中学にあがる直前に母の再婚が決まって、私は母と共に上京した。
新しい父は会社経営者で、3年前に奥様を亡くされた。
出張先の接待で行ったクラブに母は勤めていて、後妻として見初められたのだ。


社会的地位も持ち、優しいと評判の男が父親になる。
やっと幸せになれると思った私は、この男に処.女を奪われた。
私はよっぽど男運がないのだろうか。

思えばこの時、私の心は壊れてしまったのかもしれない。

そんな時、たまたま見たドラマにコーンによく似た俳優が出ていた。

『敦賀蓮』というその俳優が気になって、父のこねを使って徹底的に調べ上げさせた結果、敦賀蓮が現れる前にコーンは行方がわからなくなっていた。

(見つけた!!)

今度こそ遠くから見ているだけじゃなく、話し掛けたい。
その一心で芸能界にデビューした。
コネを最大限使わせてもらえるように、父親の性.欲.処理の要求にも応じた。
枕営業も黙って受け入れた。
屈辱的な日々だったが、全ては王子様と最高の形で出会う為。
そう思えば我慢できた。

しかし、浮き沈みが激しい上に広い業界。
なかなかチャンスが見つからなくて、焦りだけが募っていく。
コーンに悪い虫がつかないように、定期的に身辺を調べさせていた。

『京子』が現われたのはそんな時だった。
王子様が自ら気にかける『悪い虫』。
気に入らなくて、その女についてすぐ調査させると、その正体は最上キョーコだった。
しかも、あの子は初のドラマで準主役をもらい、その後も次々とテレビに出続けている。
ドラマに出れば、その演技の出来が評価され。
CMに出れば、その商品はヒット商品になり、ますます話題の人となっていく。

(何であの子ばっかり…!!)

私は、自分を犠牲にして掴んだ仕事も長続きはしない。
埋もれていくばかりで、王子様に近づくことすら出来ないでいる。

悔しかった。

こんなに努力している私なのに、全く報われる気配がない。
なのにあの子は順調に業界を登っていく。
何とかしてあの子の位置と取って代わりたい。
業界の位置はそう簡単にはいかないけど、せめてあの王子様の隣だけは手に入れたい。

そんな時、あの事故が起きた。

記憶喪失になった事は世間には公表されなかったが、ずっと身辺を色々と調べさせてた私には簡単に入手できる情報だった。

これはチャンスだ。

今ならあの子の代わりになれるかもしれない。
長かった髪をセミロングに切り、黒く染めなおした。
『キョーコちゃん』に近付けるために、洋服もそれっぽい物を選んだ。

そうしてやっと手に入れた、王子様の隣。
そう簡単には手放さない。
どんな手を使っても構わない。

私は携帯を一度きつく握り締めると、ある場所へと向かった。






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自分が不幸なのは決して他人のせいばかりじゃない。
杏子の間違った努力も、もう少し違った事に使えばよかったのに。
非常に残念な子、杏子です。