そのステキ感性に絶賛片想い中ないつきさんのブログから妄想、だから想像(汗)


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まだ、朝の爽やかな空気よりも夜闇のほうが強い時間。
俺は現地ガイドのおじさんが教えてくれた方法で、その敷地内へと入っていった。

いかにも南国の庭園と言った雰囲気の広大な土地の中でも、俺が目指す場所は一番奥にある。
ホテルから近いとは言っても、あんまり遅くはなれないから……
今朝の撮影は、いつもより少し早い時間に始まる。
だけど、その言い伝えを聞いた時、どうしてもそれを実行したくなった。
…するなら今朝しかない。
月の光に導かれて進んでいくと、目的の木が目の前に見えてきた。



『満月の夜明けにまだ朝露に包まれたプルメリアの花を摘んで、レイを作って好きな人に渡すとその恋は叶う』
この手の言い伝えは結構どこにでもあると思う。
だけど、一緒に撮影で来ていた彼女の瞳がキラキラと輝いて「それ、本当ですか…!」と、ガイドに聞き返していた。
それを見て、この白い花をぜひ彼女に贈りたくなったのだ。
さらに奥にはピンクの花を付ける種類もあると言われたが…この白いプルメリア・オブツーサが、まだ純情乙女の域を出ない彼女にピッタリだと思う。
白く甘い香りを発する花は、恋する事に怯え、汚れを知らない彼女そのものだ。

瑠璃色の空がどんどん明るみを増してくると、その白い花は露のアクセサリーをキラキラと光らせ始めた。
夜明けが近い…そろそろ摘んでもいいかな?
そっと一輪摘んでみる。
甘い優雅な香りが、自分の指にも移り香る。
肉厚な花弁は触り心地も良く、彼女の頬のようだ。

(最上さん…喜んでくれるかな?)

出来ればレイを渡すのと一緒に告白して、受け入れてほしい気持ちは山ほどある。
が、純情乙女は恋愛に関しては未だ眠れる森の美女。
無理やり叩き起こそうとして、予想もつかない切り返しが来たのは記憶に新しい。
やはりここは慎重に行かなくては………

「………敦賀さん?」

ところが数個摘んだところで、贈りたいと願っていた相手の声に名前を呼ばれてしまった。

「最上さん……?何して…って、女の子がこんな時間に1人で歩くのは危険だって!」
「えっ!?あの、」
「早くホテルに戻ろう。」

彼女の腕を掴もうとすると、それより早くに最上さんは俺の掌の中の花を持った。

「敦賀さん…もしかしてあの言い伝えを?」
「え、いやその……あんまり綺麗だったから、目も早くに醒めてしまったし。」

自分でも驚くくらいしどろもどろな口調になる。
俺、何年俳優やってるんだ………!!
こういう時こそ平常心を演じるべきだろう!

「そう、ですか…あの言い伝え通り、幸せになれるといいですね?私の事はどうぞ構わないでください。」

恥ずかしくて少し目を逸らした隙に、彼女は庭園の更に奥を目指して歩き始めてしまった。

「ま、待って!だから一人じゃ危ないって…」
「今は一人になりたいんです…っ!」

慌てて肩を掴むと、思った以上に強い拒絶が返ってきた。
しかしその声と肩は震えているし、顔は今にも泣きそうに歪んでいる。

「どうして泣くの…」
「泣いてなんかいませんよ。敦賀さんはご自分の好きな子の為に、お花摘んで早く戻られたらいいじゃありませんか!」

顔をくしゃりと歪ませて必死で逃げようとする君。
もしかして誤解されている?
俺が好きなのは君しかいないのに……!
片手に持っていた花を落として、暴れる彼女を抱き締めた。
白い花がはらはらと宙を舞い、足元の草へと散らばっていく。

「良くないね。好きな子が泣いてるのに、放っておく事なんてできないから。」
「何仰ってるんですか…あなたみたいなすごい人が、私みたいなの…」
「私みたいなのなんて、言わないで?俺が好きなのは君だよ?最上さん」
「嘘…うそ…っ!そんなはずない…」
「本当だよ?ずっと、ずっと好きだったんだから……」

彼女が落ち着くまで、背中をひたすら撫で続ける。
やっと腕の力を抜いても暴れる事のなくなった最上さんの栗色の髪に、新たに一輪花を摘んで、そっと耳の上に差し込んだ。

「言い伝え通りのレイじゃないんだけど…君が好きだよ?出来れば恋人になってほしいんだ。」

花を差したのとは反対の髪を梳きながら、思いを告げる。
だいぶ明るくなった空の下、最上さんはポツリと小さく声を漏らした。

「ずっと…片思いだと思ってたのにな……」

静かに朝日が射し込もうとする庭園で、俺はついに恋愛拒絶症だった彼女の心を捕えることに成功した。
朝露と甘い香りが運んでくれた奇跡を、俺は多分、一生忘れる事はないだろう。



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プルメリアの言い伝え…いやん、ステキ!
だなんてテンション上がりまして…もうホントいつきさんのステキ感性に憧れつつ、残念無念な文章で申し訳ありません。

プルメリアの中でも色々種類があるそうなのですが、白色で一般的に園芸用として出回っているのはオブツーサ種の『シンガポールホワイト』と言うそうです。
見る機会があったらぜひ見てみてください。