スタジオ内は撮影中で、ストロボがたかれる度に目の前が真っ白になる。
背景紙が白だから、余計にそうなるのかもしれない。
隣にいた最上さんを見るが、残念ながら強い光のせいで姿をぼんやりとしか確認できない。

「最上さん、目は大丈夫ですか?」

撮影に多少は慣れてる俺ですら見えてないから、最上さんは全然見えてないはず…
隣にいるはずの最上さんに、そっと声をかけた。

「撮影中ってこんなに眩しいものなのね。全然敦賀くんが見えないわ……ってきゃ…」

最上さんは俺に向かって手を伸ばしてきたが、何せお互い目がまだ慣れてなくて見えてこない。
伸ばされた手のひらが俺の唇にふにゃっと当てられると、ビックリして後ろに下がる。
慌てて飛び退いたために体勢を崩した最上さんをおもいっきり引っ張ると、強く抱き締めた。

「ごっ、ごめんね敦賀くん。」
「最上さんが大丈夫なら…」
「おー、クオン戻ってきたかー?」

その時ちょうど撮影が終わり、カメラを構えていたはずのジョンがこちらに声をかけてきた。
隣にいたテンさんも振り向いた為、慌てて体を離す。

「はい、お待たせしました。」
「こんにちはキョーコちゃん!」
「こんにちは、今日は見学でお世話になります。」

ペコリときれいなお辞儀を見せる最上さん。
俺はそばにあったパイプ椅子を最上さんのとなりに置いた。

「これに座って見ていってくださいね。俺はこれからヘアチェック受けるので…」
「あ、キョーコちゃん!こんにちはー。クオン、俺がここにいるから安心して行ってこいよ~」

機材の前から移動してきた社が、さりげなく最上さんの横に立つ。
若干面白くないが、今日は他にも数人モデルは入っている。
余計な馬の骨がそれで付かなくなるのならば、多目に見よう…

「あ、キョーコちゃん。モデルとしての蓮は『クオン』って名乗ってるんだよ。芸名みたいなもん?ちなみに俺は『コウ』なんだ。」
「へえ…!そうなのね!」
「まあ別にたいしたことないですけど…じゃあ行ってきます。」
「いってらっしゃい、『クオン』くん。」

他愛もないことだけど、彼女の「いってらっしゃい」に、つい頬が緩む。
俺って結構単純なやつなのかな?
ただそれだけの事なんだけど、やる気がどんどん湧いてくる。

「蓮ちゃんて…ホント可愛いわねー。」

着替えた俺にテンさんがしみじみと声をかけてくる。

「そりゃ子供の時はそうかもしれませんけど」
「ううん、そういう「可愛い」じゃないわよー。キョーコちゃんの事、ホントに好きなのねー!メロメロじゃないー♪」

俺の髪にワックスを付け、ブラシを入れながら後ろへ綺麗に流すテンさん。
ニコニコしながらずびしと言い当てるのは相変わらずで……

「お願いですからソレ、両親には言わないでくださいよ?煩くてしょうがないんですから。」
「だってまだ1か月はフランスでしょう?言っても帰ってこられないわよ~」
「あの人たちなら、絶対帰って来て引っ掻き回しますって…」

うちの両親はとにかくパワフルで、職業柄もあるが年がら年中あちこちの国へ飛んでいる。
しかし…お祭り事が大好きで尚且つ俺の色恋沙汰となると、まず間違いなく仕事をうっちゃって帰ってくる。
最上さんの事は本当にそっとしておいて欲しいな…

「はい、出来た。キョーコちゃんの前でしっかりカッコつけてらっしゃい!」

座ってる俺の方をぱんっと思いっきり叩くテンさん。
ちょっと痛いな…なんて思いもしたけど、すっくと立つと、ゆっくりとカメラの前に向かいスタンバイした。




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最近すっかり1話が長めに。
いや、他の方のところから考えると、うちはいつも短めなんだけど。
撮影現場って見学したことはないので、あくまでも想像で書いてます。
細かいことは突っ込まないでくださると嬉しいな……