社さんからの電話を慌てて切ってしまった。
年上の方になんて失礼な態度を取ってしまったのかしら…!
ましてや社さんは、いつも私に親切にしてくださるいい人なのに!!
…だけど今は敦賀さんの話は聞きたくなかった。

敦賀さんのお相手は高遠『きょうこ』という名前だった。
やっぱり、敦賀さんの『キョーコ』さんは、私じゃなかった。

(ほらね、やっぱりそうだった。)

だけど、もう取り返しが付かない事態になった。
敦賀さんに過ちを犯させてしまった。
『キョーコ』さんがいながら、一線を越えてしまったのだ。
彼女に申し訳ないと思ったが、過ぎてしまった事はどうしようもない。
時間は戻せないのだ。
自然と涙が溢れてくる。
心も、身体も。

「ごめんね京子ちゃん、電話中に声かけちゃったね。」

ふいに背後から声をかけられて、慌てて目を擦った。

「大丈夫ですよ、早野さんが悪いわけではありませんので」

あの後、どうやって撮影を終わらせられたのか、自分でもわからない。
敦賀さんの家に帰りたくなくて、敦賀さんの顔が見たくなくて。
慰めてくれる早野さんに甘えて、そのまま彼の家に来てしまったのだ。
早野さんには、私の片思いの相手が敦賀さんである事がバレてしまったし。
ドラマのせいで、本当のお兄ちゃんのように錯覚してしまっているのかもしれない。

本当ならモー子さんを頼りたかったが、モー子さんは今大河ドラマの準主役で、京都へ行ったままになっている。
それも早野さんに付いてきてしまった理由の一つだった。
知ってる人に傍にいてもらいたい。

(昨日から私、どんどんずるい人間になってるなぁ)

また思考の小箱にハマっていると、早野さんの手が私の頬にそっと添えられた。

「明日の撮影に響くから、お風呂上がりに目元を冷やそうね…」

その仕草に、カインとセツとして過ごした日が頭をよぎった。
カインはこんな風にセツに優しく触れてくれた。
あの二人みたいに兄妹愛だったら、こんな思いしなくて良かったのかなあ。
早野さんの手が温かくて、また涙が出そうになった。
すると、早野さんは一瞬躊躇った後、そっと抱き寄せてくれた。

「我慢しなくていいよ。…俺のこと、利用してくれて構わないから…今は一番傍にいさせて…」

私には言葉の奥に隠れた、早野さんの気持ちに気付ける程の経験はなかった。
だけど早野さんの言葉が安心できて、私は早野さんの胸を借りて、思いっきり泣いた。




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ちゃっかり自宅に連れ込んでた男が一人(笑)
でもキョーコが彼に向けるのは兄弟愛。