両手いっぱいに段ボールを抱えた最上さんは、前が見えておらず、ふらふらしていた。
普段なら『俺がやっておくよ』と誰かしらが声をかけていそうなのだが…
よほど店が混んでいるのか、真面目な彼女がそのままにしておけなかったのか。
どちらにしても二人で話をするチャンスだから、さりげなく段ボールを奪い取った。

「持ちますよ?」
「わっ…あ、敦賀くん。休憩中なんじゃ…」
「大丈夫、缶コーヒー買いに行くところですから。ドアを開けてもらえますか?」

外へのドアを開けてもらうと、むわっとした空気が流れ込んでくる。
今日も天気は快晴。絶好の海日より。
海水浴客には最高かもしれないが、働く側としてはなかなかきつい気温と湿度だ。
建物の横にある物置場にドサッと置くと、最上さんが小銭入れを持ってやってきた。

「私も少しだけ休憩もらったの。一緒に行きましょ?」

そう言われると、じっとりと肌にべたついてくる周りの空気よりも、俺の方が熱くなれるんじゃないかと思うくらい胸がドキドキしてくる。
あれからなかなか二人きりになれる時がなかったから、どう接したら良いのか緊張する。
だけど、それ以上に嬉しい。
一番近い自販機までは数十メートルだけど、その距離ですら今の俺には浮かれる程嬉しい距離だ。
特別何も話す事はなくて、だけど隣を歩くだけでも俺にとっては特別。

こんな気持ち、最上さんに会うまで知らなかった……
俺の肩より下の位置でさらさらと揺れている茶色の髪と、ふんわりやさしい表情を見つめながら、自販機までの道程を踏みしめる。

「敦賀くんは何飲むの?手伝ってくれたお礼にお姉さんが奢るわよ?」

自販機の前まで来たら、最上さんはさっさとお金を入れて、さあさあと勧めてきた。

「いいですよ!むしろいつも弁当作ってもらってるんだし、俺が払うべきですよ。」
「遠慮しないのー、私が勝手に決めちゃうわよ?」

えいとばかりに、最上さんはボタンを押してしまった。
それは、いつも俺が飲んでる缶コーヒーで…
いつも飲んでいる物もさりげなくチェックしてくれていたのかなと思うと、胸が一層ドキドキしてきた。

「私はキュララかな?たまに炭酸が飲みたくなるのよ。」

そう言いながら、ガコンと落ちてきたペットボトルを取り出す。

「しかもね!私の親友が昔キュララのCMに出てたんだって!すっごい美人で演技が上手なのよー♪だから余計に好きになっちゃうの!」

よっぽどその親友が大好きなのか、喋る口調に、胸の前に作った拳に力が入る。
そんなに彼女に好かれて羨ましい…
そう思った時、突然背後から声をかけられた。

「蓮…っ!」



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ビターでもやったけど「声かけたの誰だよ!!」的、超気になるところでぶった切り!
あ。こちらは設定がパラレルなだけに、ほぼ原作登場キャラで参ります。
よっぽどのことがない限りはオリキャラは出したくない。