ここ数日、自分の担当俳優の様子がおかしい。
…正確には、『事故に遭ってから』が正しいのかもしれないけど。

何か考え事をして頬を染めてみたり、一生分のため息か!?と突っ込みたくなる程のため息をついてみたり。
思考がすぐに表情に顕れる。

まだ記憶は戻っていないらしいから、蓮のもともとの性格なのだろう。
俳優『敦賀蓮』を守る立場としては「止めてくれ!!」と叫びたくなる状況なのだが、俺個人としては少し嬉しくも思っている。

今まで全く感情の読めなかった蓮が、俺でも分かるくらいに感情を出している。
直接伝えられてるわけではないけど、今まで蓮との距離を少し感じていた俺としては、些細な事だけど嬉しくなるのだ。

…あんな事故の後だから、尚更。

ただ、一つ気になる行動もある。
時々かかってくる電話を一人こっそり取りに行くのだ。
電話に出る時は必ず一人になりたがる。


(まぁどうせ、キョーコちゃん絡みの事だと思うんだけどな)

記憶がなくなっても、蓮がキョーコちゃんに想いを寄せているのは一目瞭然だ。
復帰直前に蓮の自宅を訪ねた時、新婚夫婦さながらのやりとりに思わず口の中がざらついた程だ。

(これは今度キョーコちゃんに会った時に、何があったか聞かなきゃなぁ~)

ニヤリと顔がにやけてくる。
丁度その時、胸元で携帯が震えだした。

「蓮、悪いが電話だ。もうすぐ休憩も終わるだろ?そしたら先にスタジオに入っててくれ。」
「はい、分かりましたよ。」

俺は蓮の楽屋を出ながら、手術用のゴム手袋を嵌めてディスプレイを確認する。
電話の相手は、今まさに話を聞きたいと思っていた相手だった。





「…俺が話した方が手に入りやすいから、じゃあ手配は俺がするね?」
『社さんのお手を煩わせる事になってしまって、すみません。』
「いいのいいの、俺の事は気にしないでね!…でもこれって聞いていいのかな?蓮の記憶に関係したりするの?」
『………関係するかもしれませんが、私がしたくてする事なので………』
「いや!いいんだよ!!キョーコちゃんが蓮の為にしたいって思ってくれたんだから、お兄ちゃんは嬉しいよ!」
『…ありがとう、ございます。それではよろしくお願いしますね。』
「手に入ったらこっちから連絡するね。」

いつも謙虚なキョーコちゃんから、珍しくお願いをされた。
この時期になると、入手がちょっと困難なアレ。
しかも今年は尚更だから、さすがのキョーコちゃんでも困ったんだろうな。
俺でも手に入るか微妙だ。
だけど、キョーコちゃんは一生懸命蓮の為にって言っていた。
2人の恋のキューピッドになれるなら、お兄ちゃんは一肌脱ごうじゃないか!

ウキウキしながら、俺はキョーコちゃんのお願いを叶えるべく、携帯のメモリーから必要な番号を呼び起こして通話ボタンを押した。




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うーん。
何度書きなおしても、いまいち納得行かない初の社目線。
お兄ちゃんは2人の良き理解者で協力者って事が言いたいだけなんですけどね。
言葉って難しい。