オニオンスープと、パンの焼ける香ばしい香りで目が覚めた。
見慣れない天井に見慣れない部屋。
男物のだぼっとしたスウェットを着ている自分。

(…あれ、私?)

一瞬最悪な事態を考えたが、そんな事はなかった。
結局泣き止むまで早野さんはそっとただ傍にいてくれた。
お風呂上がりに制服じゃ皺になっちゃうから…って事で、寝間着代わりに自分の服とベッドを貸してくれただけだ。

(早野さんちゃんと眠れたのかしら)

早野さんは『女の子に寒い思いはさせられない』と言って、自分がソファで眠ると譲らなかったのだ。
そういう所は敦賀さんと同じでフェミニストなんだから…
そう思ったが、ふとしたことで早野さんと敦賀さんを比較してしまう自分に嫌気がさす。
もう忘れなきゃいけないのに…。

「おはようございます!…」

私は『京子』の顔を貼りつけて、早野さんの寝室を出た。





「それでは、私は一度下宿先に戻って、着替えてから行きますね。」

今日は早野さんも私も、1日ドラマの撮影だった。
前日と同じ服を着ているのは何かしら疑われる可能性があるという事で、私は早野さんに勧められて一度着替えに戻る事になった。
駅の方向を聞くために、一緒のエレベーターで1階に降りる。
すると、エレベーターホールを出てすぐの所にカメラを抱えた人達とレポーターらしき人が数人待ち構えていた。

「「!?」」
「おはようございます!早野さんと京子さんはお付き合いされてどれ位経つんですか!?」
「この時間に一緒って事は京子さんはやっぱりお泊りされたんですよね!」

どうしてここに人がいるんだろう!?
早野さんも知らなかった様で驚いている。
次々と矢継ぎ早に質問が飛んできた。

「LEMは今まさに春が来ていますねぇ。敦賀さんに続いて、今一番旬の京子さんも熱愛とは!」
「仲のいい先輩の熱愛報道について、京子さんはどう思われますか!?」

『仲のいい先輩』と言うフレーズに、思わず肩がびくりと揺れる。
…あの人とは、もうその関係には戻れない。
昨日散々泣いたのに、また鼻の奥がツーんとしてきた。
すると、早野さんが私の前に立って、興奮する記者達を制してくれた。

「すみません。京子ちゃん驚いてしまっていますので、落ち着いてもらえませんか。」

「それから、訂正してください。僕達はお付き合いしているわけではありません。…僕の片思いなんですから。」

その場にいたみんながざわざわとする。

「昨夜は京子ちゃんとドラマの話で盛り上がって、つい夜更かししてしまったんです。皆さんがご想像しているような仲ではありません。…僕としてはいずれそうなれたならとは思いますが。」

「なので、出来れば今はそっとしておいていただけませんか?温かく見守って頂ければと思います。…それでは。」

しんとして固まってしまったマスコミの方々を置き去りにして、早野さんは私の手を握りさっさと歩き出した。

「あっ、あの!今の話し…」
「こんな状態で言うべきではないと思ったんだけど…さっきのは本当。京子ちゃんの事、好きだよ。」

ある程度まで歩いた所で、早野さんは私の手を離して真っ直ぐ私の顔を見た。

「今回共演して、演技に真摯に取り組む姿勢もいいなって思ったし、女の子らしい性格も好きなんだ。…今言うのは弱みに付け込んでるみたいで嫌なんだけど、出来れば俺と付き合ってほしい。」

眩しく感じたのは、朝日だからだろうか?
真っ直ぐ想いをぶつけてくれるからだろうか?

泣きすぎた私の頭ではよくわからなかった。




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あははー。
私の頭も寝不足ー(笑)
いい人はさりげなく馬の骨でした。

さて、何故お泊りがマスコミにばれてるでしょう?
正解は…………