自閉スペクトラム 「自分のこと」のおしえ方 増補版 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

𠮷田 友子:著 Gakken  定価:1800円+税 (2023年12月:初版本 2011年5月

 

            私のお薦め度:★★★★★  

 

𠮷田先生が原著である初版本 『 自閉症・アスペルガー症候群 「自分のこと」のおしえ方』 を出版されたのが2011年ですから、もう12年前になるのですね。その間、自閉スペクトラム症児者への支援で、変ったもの、変らなかったもの、いろいろあると思います。

 

本著でいえば、変らないのは、適切な告知、説明は自己肯定感を高める手段となりえるし、その後の継続した支援につながっていくものであるというとらえ方でしょう。その変らないものについては、すでに初版本で紹介させていただいていますが、そのお薦め紹介の書き出し部分です。

 

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自閉症、中でも高機能自閉症・アスペルガー症候群のお子さんを育てているお母さんにとって、本人への告知は、いつかは行わなければならない、避けては通れない道でしょうね。

「一緒に考えていきましょう」と言っていただけるような、理解のある主治医に恵まれていればいいのですが、残念ながらそんなお母さんはまだ少ないのが、日本の現実です。

本人や保護者の側に立って、しかも深い発達障害への理解をもった、本書の筆者の𠮷田先生のような先生に巡り会えることは宝くじに当たるような幸運かもしれません。

その𠮷田先生の勤められる「よこはま発達クリニック」(※当時)に行こうと思ったら、初診には何ヶ月も待たなければならないとか・・・まさに宝くじですね。岡山から横浜も遠いですね (^_^;)

なんと言っても、日本にはまだ児童精神科医の数が少なすぎるのでしょう。

 

本書はそんな地方都市に住み、自ら子どもと向き合っているお母さんに、𠮷田先生が書いてくださった、告知の進め方の手引きとなる本です。

副題に「診断説明・告知マニュアル」と付けられているように、「いつ、誰が、どのように」告げたらいいのか、またその手順についてはひな型が示されていて、それを実際の子どもたちに合わせて修正していけばよいようになっています。こんな本を待ち望んでいたお母さんは、日本中にいると思います。 

                (「育てる会会報 157号」 2011.6)

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「変らない」といいましたが、自閉スペクトラム症への社会の認知がすすんできたこともあって、児童精神科医の先生は、ますます不足してきています。岡山でも、初診までは半年から今では1年、中には初診は現在受けられないところまで出てきています。

そう考えると、本書、「診断説明・告知マニュアル」として適切な告知のひな型(テンプレート)は、ますます貴重なものになってきますね。

自閉症について、本人に合わせて正しく理解できるように(マイナスなものととらえないように)伝え、本人の自尊心をより高められるように・・・ お母さんだけでは、なかなか難しいと思えます。

テンプレートの具体例を、本人に合うように入れ替えて、「こんな風に説明しようと思うのですが・・・」と主治医の先生に伝えれば、きっといいアドバイスもいただけるのではないでしょうか(主治医の先生も、アドバイスがしやすくなると思います (^_^) )

 

では、次にこの増補版で変った部分・・・ 副題に「小学生から大学生まで」とあるように、初版本では主に小学生ぐらいのお子さんへの説明に重点がおかれていたのですが、増補版では大人になって、自分で発達障害かも? と気づいた方に対する説明も加わっています。

 

これは𠮷田先生の、現在のもう一つのお仕事、各大学での学生面談での相談から、切実さを感じられたのでしょう。

知的に遅れのない自閉スペクトラムの児童の場合、高校ぐらいまでは学業への影響は少なく、かえって構造化された学校生活では、優等生で過ごせる場合もあります。ところが、大学生活で自由にカリキュラムを選んで単位を取得したり、それに合わせてバイトや部活を入れたりするようになるとつまづいてしまうケースも多いのだと思います。

 

大学生では就職活動で内定が得られないことから相談につながり、自閉スペクトラム・自閉スペクトラム症と知ることが稀ではありません。彼らは診断名を知ることで不安を生じることも、自分の努力不足ではなかったとわかり安堵することもあります。

ただ、安堵した場合でも、大学卒業後の将来像について安心できる具体的なイメージがもてないと、またそのための具体的な道筋や支援が見出せないと、改めて大きな不安を生じるのは当然のことです。

社会に出ることが間近に迫った青年たちの将来への不安に対しては、共感だけでなく、不安軽減のための具体的な手助けを一緒に探す支援が必要です。

 

小学生にしても、大学生にしても、診断名を伝えてそれで終わりではなく、大切なのはそれを知った後の具体的な支援ということですね。

 

一方で、𠮷田先生は青年たちが自らの診断名を知った後の危険性についても、初版本から1節を追加して解説しておられます。

 

自分の直面するトラブルに自閉スペクトラム症が関与していると知った青年の中には、 トラブルの相手に診断名を伝えることで「謝罪の気持ちを伝えたい」「わざとではないとわかってほしい」「迷惑をかけるばかりだから免除してほしい」と考え、実行する人たちがいます。このような診断名の使用は本人の利益にも相手の利益にもつながらない危険性があります。

 

