「敦賀さん…!どうして!?」

振り返った先には、シルバーグレーのカジュアルスーツを着こんだ敦賀さんがいた。
2階から続いている階段を1段ずつゆっくりと降りてくる。
おそらくスーツはアルマンディの物なのだろう、彼のために誂えられたと思えるそれは、ただ階段を降りてくるその姿を優雅に演出する。
私は胸が一杯で苦しくなった。
ずっとずっと会いたかった。
声を聞きたかった人が、今、私の目の前にいる…

「その…皇貴さんと社長の付き人に拉致られて……」
「撮影は終わったんですか?」
「うん、何とかね…」

階段を降りきったところで、待ちきれなくて走り寄って抱きついた。

「お帰りなさい……っ」
「ただいま…キョーコ。」

敦賀さんもぎゅっと抱き締め返してくれた。

ふわりと香る敦賀さんのフレグランス。
肌ざわりのいいジャケット越しでもわかる、鍛え上げられた身体。
安心できる温かな体温。
頭上から降ってくる柔らかなテノールは、どんな言葉を紡いでも聞き惚れる。

(………なんだ。私、思ってたよりもずっとずっと敦賀さんの事…好きなんだ。)

顔を見たら、今まで悩んできた事はどうでもよくなった。
声を聞いたら、嬉しくて胸が一杯になった。
抱き締められたら、もっともっと敦賀さんの事知りたくなった。
その気持ちが何か…もうわからない私じゃない。

「敦賀さん……私、欲しいものがあるんです。」
「…それは俺でも叶えられるもの?」
「はい。」

私は抱きついていた腕を離して敦賀さんの胸に置き、力を入れて身体の距離を離した。

「敦賀さんを私にください。」

きょとんとする敦賀さんの目をまっすぐ見て…一番欲しいものを告げる。

敦賀さんは意味がわからなかったのか暫くきょとんとしていたけど、そのうちだんだんと頬を赤く染めていき、ついには口元をおさえそっぽを向いてしまった。

「えっと…キョーコ?それ、言ってる意味わかってる?」
「はい。わかってますよ?」
「聞きようによってはプロポーズにも取れるんだけど…」
「ああ!そこまでは考えてませんでしたけど。でも、敦賀さんの事が大好きです。」

にっこり笑ってキッパリハッキリ言い切ると、敦賀さんは「あ~~~っ!!」と唸りながら、くしゃくしゃと髪を掻き上げた。

「キョーコにはホント適わないよ……本当はもっと格好良く渡したかったんだけどな。」

そう言うと、敦賀さんはズボンの後ろのポケットから、小さなネイビーブルーの箱を出した。
ベルベット独特の艶の中で輝いていたのは、たくさんのダイヤが輝くエンゲージリング。

「最上キョーコさん。11年前のあの日から、ずっとずっと好きでした。これからもそれは変わりません…変わらず愛します。だから、俺と結婚を前提にお付き合いしてください。」

まるで王子様のようにひざまついて、私の前に指輪の小箱を差し出す敦賀さん。
メルヘンなものが大好きで、こういうのにずっと憧れてたのを知っててくれて…だからこうして演出してくれるんだよね。
私の事、本当によくわかってくれてるから…私もそれと同じくらい、敦賀さんの事知りたい。

「はい…っ!私で良ければ喜んで!」

片膝立ちしている敦賀さんの首に思いっきりしがみ付くと、敦賀さんは少しよろけてしまったけど。
だけどしっかり抱き返してくれた。




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という訳で、ラブレボの中で一番書きたかったシーン、やっとキターーー!

『生殺しの末の逆プロポーズもどき(の後、照れた蓮からプロポーズ返し)』
これが書きたかったのさ!
たくさんの生殺しは、全部ぜーんぶこの日の為。
ああ、58話だって……
道程長かった。

………ん?リク内容にこんなの入ってないって???
最初に言ったじゃないですか~。
『いい湯過ぎてとんでもない妄想ができた』って。
こういうのも全部ひっくるめてトンデモ妄想です!!
(seiさん勝手に暴走ごめんなさ~い!)