「キョーコ!今日は面白いものを見ないかい?」

お日様がポカポカとあたたかい、午後のゆったりとした時間。
クーパパが一本のビデオテープを持って、リビングに現われた。
隣に座っていたジュリママがそのテープを見て、即座に反応する。

「あら!あなた…懐かしいわねぇ。久遠も丁度いないし、いいんじゃない?」
「ああ、そうだろう?久遠がいたら見せてくれないからな!」

クーパパは、私達が座っていたソファの前に設置されていたテレビの電源を入れ、それに繋がる古いビデオデッキにテープを飲み込ませる。

「パパ?それは久遠がいると見られないものなの?」「そうだねぇ、久遠は恥ずかしがってテープを壊しちゃうからね。」

クーパパもジュリママもウキウキしている。
私も何が始まるのかドキドキしてきた。

広いリビングに見合うだけの大きさを誇る、大画面に映し出されたのは…昔の幼い頃の久遠・ヒズリの姿。

『久遠が今日はハイハイを成功させた記念日なんだ!』
『ほら、久遠?パパの方を見て?あなたの可愛いお顔をしっかり見せてあげて?』
『あーうー?』

今とたいして変わらないママと一緒に映っていたのは、目がくりっとした金髪碧眼の赤ちゃん。
顔も体も赤ちゃん特有の丸みを帯びたふっくらむちむちで、本当にお人形のよう。

「かっ…可愛い~~~!!これ、久遠なんですか!?」
「どうだキョーコ!君の夫は素晴らしく可愛らしいだろう!?」
「本当に可愛らしいわぁ!まるで天使のようね!背中に羽が隠れてるんじゃないかしらっ!」

パパもママもテンションが一気に上がっている。
と、その時背後でガタンと物音がした。
振り返ると、そこには顔を真っ赤にさせた久遠が………

「なっ…何てものをキョーコに見せてるんですか!!今すぐ消してください、今すぐ!!」
「ダメよ久遠!これはママの命なのよ?これがなくなってしまったら、私の命はもう残り30秒だわっ!!」
「ああジュリ!!そんな事にはさせないから大丈夫だよ?私が必ずテープを守って見せるからね!?」
「とにかく何でもいいから、その上映会を止めてください!」

真っ赤な久遠はTVのリモコンを取り上げて電源を落とすと、私の前にしゃがみこんだ。
そしてお腹をそっと撫でる。


こぶたのヒトリゴト。



「ごめん、大きな声を出して…ビックリしちゃったかな?」
「うーん、どうかしら?もうお耳はハッキリ聞こえてる頃だから、パパの声が聞こえて嬉しがってるんじゃないかしら?」

事実、身体に対して大分膨らんだお腹の中からは、久遠がそばに来てくれてからぽこぽこと元気な反応が返ってきている。

「それに私も久遠の赤ちゃんの頃が見られて嬉しいわ。本当に天使みたいに可愛かった!」
「キョーコまで母さんみたいな事言わないの…結構恥ずかしいんだよ?」
「そう?私は久遠に似た可愛い子がいいなぁ。」
「俺よりキョーコに似た方が絶対可愛いよ!」
「いや、どちらに似ても可愛いぞ!」
「そうよ~!久遠もキョーコも、本当に可愛い私達の子供なんですもの。」

パパとママも座ったままの私の頭を、よしよしと撫でてくれる。

「だからまずはゆっくりリラックスして、予定日まで元気に楽しく過ごそう?今日は珍しく家族全員休みなんだ。」
「そうね。久遠もお休みが一緒って、なかなかないものね。」

アメリカで出産するために渡米したのはもう3ヶ月も前の話になるのに、実は家族全員揃って休みになったのは今日が初めてだった。
こんなに暖かい家庭に迎え入れてもらえて、私もこの子も本当に幸せだなぁ…

「ありがとう…パパ、ママ……」

隣に座っていたママと、ぎゅっと抱擁を交わし、立ったままのパパとは握手をする。

「二人とも、俺のキョーコなんですけど…」

まだ私の前に座り込んだままの久遠は、少しだけ不服そう。

「久遠も、いつも私の事愛してくれてありがとう。」

目の前の久遠の額にそっと口付ける。

「さぁ、せっかくみんなお休みなんだから、ベビー用品見に行かない!?まだお洋服足りないと思うの!」
「ああ、そうだな!新作が出たと、アルマンディのベビー部門から連絡があったんだ。」
「えっ!?もう一部屋埋まるくらいにはグッズも揃ってますし、要りませんよ!?…って」

慌てて止めようとするが制止の声は二人には届かずに、さっさと出掛ける支度の為にリビングを去られてしまった。

「くっ久遠~っ!」
「しょうがないよ…今日は諦めよう?ああなったら止まらないから…」

久遠も一つため息をつくと、立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。

「立てる?体調悪くなったらすぐに言うんだよ?」
「うん。…生まれる前からこんなにみんなに愛されてるんだもの。この子は幸せね?」

立ち上がりながらお腹を撫でる。
お腹の中からは『幸せだよ』と返事をするように、ぽこんと一つお返事があった。





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庭でZyonkoさんと話していたネタから出来たSS。
なんかもっとコメディ調になる予定が、ほっこりーな感じで終了。
しかも最後は尻切れトンボな気が…
でも続かない。

ネタ提供してくれたZyonkoさんに捧げます☆