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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

  ~不思議な息子が教えてくれる楽しい暮らし方~


岡野 ゆかり:著  GAKKEN 定価:1200円 + 税  (2018.9)


        私のお薦め度:★★★☆☆


先日、地元の山陽新聞でも紹介された岡山県在住の“こうちゃんママ”こと、岡野ゆかりさんのエッセイと4コマまんがで描かれた自閉症児“こうちゃん”の子育て記録です。


自閉症児を育てている、また育ててきた親たちにとっては、「あ~、あるある」「あった、あった」というエピソード満載の一冊です。


4コマまんがの良いところは、結構シリアスな話でも深刻にならずに伝えられることでしょう。普通なら、自閉症児の子育て、その最中は大変なことが多く、後になってからようやく笑い話になることが多いと思いますが、まんがだと描いている傍から伝える方も、伝えられる方も楽しくなってきますね。
まんがでデフォルメされることで、客観的に面白エピソードになるのかもしれませんね。
本書でも、エピソードの4コマまんがの隣に「ママのひと言」が添えられていますが、まんがになると、“あるある”と心穏やかにに感じられることが多いですね。


たとえば


『保育園は天国?』 
“ママのひと言” 3歳を過ぎたこうちゃんは多動が激しく、あちこち走り回るので、私は疲れきっていました。そんな時、障がい児受け入れのある保育園に入園できました。最初の1~2か月は私もつき添いましたが、少しずつ長く預けられるようになり、本当に助かりました。
母親もひとりになれる時間って大切ですね。ここで定型発達の子たちと接したおかげで、こうちゃんの遅れを受け入れられるようになりました。


これがまんがになると、入園して1ヵ月して、保育園の先生に「お母さん、1時間だけ置いていってください」とこうちゃんを預かってくれて、「神様がくれた1時間だった」と後を追いかけて走らないで買い物できる、幸せを満喫しているこうちゃんママがほのぼのと描かれています。

まんがに書かれた「ジーン」が、“そうそう”と伝わってきますね。


他にも、同じ障害児を育てる者同士でしか共感できない思いも伝わってきます。


『障がい児の親の幸せ』
“4コマまんが”


健常児の親御さんは 「○○ちゃんピアノ始めたって」
          「え?! うちも習わせなくちゃ!
          「△△塾に入れたら成績が上がったらしいわ」
          「何としても□□中学に入らなきゃ!」
     ・・・こんな苦労がある
でも障害児の親は・・・
   「昨日ついにお母さんって呼んでくれたの」
   「うれしかったでしょう」
  その子の成長をゆっくり待てる幸せがある


“ママのひと言” 障がい児の親は戦友同士のような感覚があるかもしれません。親同士、一緒に
いるだけで救われた気持ちになり、うつになりそうな毎日からどれだけ助けられ、幸せをおすそ分けしてもらえたかわかりません。


これなど、ペアレント・メンターの研修などでよく言われる「専門家にはできない、親同士にしかできない共感性」なのでしょう。よく障害児を育てている夫婦の関係を戦友と例えることがありますが、こうちゃんママの言う通り広く障害児の親同士、みんなが“同志”なのかもしれませんね。


これまでお薦め本でとりあげていたのは、いわゆる専門書、自閉症への正しい理解や自閉症児の子育ての指針となるような本、また療育のためのヒントやアドバイスがもらえるような本が多かったのですが、たまには肩の力の抜けるような、こんな楽しい、共感をもらえるような本もいいですね。


もちろん、こうちゃんママも楽しいだけでなく、将来のことも真剣に考えられています。
今はこうちゃんも22歳、身長183cm、体重137kgの堂々たる体格の青年になられたそうです。


こうちゃんは機嫌のいい日は頑張って働き、仕事が正確で丁寧だとほめられて、地元のテレビの取材を受けたこともありました。でも機嫌の悪い日は、よく問題を起こしました。怒って投げたリモコンがテレビに当たってテレビが壊れたり。女の子の高い声に耐えかねて、その子が持っていたiPodを奪って投げつけたり。言葉で思いが伝えられず、テーブルをひっくり返したり。本人は働くといったらパンを焼いたり配達をしたり、機械の組み立て作業をしたり・・・と想像していたようで、実際の作業(生活支援センターでの作業)とのギャップにも戸惑いがあったようです。


今考えたら、職員の方にはずいぶん苦労をかけていたと思います。学校では二人の生徒にひとりの先生がついてくれましたし、広い校庭などストレスを解消できる環境もありましたけど、作業所はそうはいきません。毎年、高等部から新しい卒業生が入ってくるのですが、どうも2年目からうまくいかなくなった気がします。そこで、友人の紹介で別の施設に移ることにしました。半年以上おとなしく通っていましたが、何か気に入らないことが増えたのか、物をひっくり返すようになり、まわりが怖がるのでそこも辞めざるを得なくなりました。


やはり、共感はとても大切で忘れてはいけないものだとは思いますが、その根っこには将来を見通して、幼いころから地道に療育を行っていくことが障害のあるなしに関わらず、親としての役目があるのですね。こうちゃんママが述懐しておられるように、「毎日笑顔で穏やかに過ごせるように」することや、また自分の思いを適切な方法で伝える手段を身につけさせてあげることも大切ですね。そんな親のかたの助けに少しでもなれば、と、ぐんぐんでは療育に支援ツールやPECSなども取り入れています。


なにしろ、どんなに小さくて可愛いわが子も、やがては大きくなって社会に出て、親よりもずっと長生きしていくものですね。
健常児なら、成人したら自己責任!と言うこともできるかもしれませんが、自閉症を持ってこれからも生きていくわが子たちには、そっと社会に出ていくための後押しぐらいはしてやりたいと思っています。
ただし、そっと後押しして手を離したあと、無事に親亡き後も生涯幸せに暮らしていけるかどうかは・・・先に逝くものとしては、世の中を信じて託すほかはありませんが (*^_^;)


本書の最後の『幸せな子とは?』に綴られている“ママのひと言”です。


親が亡き後、こうちゃんが自立して生きていくにはどうしたらいいか、いつも悩んでいます。
理想としては、昔の長屋みたいな、見守り合える障がい者グループホームがあればいいなあと思います。現在、こうちゃんは気分が不安定で作業所に週2日しか通えていませんので、自分たちで作業所を立ち上げられたら、とも思います。


こうちゃんもまだ22歳、こうちゃんや自閉症の方に合った働き場所や暮らす場所を早くみんなで作って、こうちゃんが安心して過ごせるようになれることを祈っています。


文章で4コマまんがの楽しい世界を紹介することは難しいですが、日々子育てに頑張っておられるお母さん方にも、たまにはクスッと笑ってほしいと本書をお薦めします。


        (「育てる会会報 246号 」(2018.10)より)


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目次


  まえがき 自閉症の息子「こうちゃん」のこと

  こうちゃんファミリー紹介


自閉くん4コママンガ ① 自閉くん、あばれる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 幼年期 ①
                       幼年期 ②

  こうちゃんママが考えた自閉くん子育てアイデア集 ①


自閉くん4コママンガ ② 自閉くん、こだわる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 少年期 ①
                       少年期 ②

  こうちゃんママが考えた自閉くん子育てアイデア集 ②


自閉くん4コママンガ ③ 自閉くん、大人になる。

  こうちゃんママの子育てエッセイ 青年期 ①
                       青年期 ②

  あとがき 自閉くんが気づかせてくれたこと