(~~~っ!どうしてこんなにたくさんあるのよぉっ!!)

私は楽屋で1人、身体中にちりばめられた赤い痣と格闘していた。
片手には手鏡。
もう一方の手にはコンシーラー。
中には自分では確認しにくい場所にまで痣が残ってて、卒倒しそうになった。
こんな場所にまで敦賀さんの唇が触れた………
そう考えるだけで、恥ずかしくってどうにかなりそうだ。

(こんな貧相な身体、余す事なく全部見られちゃったなんて…
恥ずかしくて死んじゃう!!)

「……………はぁ。今回はヘアメイク付かなくて良かったかも。」
学校の後は、新しいドラマの撮影だ。
『BOX-R』以来の女子高生がたくさんの現場。
なので今回ヘアメイクは付かずに、自分達で色々全部こなしていかなくてはならないシステムになっていた。

(苦手なのよねぇ、あのガールズトーク…)

「○○くんがカッコいい!」とか「△△は性格が悪いから付き合えない」とか。
そんな可愛らしい恋の話ですむこともあれば、あけっぴろげに初体験の話とかも始まってしまう。
………だいたいそういう時は目を閉じ耳を塞ぎ、楽しく妖精さんたちと数を数えてやり過ごすんだけど。

だってだってだって!
結婚式はヴァージンロードを歩きたいもん!
あれって綺麗な身体じゃないと歩けないんでしょ!?
みんな歩きたくないのかしら?
私は絶対、森の中のチャペルで赤いヴァージンロードを歩くのよ!
…はっ!
一緒に歩いてくれる父親役の人、今から考えとかないとダメかしら?

〈こんこんっ〉
「京子ちゃん、用意終わったー?もう監督呼んでるよー」

はっ!
いけないいけない。
ついうっかり妄想にハマりこんで、これからの仕事を忘れてたわ!

「今行きますー。」

慌てて衣裳を着こんで、楽屋を飛び出していく。

「支度遅いよー。早く行こ…って、あれ?」
「?どうかしましたか?」

私より背の低い佐藤さんが、私の後ろに何かを見つけたらしい。

「京子ちゃん、彼氏いたの?」
「!!?なっ!何でですか!?」
「だって、耳のすぐ後ろにキスマーク付いてるよ?」

―――耳のすぐ後ろ!?

そんな所まであったの!?
気が付かなかった!!

普段だったら下ろしている髪で気が付かないが、今日はヘアメイクの設定上髪をアップにしている。
こういう時に限って、どーしてこの髪型の設定なのよっ!

慌ててその痕もコンシーラーで塗りつぶす。


しかし佐藤さんはスタジオにつくと、さっそくその話を他の子達にも話してしまった。


「うそー!京子ちゃん『興味無い』って言ってたのに~!」
「ねぇねぇ、京子ちゃんの彼氏って年上?」
「いつから付き合ってたの?!」
「耳の後ろって、なんかかなりエ.ロくない?」
「もうシたのー!?」

「どうだったー?気持ち良かった!?」

…あぁ、いつもなら素敵な妄想に逃げ込むのに。
うっかりその手の話題の中心人物になってしまい、余りにもあけすけな質問に私は立ったまま意識を手放した。



…………。
敦賀さんのばかーーーっ!!!!
もう知らないっ!!!


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憐れきょこたん、恋愛ガルトーの中心人物に。
きっときょこなら「結婚するまでは清らガールでいなきゃ、ヴァージンロードは歩けない!」
…って思ってると思うのです。

だって、何も知らなかった頃の私がそうやって思ってたんですから。

きっときょこも思ってたはず…そう、きっと。多分…