かがやけ! ASDキッズ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

山根 ひろ子:著  本の種出版 定価:2200円 + 税 (2018.4)

 

            私のお薦め度:★★★☆☆

 

毎月の会報の「私のお薦め本コーナー」に続く「近隣の講演会等のご案内」に興味を持って見ていただいている方は、よく
ご存知のことと思います。神戸で5回連続の「自閉症学習会」を上期・下期と年2回に分けて長年続けていただいている山根弘子先生の著書です。

 

“ 支援教室「ほっと」の実践録 ”と副題にあるように、山根先生が知的障害の養護学校を定年退職されてから、ASD(自閉スペクトラム症)児のための、支援教室「ほっと」(灘の「のびやかスペースあーち」と、須磨の「すまいるほっと」)で療育にあたられます。

 

退職後の人生を、ASDの子どもたちのために捧げたいと思ったのは、養護学校で出会った子どもたちの魅力に取りつかれたからですが、一方で、力及ばず守ってあげられなかった生徒たちへの、罪滅ぼしの気持ちもわずかながらあったのです。

 

それは、当時の養護学校(現在の特別支援学校)で行われていた“教育”がASDの特性に全く配慮されない、旧態依然とした体制だったためでしょう。

 

また、学習発表会が近づいた頃のことです。

主役に選ばれたEさんが舞台での練習をいやがっていました。3人の担任のうちの一人が無理やり練習に連れ出そうとしたところ、彼女はトイレに逃げ込み、中から鍵をかけて籠城してしまいました。すると、その担任はホースでドアの下から放水し、トイレから引きずり出したのです。足を靴ごとびしょ濡れにされて泣きながら出てきたというのです。体罰以外の何ものでもありません。

私はそれをあとから聞き、当該担任に抗議しましたが、「担任以外が口をはさまないで!」と聞き入れませんでっした。そんなひどい虐待がトラウマとなって、高等部に進んだのち、Eさんはとうとう不登校になってしまいました。この責任は誰がとるのでしょうか。

 

親以外にも、子どもたちの味方になって怒ってくれる先生がいてくださったことは救いですが、本当に責任は誰がとるのでしょうか・・・そんな慙愧たる思いを抱いたまま退職された山根先生、“自由の身になって”始められた「ほっと」での療育は、当然ながら一人ひとりの子どもたちの特性に配慮して、子どもたちや親の想いに寄り添ったものでした。


参考にしたと言われる理念や理論は、TEACCHを理念の柱として、PECSやソーシャルストーリー、コミック会話、英国自閉症協会でのSPELLなど、今私たちがぐんぐんでの療育にとりいれているものとほぼ同じようなものだったそうです。岡山でぐんぐんを始める10年以上も前から、神戸の地ではASD児たちのための実践が始まっていたのですね。

 

なかでも、本文の事例でもたくさん紹介されている「わかるストーリー」は、ソーシャルストーリーを基本にして、目の前の子どもの困っていることに合わせて、本人が理解できるようなことばで工夫されて作られ、参考になることが多いです。
例えば、2つ年下の妹の泣く声が苦手で、「うるさい!」とどなったり、叩いたりしてしまう直哉くんに作られた「わかるストーリー」です。

 

○ 小さい子はなぜ泣くの?
あやちゃんは、2さいの かわいい いもうとです。ぼくは ときどき ほんを よんであげたり、いっしょに あそんであげたり することがあります。そんなとき あやちゃんは うれしそうに しています。
でも、2さいぐらいの ちいさい こどもは ねむたくなると きげんが わるくなって、ないたりするものです。
ぼくは 4さいだから、ねむたくても がまんします。だれでも おおきくなると なかなくなるものです。だから ぼくは あやちゃんが おおきくなるまでは ないても、おこらずに がまんしようと おもいます。

 

これを読むと、怒ることが少なくなりました。そして、本を読んでやったり、・・(中略)・・優しい態度を見せたり、いっしょにままごとをして遊んだりするようになりました。肯定的なアプローチによって、驚くほど素直に納得してくれるのをお母さんは実感しました。

 

