手を繋いだまま飛び乗った車内は、少し混雑いしていた。
空いている席なんてないので、反対側の扉近くの隅に最上さんを誘導する。
扉側に最上さんを立たせて、自分はポールに捕まる。
ゆっくりと動き出した車内はきんと冷えていて心地よい。
手に握るポールも、熱をあっという間に奪っていくほどよく冷えていた。

「最上さん寒くないですか?」
「私はカーディガン羽織ってるから平気よ。心配してくれてありがとう。」

ふふっと最上さんは笑った。

「敦賀くんてとっても気配り上手なのね?そんな綺麗な顔立ちに気配り上手だったら、学校では人気者でしょう?」
「きっ、綺麗って…男にはあまり使う言葉じゃないですよ…」

柄にもなく照れて赤くなってしまった顔を見られたくなくて、そっぽを向く。
あ、綺麗なのは最上さんだってここは言うべきだったのかな…
俺全然気が利いてないよ。

「敦賀くんも敬語はいいよ?だって全然年下に見えないもの。」
「それは、俺が老けて見えるって事ですか?」
「やだ!そういう意味じゃなくて、きゃっ…」

慌てた最上さんが訂正しようと身を乗り出した時、電車はちょうどカーブに差し掛かっていて、最上さんはバランスを崩した。
最上さんの腕を掴んでぐっと引き寄せる。
…細い腕。女の子の腕ってこんなに細かったっけ?
しかもふわりと香る爽やかで清潔感のある香り。
思わず俺がくらりとした。

「ごめんね、ありがとう。」

すぐそばで上目使いに感謝の言葉を述べられ、その可愛さにさらに目眩がしそうだ。

「いえ、これくらいは男ですから…」
「男の子でも普通はこんなさりげなく助けてなんかくれないものよ?」

その一言にドキッとした。
さりげなく助けてほしい距離に、誰か男がいるんですか…?

「敦賀くんの彼女さんは幸せ者ね。」

続けられる言葉に、更に追い打ちがかかる気がした。
…俺、もしかして全然範疇外?

「幸せ者って、そういうものなんですか?」
「そうよー?そういうものなんです。」

ふふっと笑う彼女に、完全に「君は範疇にありません」と宣告されたような気がしてちょっとショックだった。

「敦賀くんは夏休みに入ったら、毎日バイトなの?」
「いえ…ユーレイ部員な所に顔出したり、あとモデルの仕事の方もちょこちょこ入ると思うので、毎日はいないと思います。」
「モデル?」
「そうなんです、去年あの店で働いてて友達と一緒にスカウトされたんです。」

去年メディアで色々取り上げてくれた後、いろんな事務所からいろんなスカウトが来た。
先輩の光さん達は夢だったバンドのメディアデビューを果たした。
レイノ…もよくわからないが、どこかのバンドのボーカルに引き抜かれていた。
貴島も社も俺と一緒にモデルの事務所に声をかけられ、時々仕事をしている。
(貴島はノリノリだけど、社はイヤイヤやってるんだよなー…)
『顔が良い』で集められた男たちは、みんな夢をもっていて、それを実現させていっているのだ。

「へぇー!!敦賀くんすごいのね!モデルのお仕事だなんて。」
「別に、特別目標があってやってたりするわけではないので、偉くもなんともないんです。」
「そう…?でも誰もができる事ではないんだから、もっと堂々と言っていいんじゃない?」

にこにこ笑って褒めてくれる彼女に、ちょっと凹んだ気持ちが上昇してくる。
…今は範疇外かもしれないけど、色々と頑張って早く彼女に追い付けば、男として見てもらえるんじゃないか?
結局、彼女が降りる駅までの間、ほとんど俺や店の先輩たちの話で盛り上がった。

夏休みに入れば、毎日は無理でも最上さんに会える!
凹んだ気持ちを立て直した俺は、まずは期末を頑張ろうと心に誓った。

(最上さんのいる大学に現役合格…!そこからだ!!)




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珍しくPCから書いたものだから長い1話に。
そうだね、現役合格してくれ。
その前にはさすがに成立するとは思ってるけどさ。