「よう、キョーコ。」

馴れ馴れしく最上さんに話し掛けるこの男を、俺はどこかで見た事がある気がした。
どこだったっけ…

「ショータロー……一体何の用事かしら?」

応える最上さんの声も、可愛いながらいつもより数段トーンが低い。

「つれねえなあ、婚約者様が会いに来たって言うのに」
「元よ、もう婚約者なんかじゃないわ。」

………婚約者!!
こいつが最上さんの?どういう事だ!?

「……敦賀くん、社くん。悪いんだけど、先にお店に向かってくれる?
私は少し話をしないといけないから……」

最上さんの声はどこまでも固くて、有無を言わせない気迫があった。
すごく気になりはするけど口出し出来ない雰囲気に、ただ頷いてその場を離れる。

「あれって、ミュージシャンの不破尚だよな?俺、前の撮影の時に会ったんだよ。」

社がこっそり耳打ちしてくる。
ミュージシャン…?あぁ、そう言えば去年付き合った子の中で何人かファンだって言ってた子がいたような。
あれ?今年だっけ?まあそんな事はどうでもいい。

なんであいつが彼女の『婚約者』と名乗ったのか。
それがすごく気になる。
彼女はどうも好んではいないようだけど、一体どんな関係なのか。

(後で聞く事出来るかな……)

そう思いながら、振り返って後ろで話してるはずの最上さんを見やった。
彼女はカバンから鋏を取り出し、自分の三つ編みにかけて―――切り落とした。

「キョーコ!てめぇ…っ」
「…!!最上さん!?」
「キョーコちゃんっ!」

慌てて二人が話している所へ戻り、割り込む。
最上さんは切った髪を不破に向かって投げつけた。
真っ黒な美しい髪が、青いゴムからすり抜けてハラハラと散っていく。

「………」
「…わかったでしょ、あんたとの結婚に憧れていた私はもういないの。
おじ様方にも申し訳ないけど、あんたの為に京都へ戻るなんてまっぴら御免だわ!嫁探しをさっさと再開させてちょうだい。」
「……ちっ、今日は出直すよ。」

そう吐き捨てると、不破は近くに停めてあった車に乗り込み走り去っていった。

「……最上さん、その髪…」
「え?あぁ……切り揃えれば何とかなるでしょ…」

鋏を今度は反対の三つ編みにかける彼女。
俺は寸での所で鋏を持つ手を制した。

「社、悪い。今日、俺と最上さん仕事休むって言っといて。」
「はっ?蓮、お前何言ってんだ!?」
「敦賀くん…?えっ、ちょっと……っ!」

俺は戸惑ってる最上さんの手を引っ張って、駅への道を戻っていった。



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ちょっと短いけど、キリが良いので。
ショータロー…は一応ミュージシャンのままにしました。
祥子さんは面倒だから出さん!
(最初は出そうかとも思ってたの。でも原作と性格酷く変わっちゃいそうだったのでやめました…)

自らお下げを切り落とすきょこ。
この子、どの話でも強い子です。