「えっ…敦賀さんにハリウッドからのオファー……?」
「みたいなの。私も緒方監督から聞きかじっただけだから、詳しい事はきいてないんだけどね?」

CMの共演で久し振りに会った百瀬さんから、敦賀さんの話を聞かされた。

「もともと決まってた準主役の替わりを探していて、あちらの監督が嘉月に一目惚れしたらしいのよ。それで緒方監督に『嘉月役を紹介してくれないか!?』ってすごい勢いで連絡が入ったらしいわ。」
「そう、なんだ………」

その話来たの、つい最近なのかしら…?
週末会った時にはそんな話し、一言も出なかったのに。

(悩んでたのかしら…でもそれにしても教えてくれたって…)

確か先週で、敦賀さんの今クール放送中のドラマ撮影は終了しているはず。
同時進行で映画の撮影もしているけど、あとは季節待ちでほぼ撮り終わってるに等しい。
渡米するなら今が絶好のチャンス…
でも………それってしばらく会えなくなるっていう事だよね?

(そんなの、嫌かも…)

『恋愛しか頭にないバカ女』になんて、戻りたくない。
最近はお芝居やバラエティーの仕事を通じて、新しい『最上キョーコ』をどんどん作れていってると思う。
敦賀さんに認めてもらって、あんなに憧れた女友達もどんどん増えてきてて…
本当に毎日が楽しい。
だけど…敦賀さんにそう簡単に会えない日が続くの?
そう思っただけで、急に胸が苦しくなる。
ハリウッドの撮影ってどういう感じなのかわからないけど…
でも確実に月単位で渡米するって事だよね?

敦賀さんが代役と言えども、ハリウッドから大抜擢を受けたのは嬉しい。
後輩としても、か…彼女としても(ごにょごにょ)。
だけど、嬉しいのに苦しいって…いったいどういう事なの?

「京子ちゃん?大丈夫?顔色悪いわ……」
「え…ああ、大丈夫です…」
「そう?大丈夫ならいいんだけど…」

すっかり黙り込んでしまった私を、百瀬さんは心配そうに覗き込んでくれていた。
やだわ、また私ってば思考の小部屋にさ迷いこんじゃって…

「でもちょっと意外だったかな?京子ちゃん、敦賀さんと仲が良いからてっきり聞いてるかと思ってた。」
「あ…いえ、そんなには……」
「まあ対外的には話を出してないみたいなんだけどね。私も緒方監督にお会いしなければ知らなかったと思うし。」

百瀬さんは敦賀さんと私の交際は知らないし、他意があるはずはないんだけど…
『仲が良いのに知らされていない』事にも軽くショックを受けた。

(私って、敦賀さんにとって何…?)

お得意のネガティブ思考が加速する。

「はーい!じゃあチョコレートの準備が出来ましたので、撮影再開しまーす!!」

その時アシスタントさんの大声がスタジオ内に響き渡り、私は百瀬さんと二人でセットに向かった。



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この回はほぼキョーコの内心の葛藤で終わってしまいましたね。
逸美ちゃんとの共演はガーナのチョコをなんとなーくイメージ。
もうただ何となくですけどね…?