名前を呼ばれて振り返ると、そこには最上さんが立っていた。
学校の帰りなのだろうか?
ピンクのファイルケースに赤い鞄。
白のシンプルなノースリーブワンピースが、年齢相応の女性らしさを引き出している。
対する俺といえば、運動後で暑いからネクタイもせず着崩しまくった制服。
普段よりも無造作なまま放置してる髪。
加えて言えば手に持って頬張ってるのはコロッケ。
………よりによってこんな姿で会うなんて!
慌てて口に入れたコロッケを飲み込んだ。

「こんにちは。お友達と部活帰り?」

夕日を背に受けて微笑む彼女は殊更きれいで、自分の出で立ちが恥ずかしくなる。

「はい…あの、この間話してた社です。今年も一緒にあの店で働く事になります。」
「まあ、そうなのね!初めまして、最上キョーコです。
今年の夏、海の家で働く事になったんです。よろしくお願いしますね。」
「社倖一です、初めまして…」

最上さんと社が握手するのを横目でちらりと見やる。
……………。何だろう、なんか面白くない。

「おい蓮。今年はあの店、ホストだけじゃなくなったのか?」
「ううん、そういう事じゃなくて、私は裏方…言うなら黒服って所かしら?」
「そうなんですか?去年はヤローばっかりで働いてたんで、女の子は初めてですよ。」

ニコニコ笑う最上さんと、つられてニコニコ笑って話す社。
……………。やっぱりものすごく面白くない。

「ところで、敦賀くんが持ってるそれ………」

ふいっと最上さんの視線が俺の手に注がれる。
あーもー。ついさっき『早く大人になりたい』って言ったくせに、ガキっぽい所を見付かって。
本気で頭を抱えたくなる。

「やっぱり!それ、うちのコロッケよね?」
「………え?」
「お世話になってる定食屋さんの話はしたでしょう?そこのお店のよ。どう?美味しい?」

………そうだったんだ。知らなかったとは言え、意外な所で最上さんとの接点が見付かって、ちょっと嬉しい。

「はい、すごく美味しいです。」
「そう?そう言ってもらえると嬉しいな!実はそのコロッケ、私のレシピなの。」
「え!そうなんですか?」
「うん。大将がとても気に入ってくださって、お店にも出すようになったのよ。」

知らない間に彼女の手料理を食べられていた…凹んでいた気持ちが一気に急上昇する。

「良かったら今度ぜひお店の方に食べに来てね。大将の料理はとっても美味しいのよ!
…っと、私これからお店のお手伝いあるから、今日はこれで失礼するわね。」
「えっ?は、はいっ!必ず行きます!」
「社くんも、これからよろしくね。呼び止めちゃってごめんなさい。またねー!」

あわあわとしながら走り去っていく後ろ姿を、いつまでもぼーっと見送っていた。
……今日はバスケ部出て良かったかも!
コロッケ食べてて良かったかも!

「………ふうぅーん。なるほどねぇー………」

隣の社が何かニヤニヤと視線を送ってくるが、今はそんなの気にしてられない。
最上さんのいるお店にいつ行こうか、何て言おうかそればかり考えていた。



************

胃袋婚になりそうな予感?
いやいやまだ蓮くん高校生だから(笑)
また店名入れる雰囲気に持っていけなかったけど、言わずもがなあの店しか有り得ませんので。
突っ込まないでください………