「最上さんて京都出身なんですか。」
「はい、そうなんですよ。
今年上京したばかりなので、これから楽しみなんです。」

伯父の店から駅までは徒歩15分程。
相変わらず海にははしゃいでいる人が多かったが、俺の目にはもう入らない。
……隣を歩く人をちらっと盗み見る。
海側を歩く彼女は、バックにキラキラと輝く水面を浴び、年齢よりも幼い面立ちが少女とも大人の女性ともとれるような、不思議な雰囲気を醸し出している。
日焼け知らずの白い肌が、更に眩しさを増している。

「敦賀…くんはこっちが地元?」
「いえ、14の時にアメリカから戻ってきたんです。帰国子女って奴なので。」
「そうなんだ!向こうは長かったの?」

今までも自分の事は進んで話すタイプじゃなかった俺。
こんな見た目だから、女の子から次々浴びせられる質問をいつもうざったく思っていた。
だけど、最上さんに聞かれるのは嫌じゃない。
自分でも思ってなかった程、質問に対する答えがするっと口から出てくる。
そしてそれ以上に、最上さんの事も色々知りたい。
とても不思議な気分になってくる。

「そうだ、最上さん。俺の方が年下なんだし、別に呼び捨てにしてくれて構いませんよ?」

さっきから呼びにくそうに「くん」付けされてると、なんだかこっちが恥ずかしくなってしまう。
付き合う子もそうでなくても名前で呼んでくる事も多いし、…できるなら名前で呼ばれてみたい。

「えぇっ!?そんな、男の人を名前で呼んだ事なんて、幼なじみ以外なくて…は、恥ずかしいわっ」

そう言って、頬を少し赤く染める最上さん。
…そう言われると、ますます呼んでもらいたくなるけど、ひかれても困っちゃうしな…。
そんなやりとりをしながらだと、行きは暑さも手伝って苦痛でしかなかった15分間が、あっという間に感じられる。
駅に着くと、タイミング良く上下線両方の電車が到着した。
夕方のラッシュ直前の時間帯、利用する人の多い駅だから両方同時に停まると、ホームは少し混雑気味になる。

「…はぐれちゃうから。」

もっともらしい言い訳を得て最上さんの手をそっと握ると、彼女は少しビックリしたものの、頬を少し染めて可愛らしい笑顔を返してくれた。
……これで本当に3歳も年上なのだろうか。
今まで見てきた女の子と全然違う。

どんな顔をしていいのかわからなくて、手をぎゅっと握ったまま電車に飛び乗った。



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手を繋ぐもっともらしいシチュ。

他にもあるでしょうよと言いたいが、相変わらずベタな展開が大好きです。