『俺があげた石のことを知らないのなら、君は俺の『キョーコちゃん』じゃない。君ともう話す事はない。』


そう言って、敦賀さんは電話を切った。
………こんな早くに気が付かれるとは思わなかったわ。
だけど、そんな程度の事で私は諦めたりしない。
ずっと手に入れたかった、私だけの王子様なのだから。





物心付く頃には、既に父は家にいなかった。
他にオンナを作って出ていったらしい。
母は、酒に酔っては私に暴力を振るい、昼間からオトコを連れ込んでいた。
母性なんてかけらもあたえられることはなかった。

そんな家で私は育った。

6歳のあの夏の日も、朝から男が家に上がってきて私は追い出され、仕方なく川辺に散歩に出掛けた。
…今日は追い出してくれる人で良かった。
私はそっと息を付いた。
うちに来る男の中でも酷い奴は、私の前でわざと母を抱く。
その方が母もより感じるからだとか、訳のわからない理由で私は椅子に縛り付けられ、乱れる母と男の情.事を見せ付けられる。
いっそ、心が壊れてしまえたら楽なのに…。
消えてしまいたくて、茂みの中をただひたすら歩いていると、知ってる声が聞こえた。

「コーン!」

あの声は……隣のクラスの最上キョーコ?
最上キョーコはちょっとした有名人だったから、私でも知っていた。
…正確には、彼女の幼なじみが有名なのだが。
同じクラスの女の子達にもとても人気がある不破松太郎。
彼女が不破にベッタリで許せないとか何とか騒いで、虐めてる人間は多かった。

(別に不破なんか大した事ないじゃん。言う程かっこよくもないし…)

クラスメイト達は彼の事を口々に格好いいと言うが、私にはただの猿山のボスにしか見えない。

(本当の王子様は、お姫様より背が高くって格好良くって、武術に優れたりして…)

私の心の支えは、昔まだ母が優しかった頃に買ってくれた絵本だった。
その中に出てくる王子様が理想なのだ。

(まぁ。そんなオトコ、いたら教えてほしいくらいだけどね。)

母が連れ込む男たちと父の所為で、現実の男に夢を抱いたりはしなかった。
がさがさと進んで行くと、最上キョーコともう一人誰かいるのが見える。

(………外人?コーンだなんて、変な名前…)

なんて思いながら、ふとその相手の顔を見て私の足は止まった。
サラサラの金髪、目鼻立ちの整った綺麗な顔。
スラリとした手足。
ずっと憧れていた絵本の中の王子様がそのまま飛び出してきたようだった。

(………………見つけた!!私の王子様………)

完全に一目惚れだった。
だけど話し掛ける度胸もなくて、私はただ毎日そこに通い詰めて、最上キョーコと彼が話している姿を眺める事しか出来なかった。
彼の住所が知りたくて、後を付けた事もあった。
彼は旅館へと帰っていったから、何も知らない子供を装って仲居さんから色々聞き出したりもした。
彼がお忍びで旅行中のハリウッド俳優の息子である事も、無知な子供を演じてしまえば簡単に情報として入手できた。

もっとコーンの事を知りたい。

だけど、情報を集め始めてすぐに彼は目の前からいなくなってしまった。
旅行も終わって、母国へ帰ってしまったのだ。

もっと彼を知りたかった。
もっと彼を見ていたかった。
もっと彼の近くに行きたかった。

だけど彼はもういない。

彼の近くをずっと独占していた最上キョーコが無性に憎らしくなって、私は彼女を虐めるグループに入った。
彼女の全てが気に入らない。
うまくグループの女の子たちを使って、彼女をいびり続けていった。





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杏子の独り言。

長いので、一度切りまする。
腹黒杏子がいかにして出来上がるかという話です。

しかし6歳にして既にストーカー。
やばいでしょ。