢さん、ちょっと協力してくれるかい?」
「へ?はい、何をすればよろしいですか?」
「よし!じゃあテン、新作の赤いドレスで可愛い目な!ヘアのセンスは任せる。」
「おお!そういう事なら任せて!キョーコちゃんこっちこっちー!」
「えっ?はい?はいーーーっ!?」

背は小さいがパワフルで力持ちなテンさんに、最上さんはあっという間に連れ去られてしまった。

(やっぱりそうなるよね。良かった…)

俺は内心ホッとした。
実は、これを狙って最上さんを見学に誘ったのだ。
既に外で撮り終わっていたこのスーツを、今日再度撮り直すことは知っていた。そしてジョンが、俺単体では物足りなく感じていた事も気付いていた。
だから俺は彼女がモデルとして本格的なメイクと衣装を着れば、きっとこのスーツ自体の色気も表現できるし、最上さんの自己評価も上がって一石二鳥になると思ったんだ。
ジョンが彼女を気にいるかどうかは、結構危険な賭けだったが…

「よし、じゃあ先にコウ・クオンの絡みを撮るぞ!二人ともスタンバイ!あとトニーとヒデの準備はできてるか確認してこい!」

矢継ぎ早に指示を出すジョンに、ため息をつきながら社がスクリーン前にやって来た。

「お前、キョーコちゃんを撮影に引っ張り出すつもりで声かけたな?思い通りに行ったか?」
「………さあね。ほら、始まるぜ?」

日本に来てからずっとの付き合いになる社には、さすがに俺の意図はバレバレらしい。
一度だけにっこり笑うと、目の前で再び始まる光の洪水にモデルの顔を貼り付けて飲まれていった。



女性モデルの準備は、やはり男のそれより時間がかかる。
今日撮る上で絡みのある貴島とトニーも撮影が終了し、あとは最上さん待ちになった。

「クオン。今日は暑いんだが、どうしてもこのカットは外で撮り直したいんだ。『心心』に今お願いしてきたから、移動してくれるか?」

ジョンに言われて、飲みかけのペットボトルを持つ。
冬物の撮影だから、汗を見せるわけにはいかない。
移動の間にも汗が衣装に付かないようにタオルも持った。

『心心』はすぐそばにあるオープンカフェだ。
カウンターの雰囲気がジョンのお気に入りで、本当に気に入ったカットに仕上げたい時に使われる。

(よっぽど気に入られる出来だったのかな?)

徒歩3分もかからない道程を社と一緒に歩く。

「キョーコちゃんの出来が気に入ったのかな?蓮も楽しみだなー?」

また「ぐーふーふー」と気味の悪い笑みを浮かべる社を適当に放置しながら店の入り口をくぐると、先に到着していた最上さんの姿が目に入った。



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長いな撮影の回!!
3話くらいで終わらす気だったのに…
こだわり出したら止まらない。
だけど本当に細かく書くとぼろ出まくるので、適当に誤魔化してみたり………
ああどっちなの!

きょこたん変身☆
蓮はどう出るのかな?