触れた肩は思っていた以上に細く華奢で、俺は戸惑った。
涙を必死で堪える姿が痛々しい。

「だって、迷惑だって…ずっと、言われ、てて……」
「俺は、そんな事思いません。
最上さんには、いつでも笑っていて欲しいですから……」

何て言ったら最上さんに伝わるのかわからなくて、とにかく必死に言葉を探す。

「ほんとうに、めいわく、じゃない……?
ないても、いいの?」

既にポロポロと涙は溢れてきていて、言葉は片言になってしまっている。
本当に、今まで彼女には泣いていい場所なんてなかったんだ……。
少し戸惑ったけど、ハンカチとか気の利く物を持ってないことを思い出して、思い切って最上さんの華奢な体を包み込んだ。

「はっ、ハンカチとか持ってなくて…っ
その、見ませんから!絶対見ませんから………」
「……うっ…ふぅ、うわあぁぁん…っ!」

ずっと堪えていたものが、一気に決壊したように激しく泣き出す彼女。
まるで、母親とはぐれて迷子になった、幼子のような悲痛な叫び声に胸が痛む。
ただひたすらに泣き続ける彼女の背中を、俺はさすってあげる事しか出来ない。
そんな無力な自分が虚しかった。

それと同時に俺は、唐突に、最上さんの事を好きなんだと気付かされてしまった。
一体いつからだったんだろう。
初めて会った時は、ただ『可愛いな』程度にしか思ってなかったはずなのに。
……………。
いや、初めて会った時には、きっともう好きだったんだ。
彼女の事が気になって、会えない日は寂しくて。
会えると嬉しくて、少し苦しくて、それ以上に幸せな気持ちになる。
何を見て、何を考えて、何を思っているのか知りたい………
今まで付き合ってきた彼女達には申し訳ないけれど、こんな気持ち初めてだ。

俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる、茶色の頭。
腕にすっぽりと収まる、柔らかくて華奢な身体。
謙虚で女の子らしくて、でもちょっと強気な一面もあったりする性格。
その全てを守ってあげたい。
彼女の隣に立つ権利が欲しいと、心の底から願った。



オレンジに染まった空が、今度は闇夜に向けて瑠璃色に変化しはじめた頃。
よくやく最上さんは泣き止んだ。
しゃくり上げて乱れていた息も、今は落ち着いている。
俺はずっと彼女の背中を撫で続けていた。
ワンピースのその一部分だけ肌ざわりが変わってしまうんじゃないかと、心配する程には 撫でているかもしれない。

「………敦賀セラピー…」
「……え?」
「敦賀くんって、不思議ね…マイナスイオンとか出てるのかしら?」
「…おれは、空気清浄機ですか?」

まさかの家電扱いに、かなりがっかりする。
空気清浄機って…あってもなくても変わらないじゃないか………

「ううん!そういう事じゃないのよ?
何ていうか…敦賀くんの腕の中、とっても落ち着くの。
それに私、自分からこの事話したの初めてなのよ?
カウンセラー目指してみたらどう?」
「…考えてみます。」

『落ち着くんだったら、もっとずっと側にいてください』と言いたかったけど、やめた。
それは本当の彼氏彼女になってから言う台詞だ。
今告白したところで、弱みに付け込んでるみたいでいい気がしない。
最上さんの一番になれるように、今は懐の大きな男を目指して頑張ろうと心に決めた。



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やっとこさ自覚した蓮くん。
ストック0はなかなかきつい!
寝落ちが命取り。
だけど今夜も危険水域。疲れて寝ちゃいそう………