「コーン!!そこを退いてっ!!」

ヒステリックな高遠さんの声が黒い人影を『コーン』と呼んだ事で、意識を引き戻された。
目の前にいたのは、険しい表情で高遠さんの手首を掴み、私を庇うように立ちふさがる敦賀さんだった。

「こいつがいるからいけないのよ、早く退いて!離してちょうだいっ!!」
「お前なんかに最上さんは傷つけさせない!」

敦賀さんは押さえ付けた手から包丁を叩き落とし、何の体術の技か私にはよくわからない方法で高遠さんを投げ飛ばした。
それでも起き上がってくる彼女に、敦賀さんは包丁を拾って構える。
…それはマズい!!

「敦賀さんっ、ダメーーっ!!!」

瞬間、敦賀さんの動きがとまった。
高遠さんはそのまま敦賀さんの懐に飛び込み、包丁を自分に向けて突き刺す。

「わあぁーっ!!なんだーっ!」
「きゃあぁーっ!誰か、警備員、いえ救急車をよんでぇっ!!」
「蓮!?キョーコちゃん!!」

騒ぎに気付いたスタッフ数人と、社さんが慌てて駆け寄ってくる。
高遠さんは、満足そうな顔でその場に崩れ落ちた。

「キョーコちゃん、大丈夫!?どこも怪我してない?」

社さんに声をかけられるが、私はいつまでも倒れた高遠さんから目が離せないでいた。
彼女が倒れる寸前にかすかに動いた口元が紡いだ言葉が忘れられない。

『コーンは永遠に私の物よ…』

コーンは私のもの…
コーンは敦賀さんだったって事………?

「最上さん…」

いつまでも座り込んだまま動かない私を、敦賀さんはしゃがみこんでそっと抱き締めてくれた。
いつもの優しいフレグランスの香りが、目の前で起こった事から現実逃避してしまいたい頭を残酷にも引き戻す。

そう、これはドラマでも何でもない。
現実の事なんだ………。
私は警察官や救急隊員の方々が来るまで、敦賀さんと二人そこを動く事ができなかった。





人生初めての救急車の乗り心地は、よくわからなかった。
念の為私も病院へ連れていかれたが、肩の打撲だけで他は怪我もなかった。
間宮さんのマネージャーさんは、重傷だが刺された場所が急所ではなかったし、意識ははっきりとしていたらしく、大丈夫だそうだ。

高遠さんは……こちらも急所を外してはいたものの、意識不明の重体。
そして高遠さんの実家からは、ご両親が息を引き取った姿で発見された。
警察からあらかたの事情を聞かれ、解放されたのは日付を越えた頃だった。

マスコミには搬送先の病院は伏せられたが、念の為病院の裏口へと見送られる。
裏口の側には見慣れた敦賀さんの車が停めてあり、敦賀さんは少し離れた場所に立っていた。

「……………」
「……送るから………」

私達は一言も会話を交わさずに車に乗り込んだ。




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間に合ったのは王子様でした!
文才のなさが際立つ回でごめんなさい。

娘の熱あがり中。
でもビターもあとちょっとなんだけどなー。