診断名だけ伝えることで解決をはかろうとする自閉スペクトラム症の青年たちは、周囲からは「診断を言い訳にしている」「努力を放棄した」とみえるかもしれません。しかし実際は努力していないのではなく、今できる努力をそれ以外に知らないだけです。

このような診断名の使用は本人に不利益をもたらす危険性が高い、不利な使用です。ただしこれも診断説明の副作用というよりも、診断名の活用のしかたを学ぶ機会が失われていたこと、つまり支援不足の結果といえるでしよう。

 

𠮷田先生はそれを「水戸黄門の御印籠」に例えていらっしゃいますが、たしかに診断名を免罪符のように使おうとすると、まわりからのいらぬ反発を招いてしまいますね。やはりここでも必要なのは、日々の生活の中で、トラブル解消に向けた本人への具体的な支援なのでしょう。

 

また、この増補版で変ってきていること、それはみなさんお気づきのように、本書の題名から変っていますね。 初版本「自閉症・アスペルガー症候群」 → 増補版「自閉スペクトラム」 です。

そして、アスペルガー症候群が医学的分類としては使われなくなり、自閉症スペクトラムあるいは自閉スペクトラム症に含まれるようになってきたように、その「三つ組」の表現も変化してきています。

 

初版本:

①  社会的な振る舞いの特徴や、その学ひ方の特徴

② 社会的コミュニケーションの特徴や、その学び方の特徴

③ 社会的イマジネーションの特徴(手に取ることのできない本質や概念よりも具体的な情報になじみやすい特徴)や、その結果としての秩序を愛する特徴

 

増補版:

① 人とのかかわりや集団参加でみられる特徴

② 人とのコミュニケーションでみられる特徴

③ 考えや行動の柔軟性やきわめる力/社会的想像力の特徴

 

という具合です。

本質的な内容は同じだと思いますが、表現方法は印象が違ってきていますね。

 

その三つ組にしても、初版本では「自閉症スペクトラム」、増補版では「自閉スペクトラム」と表現されています。

これは𠮷田先生によると、

★自閉スペクトラム(AS)は脳タイプ名(発達の多様性のひとつのパタン)、自閉スペクトラム症(ASD)は診断名(疾患名)と障害名のいずれの意味でも使用される

とのことですから、増補版では、ASの特性を、障害としてみるのではなく、あくまでタイプとして捉えようとする𠮷田先生の想いが、さらに強くなっているように感じました(・・・私の勝手な解釈ですが・・・)。

 

そんなわけで、まだ初版本を読まれたことのない方には絶対お薦めの1冊ですし、すでに初版本を買われた方にも、あれから10年お子さんも青年・成人期を迎えられていることでしょうから、改めてASや本人への理解を確認するためにと、増補版の購入もお薦めしたいと思います。

 

             (「育てる会 会報 308号」(2023.12) より)

 

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目次

  はじめに
  増補版に寄せて
  本書資料のダウンロード方法

第1章 説明という支援 

  1. 診断名を問いかけてくる小学生たちの登場
  2. 日本の現状
  3. 自閉スペクトラムの心理学的医学教育

第2章 自閉スペクトラムをどうとらえるか

  1. 「どう説明するか」には「どうとらえているか」が映し出される
  2. 欠落ではなく、ひとつの認知スタイルとしての自閉スペクトラム
  3. 強みと苦手は、同じ特徴の表と裏
  4. 支援の目的

  資料 自閉スペクトラム

第3章 ひな型(テンプレート)を用いた説明

  1. 特性や診断の説明にはさまざまなスタイルがあっていい
  2. ひな型(テンプレート)を用いた説明
  3. ひな型(テンプレート)を用いることの利点

第4章 特性や診断を説明する

  1. 特性や診断の説明手順
  2. 説明文の作成
  3. 診断名・障害名として伝える

第5章 いつ、伝えるか

  1. 説明の時期は暦の年齢では決められない
  2. 説明の時期を判断する「目安」、あるいは説明に向けた準備

第6章 誰が子どもに伝えるか

  1. この先も子どもに1対1で会える大人が説明する
  2. 専門家が説明する場合
  3. 親が説明する場合

第7章 説明で期待される効果、あるいは説明の目的

  1. 安堵し、罪悪感から解放される
  2. なぜ技術を学ぶ必要があるのかを、正しく理解できる
  3. 「自己否定的な技術向上」の回避に役立つ
  4. 自分を理解するためのキーワードに気づきやすくなる
  5. 自己の存在にかかわる秘密がなくなる
  6. 本人と親・専門家の、より強固なチームが形成される
  7. 相談する決心と技術をはぐくむ
  8. 診断名との混乱の少ない出会いを設定できる

第8章 説明の副作用

  1. 説明後の抑うつや退行
  2. 「自己否定的な技術向上」と必要な工夫や手助けを受け入れることの拒否
  3. 将来への不安
  4. 満足・安堵による相談の終了
  5. 努力の放棄は説明の副作用か
  6. 診断名の不利な使用

第9章 説明のあとの支援

  1. 具体的対応(環境調整や本人の工夫)の継続.
  2. キーワードの提供を重ねる、深める
  3. 本人が主体的に情報を活用できるように支援する
  4. 他の自閉スペクトラムの人たちとの類似と相違を実感させる

巻末資料 本人向け勉強会資料

  おわりに
  謝辞