「あのー…離れていただけますか?もうご飯できますから……」
「んーん?もうちょっと………」

今夜は敦賀さんの自宅にご飯を作りに来ているのだけど…
忙しく台所を走り回る私には、がっちりと敦賀さんが巻き付いている。
包丁持ってる時にはさすがに「危ないので離れてください!」と、包丁かざして叫んだら離れてくれたけど…

「んもうっ!本当にもうちょっとでできますからっ」
「だって…やっとキョーコと本当の恋人同士になれたんだよ?もう1分1秒も離れていたくないんだ。」

巻き付く腕に更に力がぎゅうっと入る。
……わかる、わかるわ!この気配!!
あのおっきなワンコをまた背負ってるわ!
もう顔を見なくてもわかっちゃうわ……っ!

「~~~っ、でもですね?私は今夜、敦賀さんにご飯食べてほしくて来たんですよ…?これじゃ食べてもらえないです。」
「うん………でももう少しだけ………」

ああ…ワンコが3匹に増えてるわ!
もうっ、敦賀さんったら甘えん坊なんだから……。

「もう…少しだけですからね……?」

お鍋を掻き混ぜていたお玉を置いて、巻き付く腕にそっと両手を添える。

「ねぇ、キョーコ?……今夜は泊まっていかない…?」
「………え?でも…」
「キョーコがそばにいると、よく眠れるんだ。まだ時差ボケも直ってないみたいだし、一緒に寝てくれない………?」

考えれば、アメリカから突然連れ帰られた敦賀さん。
昨日は時差ボケを直すどころじゃなかったのね……
きっと明日からまた仕事が詰まってるだろうし、こんな抱き枕で直るのなら喜んで!

「はい!いいですよ?じゃあ女将さんに連絡を……あれ?」
「ん?どうしたの?」

言い訳をなんてしようか考えていた時、ふと気が付いた事があった。
私………最後に敦賀さんのお部屋にお泊りしたの、結構前じゃない?

「いえ…考えてみたら、お泊りって久し振りで。」
「そうだね。…半年くらいかな?」
「………ああ!あの日ですね?…まさか半年で、敦賀さんと、その………えと、」
「エッチするとは思わなかった?」
「ぎゃあぁっ!恥ずかしいから言わないでくださいぃ!!」

恥ずかしくてもごもご口籠もっていたら、耳元でふっと囁かれ、また身体がびくっと大きく跳ねる。
しかもそんなはっきりと言わなくても良いじゃないですか!!

「そんな反応しないでよ…俺、結構耐えたと思うよ?清い交際期間だったと思うけど……」
「どっっこも清くなんかありませんでした!!」

あれだけ破廉恥行為を施しておいて、何をおっしゃいますか!
まあ、受け入れられるようになった私も私なんだけど……

だけど、半年前の私じゃきっと想像つかないだろうな?
こんなに敦賀さんの事、好きになってるだなんて………
大好きで大好きで、言葉だけでは伝えきれなくて。
伝えられなかった分を、こうして抱き締めたりキスする事で伝えるんだってわかっちゃった。
この気持ち、全部敦賀さんが教えてくれた………

「……えへへっ、大好き。」

目の前にあった敦賀さんの腕にしがみつき、手の甲にそっとキスをした。
伝わるかな?私の今の気持ち………

ところが、敦賀さんは固まってしまった。
あれ?私何かしたかしら…?と思った瞬間、いきなり手を振りほどかれて横抱きにされてしまう。

「きゃあっ!な…何!?」
「ごめん、キョーコ!今すぐシたい!!」
「はあっ!?何を仰ってるんですか!ご飯は…」
「必ず食べるから!だから寝室行こっ!」
「ちょっ、待って!ご飯…」

軽々と私を抱き上げた敦賀さんは足早に寝室へと向かい、さっさとドアの鍵を掛けてしまった。

「いーやーぁっ!!!」





女の子にとって、とってもとっても一大事な『それ』は。
ただ『好き』ってだけじゃ許してあげられないんだから。
だからこの気持ちが『シンカ』するまで、出来ればゆっくり待ってくださいね……?

ね?大好きな敦賀さん。



〈Fin………?〉


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