「………それだけですか?」

自分の声がどこまでも冷たい氷のような響きを持っている事に驚いた。
頭を下げ続ける敦賀さんの肩が一瞬震えたようにも見えたが、私だって先輩を気遣う余裕はもうない。

「ずっと黙っててゴメン……。」
「………私の事、バカにしてそんなに楽しかったですか。」
「…っ!違う!!そんなこと思ってない!!」

初めて敦賀さんの顔が上がる。
その表情は苦しそうに歪んでいた。

「じゃあ、どうしてコーンの話をした時に名乗り出てくれなかったんですか!
どうして『妖精じゃない』って言ってくれなかったんですか!!
私がずっと勘違いしてるのを見て笑ってたんでしょ!?
『バカな女』って思ってたんでしょっ!?」

違う。私が言いたいのはこんな事じゃないのに…!
敦賀さんの『キョーコちゃん』が誰かわからなくて、ずっとヤキモキしてた……ううん。ヤキモキなんて可愛い物じゃない。
ずっと胸につかえてたどす黒い塊が、可愛くない言葉になって口から次々出てくる。

「違うんだ!!本当に…言い訳にしかならないけど、でもいつか打ち明けようと思ってた!」
「いつかっていつですか!
ずっと心配してたのに!ずっとずっとコーンがどうしてるか気になって…
敦賀さんにも話すくらいに心配だったのに!」
「うん…そうだよね。ゴメン。」
「何で謝るんですか!私は謝ってほしいわけじゃありません!!
もう敦賀さんなんか知りませんっ!」

すっかり感情的になり、涙が勝手に零れてくる。
なんで?なんで流れるの?

「もがみさ…」
「いやっ!大っ嫌いっ!!」

今だ持っていたバッグを敦賀さんに投げ付ける。
バッグはチャックのついていない物だ、敦賀さんに当たると中身がバラバラと音を立てて散乱する。
その中に、赤いリボンで結ばれた黒い小箱があった。

「!これ…」

敦賀さんの目線が小箱で止まる。

「これ、どうしたの?」
「…社さんにお願いしてたんです。『敦賀さんに渡したいから』って…」
「俺に?」

私は箱を拾い上げながら敦賀さんを睨み付けた。

「そうですよ…覚えていらっしゃらないと思いますけど、バレンタインにチョコを…私は受け取らなかったんです。
だからホワイトデーには、私が敦賀さんにお渡ししたかったんです………」





************

きょこがやっしーに頼んだもの…
それは蓮がデザインしたチョコでした。
やっしー…よく2日で手に入れられたよなぁ。