家に帰ると、家の中は真っ暗だった。
ひんやりとした空気が俺を出迎えてくれる。

「ただいま………」

当然返事はない。
社さんから、最上さんは今日はここへは帰らないと聞いた。
態度からして、俺と杏子ちゃ…高遠さんとの話を聞いたらしいことも。

(自業自得だ…)

今まであの夏の日の『キョーコちゃん』を好きなのだと思い込んでいた。
だから、高遠さんの家に行ったりもした。

だが、俺の心が向いていたのは最上さんだった。
どうしてかなんてわからない。
ただ、一緒にいたい。
あの笑顔をずっと見ていたい。
いつも一番傍にいる権利が欲しいんだ。

(…………あれ?)

そういえば、こんな気持ちを以前も抱いていたような気がする。
あれは何時のことだろうか…。

何かが思い出せそうで思い出せない。
もどかしさが気持ち悪くて、とりあえず着替えようとクロークへ入った。

偶然だった。
普段なら気にも止めない場所に、小さな紙袋が一つ置いてあるのに気が付いた。

(……?俺が置いたんだっけ?)

『敦賀蓮』が専属を務めるアルマンディの綺麗な紙袋。
中身はプレゼントなのだろうか。
黒い正方形の箱に赤いベルベットのリボンがかかっている。

『…愛してるって言うよ。君が俺を信じてくれる、その日まで………』

(そうだ、約束を………約束!俺は誰とした!?)

リボンを乱暴に取り外し、箱の中身を確認する。
中身は、宝石箱のようなガラスの入れ物に入ったチョコだった。

(そうだ!これはあの子が喜びそうだと思って、俺がデザインした…)

数量限定で『敦賀蓮デザインのチョコレート』を出したいと打診があった時、真っ先に思い浮かんだのは、宝石のようなあの夏の日の思い出だった。
チョコレートを渡すのなら、ちゃんと告白をして彼女を捕まえたい。
最近はますます綺麗になって、馬の骨が増えていくばかりだ。
『恋人』として、一番傍にいる権利をもらいたい。

…だからデザインを了承する代わりに、1つだけ製作側にお願いをしたんだ。
『1つだけ、自分用には名前を入れてほしい』と。
この宝石箱の入れ物には、『I love you,Kyoko』の文字が刻まれていた。

(なんでこんな大事な事、今まで忘れて…!!)


最上キョーコ = キョーコちゃん


思い出と最上さんが繋がった瞬間、事故にあったあの日の事が一気によみがえってきた。





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やっとここまで来たー!!
蓮が思い出してくれたよーぅ(泣)

38を書くにあたって、久しぶりにビター0&1を読み返しました。
…大変恥ずかしゅうございますね………