桜の開花が今年は早かった。
入学式まではもってくれそうにない。
…だけど。
来年入学してくる後輩には申し訳ないけど、この満開の桜の中で卒業写真を撮れる事を、私はとても嬉しく思った。


今日、1年遅れで編入した高校を卒業する。
1年生の頃よりも伸びた薄い茶色の髪には、桜モチーフの髪飾りを刺して。
あの頃よりもちょっとだけ女性らしくなった身体には、藤色の袴とサーモンピンクの振袖を纏って。
振袖には白い桜が金糸とともに咲き乱れている。
まるで今日のこの桜吹雪のようだ。

「お疲れ様、キョーコ。」
「総代しっかり努めてましたね、京子さん。」

「…!モー子さん、天宮さん!」

先日会った時には『仕事で行けないわ、頑張んなさい』と言っていた二人が現れて、少しびっくりした。

「どうして?だって二人とも仕事だって…」
「まあ、ね。」
「ほら、せっかくの京子さんの卒業式でしょう?ぜひ見ておきたくって。」
「ありがとう、二人とも…」

中学卒業まで、卒業式でこんな嬉しい思いをした事がなかった。
嬉しすぎてつい涙がにじむ。

「あー!モーッ!!泣かないの!
まだこれから報道陣の前で囲み会見あるんでしょうが!」
「そうよ、ぐしゃぐしゃのメイクで出たら許さないんだから。ふふっ。」

モー子さんは照れながら、お気に入りのハンカチを差し出してくれた。

「…今日の最終便だっけ?こっちを出るの。」
「うん、そうなの…」
「あの男は?空港に迎えに来るの?」
「多分。昨日そうメールが入ってたから。」

『敦賀蓮』は今はいない。
『久遠=ヒズリ』を公表して、アメリカに帰っていったのだ。
今はハリウッドで忙しく頑張っている。
私も、あの人に並ぶ女優になるべく、拠点をハリウッドにうつす事になった。

「…もう二人にも会えなくなっちゃうのね。ちょっと寂しいかな。」

日本とアメリカ。
時差があって、距離がある。
あの人と連絡をやりとりしていた中で、簡単に会えない距離に何とも言えない思いを何度もした。

明日からはあの人との距離はなくなる。
だけど、親友との距離は離れてしまう。
どっちも…なんて言う事はできない。

「何言ってんのよ。そんなもの、会おうと思えばいつでも会えるわよ。」
「えっ?モー子さん?」
「そうよねぇ。『会えなくなる』ってのは間違いだわ。」
「天宮さん…???」

「そう!戦っていくフィールドは変わっても、志は一緒でしょ!」
「それとも何?あんたの言う私たちの友情って、その程度の物だったわけ!?」
「そっ!そんな事はないよっ!!」

そんな事はない。ないけれど………
モー子さんは売れっ子女優になって、昔の敦賀さんみたいに分単位のスケジュールをこなしている。
天宮さんだって、どんな役でもこなし、可愛い見た目と性格のギャップが人気を呼び、タレント業もかなり詰まっている。
今ですら「会いたい」と言ったから「じゃあ今から会いましょう」とは、もう簡単には言えないのだ。

「別に遠く離れるからって、心の距離まで離れるもんじゃないわ。
それはアンタ、ここ1年敦賀さんと遠距離交際して十分わかったんじゃなかったの!?」
「えっ!?いや、その……うん…っ。」
「何。相変わらずヘタれてるわけ?ならさっさと振っちゃいなさいな!」
「そうねぇ。そしたらキョーコさんも嫉妬大魔王から解放されて、もっと私達と遊べるのに。」
「えぇっ!それはちょっと」
「「冗談よ」」

二人は息ぴったりにそう言うとクスクス笑った。
………だけど、時々冗談じゃない時があるから、二人ともちょっと怖いわ。

『京子さーん、そろそろ囲みの時間だってー。』

担任の先生が呼びに来てくれた。
きっと、二人もスケジュールギリギリの所で会いに来てくれたに違いない。
そう思うと、あまり長居はさせられない。

「……じゃあ、キョーコ。」
「京子さん。」

二人とも、手をスッと顔の位置にまで挙げた。
私もそれに倣って手を挙げる。

「うん。」
「「「お互い頑張ろう!!」」」

パンパンパン!っと、乾いた音が桜の木の下で響いた。

明日からは異国の地だけど、私は一人なんかじゃないから頑張れる。
私を支えてくれてる人たちを、決して忘れはしないわ。



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インスピレーションmusicは『GIVE ME FIVE!』
女の子の友情話。
てか、まんまって感じになってしまったわ(汗)
ビター中に書きたかったネタだけど、後に回していたら何となく書きたかったものとは違ったものに……
やっぱり「これ!」って思った時に頑張らないとダメですね。

何だか違うけど、一応完成品としてアップ。