カフェに向かいながら聞いた早野さんの『友達』の話は、恋の話だった。

「好きな子がいるけど、彼女は最近悩み事を抱えてるみたいなんだ。どうしたら彼女の力になれるかな?」

『友達』とは言っていたけど、話す早野さんの頬は少し赤みが混じってて。
やっぱり早野さん自身の恋の悩みなんだと確信した。
頬を染めて話す早野さんの姿が、敦賀さんとダブって見える。
私も重症かな…

「早野さんは素敵な人ですから、きっと振り向いてくれますよ!」

当たり障りのない助言と励まししか出来ないけれど、こんな私にまで気をかけてくれる早野さんには幸せになってほしい。私は心からそう思った。

「そっか…ありがと京子ちゃん。………京子ちゃんは何かある?『友達』の話。」
「……………」

自分一人で考えてもよそよそしい原因が解らない。
敦賀さんの事と悟られないように、オブラートに包みながら要点だけを掻い摘んで話してみた。





「ふーん、『よそよそしく感じる』ねぇ…」
「はい、そうなん…そうみたいです。」

早野さんは持っていたタンブラーをくるりとゆっくり回しながら、私の話を聞いてくれた。

「京子ちゃん…の『友達』の気持ちは伝えてないんだよね?」
「えっ、はい…そうみたいですけど。」
「じゃあさ、もしかしたら彼の方が気が付いて、どう接したらいいのかわからないんじゃないかな?」
「………やっぱりそうなんでしょうか?」
「それとか、こっちの気持ちに気付いてはいないけど、彼自身の気持ちが変わったとか。」
「気持ちが変わる?」
「うん、そう。好きになった時もやっぱり照れて、普段通りにはできなくなるものだよ?」

好きに…?
今の敦賀さんは、以前の記憶が全くない。
『キョーコ』さんの事も覚えていないはず…
今なら『キョーコ』さんじゃなくて、私の事好きになってくれる………?

「そんなに気になるんだったら、相手にさりげなく聞いてみたらどう?」
「え?でも…」
「例えば京子ちゃんなら、料理得意でしょ?何かお菓子作って、さりげなーくアピールしつつ、探ってみるとか。」
「お菓子……………」

ふと早野さんの言葉を聞いて、思い出した事があった。

「…すみません、早野さん。私ちょっと電話をかけなきゃいけない所を思い出したんですけど!」
「くすっ、いいよ。もう楽屋まであとちょっとだしね。じゃあまた後でかな?」
「はいっ、ごめんなさい。お話聞いてくださってありがとうございました!」


気になったらすぐに確かめたい。
社さんは今なら電話に出てくれるはず!
私は早野さんにお礼を言い、慌てて自分の楽屋に戻った。



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意外にいい人早野さん。
きょこたんはもうちょっと周りの人に甘えてみてもいいと思うの。