レビュー「マヤ終末予言『夢見の密室』」(小森健太朗著)
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マヤの月日では一日がキン。一月がウィナル。一年がトゥン。トゥンの二十倍がカトゥン。
カトゥンの二十倍がバクトゥン(400年)。そしてバクトゥンの十三倍が大バクトゥンで5200年。
マヤにおいては、世界の存在の一周期は、一大バクトゥンだと記されているという。
その日は、マヤ人の解釈によると「金星の生まれた日」だそうだ。
その中間点である紀元前五五〇年に作られたという碑文が、メキシコ・オアハカ地方の「モンテ・アルパン」遺跡に存在するという。
ちなみに、その年にマヤ暦は制定されたようだ。
そして、大バクトゥンが終わるのが、西暦2012年であるらしい……。
その年に、世界は終末する?
私(評者薫葉)としては、一つの文明が終わると解釈したい。人類滅亡という解釈ではなく。
その文明末期。
夢見力という、一種の霊的な力を発揮するための修行場「ボロン・マイェルの家」に訪れた円澄悠梨香。
幹部の由紀澤卯月の指導の下、力を発揮するようになるが、マヤのピラミッドを模倣したピラミッド(山梨県の小淵沢に建造)の中にて祈祷中、由紀澤卯月は、何者かに刺殺されてしまう?
その現場に居合わせた姉妹の五月。
しかし、残念ながら彼女は、卯月を刺した人物を目撃することはできず、その直後、火の海となったピラミッドの中で、意識を失うという事態に陥ってしまった!
運がよいことに、何とか救出された五月ではあったが、果たして彼女は、卯月を殺害した犯人を探し当てることができるのか!?
「バビロン空中庭園の殺人」に続く星野君江シリーズ第二弾!
「バビロン空中庭園の殺人」に比べて、描写力が高いうえ、会話も少なく、ある種、社会派ミステリのような一面を持ち合わせた作品。
そう、情報量が濃いため、(前作に対して)本作の方が、質感が高い。
特にディティールには、神が宿っていると思わせられるほどだ!
マヤの暦。儀式の服装。道具。時代背景など、その調査範囲は、非常に広い!
さらに、心理学面には、「これって、学術論文じゃん」と思わせられるような箇所があり、まさに作者の知力をふんだんに見せつけてくれる。
次に、本書においてのミステリの命題について、語りたい。
まず、最大のポイントは、卯月の刺殺に秘められた論理。
こここそ、作者が披露したかった本格ミステリーとしての技だと私は読んだ。
さらに、その論理を活かすための演出として、本書の舞台設定の側を見てみると、まさに、この舞台は、効果的だと言えると私には思われる。
そう、ただ一点のトリックのためだけに用意された舞台。
正確には、刺殺の論理以外にも、技が存在し、それは、メタ・ミステリとして本作の中で現実と幻想の共演を試みている。
即ち、読者を煙に巻くために!?
だが、あくまでも本作の真相は、幻想ではない。
正真正銘、リアルだ。
それは、本書における小森氏のスタンスは、あくまでもリアリスト(本格ミステリ派)であり、ファンタジストではない。
そう、私には思われるからだ。
結果、結末において、意外な真相って奴を、読者は目の当たりにするのである!
しかし、上手い。
ABC……と、何もかもが有機的に結びつきあい、結合していく様は、まさにピースの破片をかき集めて完成させた上等のパズル(本格ミステリ)!
道具Aと、あの儀式。あの場面と、あの時の行動……。
おまけに、この舞台そのものが、卯月の刺殺の伏線として用意されている点は、高いテクニックとして評価していいだろう!
トリックのクオリティ。
クオリティだけに目を向ければ、前作「バビロン・空中庭園」に、やや(ややだが)劣ってしまうが、単独で本書だけを評価した場合、ロジック・ミステリとしてかなりのレベルに達していることは間違いない!(E・クィーンの血を継ぐ本格派の一人ではあるし!)
しかし、純粋に、歴史ミステリとしての読み応えもあり、優れた推理小説だと私は敬意を表したい!
ただ「マヤの終末予言」
その予言に関する謎解きなどには触れてはいない。
ゆえに高田崇史、鯨統一郎という(新たな)歴史ミステリのアイデアマンの作品を読みなれた(二千年以降のミステリーファンの)方々にとっては、歴史という点に絞って読まれた場合、物足りなさを感じられるかもしれないが、本書は、(クィーンの作品のように)ロジック・ミステリーとして読んでいただけると、評者としては、ありがたい!
(そう、歴史面は、素材として扱っている感が強いために)
超自然的な題材を用いながらも、あくまでも人間の心理によって引き起こされた事件として、探偵が真相を追いかける探偵小説。
人間の行動心理。それを徐々に明察していく過程。
それが、本書の読みどころだと告げて、私は幕の内へと消えることにしよう。(08/5)
