―――ふろむ☆つるがびじょん!―――


結局渡米するまでの数日間で、ある程度のスケジュールはこなさないといけなくなった。
毎日深夜遅くに帰宅して、日が昇る前に出掛けていく。
睡眠時間は3時間あればいい方だった。

キョーコにはわざと何も言わなかった。
今のこの精神状態…昔俺を切り捨てたハリウッドへ再挑戦する緊張と、仕事を詰め込んで切羽詰まる気持ちでは、きっと彼女に優しく出来ない。
2ヵ月近くもキョーコと離ればなれ…そんな状況になるのなら、間違いなく俺は暴走して彼女を壊してしまいそうだから…
最近は触れる事にも慣れてきて(彼女いわく)破廉恥な行為とやらも、素直にさせてくれるようになったのに…恐がらせたくはない。
だけど無理をすれば精神状態はますます悪化の一途を辿るもので……



「とりあえず、これで今日明日は日付前に帰れるスケジュールだろ?…だから今夜しっかり寝て、明日キョーコちゃん補充してからハリウッドへ行くからな?」
「………はい。」
「まだキョーコちゃんに言ってないのか…?キョーコちゃんの事だから気に病むぞ!?『何で相談してくれなかったんですかー!』とかさ?」

それはそうだ。
キョーコの性格からしたら、知ったら必ずそう言うだろう。
だけど、自分の中でもうまく処理できないこの気持ちを、キョーコにぶつけても…

「まあ、お前も何か考えがあっての事かもしれないけどさ?前日になって突然言われるキョーコちゃんの気持ちも考えろよな?」
「…はい。」
「じゃあとりあえず、今夜はこれで帰るよ。明日の朝までに連絡くれれば、必要な物は買っておくからな?お疲れ様!!」

びしっと人差し指をさした後、社さんはマンションのエントランスを出ていった。
今夜のキョーコは、確か遅くまでの仕事だったはず…電話をかける前に荷物を準備してしまえばいいか。
エレベーターに乗りながら、なんて切り出そうか考える。
ところが、最上階に着いて扉が開くと、部屋のドアの前に蹲る人影があった。

「キョーコ…っ!どうして……」

慌てて駆け寄ると、キョーコは泣き出しそうに歪んだ顔をしていた。
その表情が、彼女の言いたい事を全て物語っていた。

「…つるが、さん……ハリウッドからのオファー、本当ですか…?」
「……うん。黙っててごめん。」

ゆっくり立ち上がらせると、背中にぎゅっと細い腕が回される。
その腕は震えていて、どうしようもなく愛おしくて…俺も力一杯抱き締め返した。



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敦賀氏ぶつくさ編。
最近蓮の心理を暴くのがなかなか楽しいです。
ギャグでもメロキュンでもね♪