こんな風に、文字に書いたり、絵で伝えるなど、視覚的に優位な特性に配慮すれば、それこそ“魔法のように”改善することも多い子どもたちです。

でも、それゆえ学校などでは、子どもたちを動かすカード、指示するツールとして使おうとしてしまうことも多いようです。

 

まだ時計がわからない段階では、とりあえず、視覚的にわかりやすいタイムタイマーなどを使って、「ピピッ」と鳴ったら終わりであることを教えたらどうでしょう、とも言いました。すると、「タイマーも使ってみたけど効果がありません。運動場で遊んでいるとき、タイマーが鳴っても彼は遊びを終わらせることができませんでしたから」とのこと。
どうやら、先生はタイマーを純の行動を規制するために使おうとしていたようでした。タイマーを使うとしたら、タイマーが鳴ったら授業が終わって、休憩時間になることから始めてほしいのです。楽しみな活動の開始時間を知るという、本人にとって知りたい情報を伝えるツールとして、まずは使ってもらうとよかったのに。

同じようにタイマーを使っても、使う目的や、支援者のスタンスによって、その意味が変わってくるのです。支援者は常にASDの子どもの視点で、どんな支援をすれば納得できるか、安心して楽に過ごせるかを、考え続けなくてはと思います。

 

さすがに、学校においては、子どもたちへの虐待と思われるような指導は減ってきたと信じたいですが、まだまだ視覚支援や構造化など、間違って便利な道具として使おうとすることもあるようですね。

 

それはさておき、他にも、「役立ちアイテム」として手順書や支援ツール、SST線画など、いろいろ紹介されていますので、アイデアやヒントがもらえる1冊だと言えるでしょう。


山根先生は理論家や研究職ではなく、元教師の方ですから、本書も体系的に理論を組み立てていくのではなく、登場する子どもたち、一人ひとりに合った方法を工夫して実践されています。その意味では、我が子と向き合って子育てしているお母さんには役立つことが多い本だと言えるでしょう。

もちろん、相手は手強い(?)ASD児たちですので、全てがすんなり行くわけではなく、一つ解決したら別の問題がでてきたり、うまくいっていると思っていたら、いつのまにか元に戻っていたり・・・と、試行錯誤しながらの日々が続きます。
それでも、適切に対応していけば、らせん階段を登るように子どもたちは必ず成長していきます、そんな希望が感じられる一冊となっています。

 

残念ながら、一緒に支援教室を支えられてきたご主人が病気になられ、2014年には支援教室を閉じられたそうです。善意のボランティアの方たちの協力により運営される活動では、やはり中心になる方が抜けられると、どんなに有意義な活動であっても継続が難しくなるということなのでしょうか。私たちも、ぐんぐんの療育がずっと続いていくよう法人としての運営を次の方たちにしっかりと引き継いでいかなければいけませんね。

 

そんな山根先生、現在は「児童発達支援センター六甲ふくろうの家」で個別療育教室を担当されるかたわら、各地で講演活動をされていらっしゃいます。
今月号の「近隣の講演会等のご案内」の中にも6月に行われる山根先生の勉強会の案内がありますので、本書を読まれて興味をもたれた方は、ぜひ一度足をお運びください。

 

            (「育てる会会報 241号」 2018.5より)

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目次

 

  はじめに

 

  序章1 私とASD、そして療育
  序章2 支援教室「ほっと」へようこそ!

 

    コラム 「ほっと」が参考にした理念・理論
          TEACCH
          NAS など

 

本章 かがやけ! ASDキッズ

 

  1. 直哉 ○ 利発な「困ったチャン」 
  2. 翔真 ○ 「英語なら任せて!」
  3. 舞   ○ ママはサポートの達人
  4. 賢太郎 ○ 姿勢はなおるときがくる!
  5. 道夫 ○ マイルールに縛られるつらさ
  6. 高司 ○ キャンプで目覚めた楽しみ
  7. 英治 ○ 「一番でなきゃイヤだ!」
  8. 雄太 ○ 通り過ぎない嵐はない!
  9. 絵里 ○ 「読んでガッテン!」
  10. 涼太 ○ この世は不安でいっぱい!
  11. 雅彦 ○ あまのじゃくにはわけがある!
  12. 千尋 ○ ファンタジーの世界に遊ぶ
  13. 純  ○ 練習は苦手でも、本番はバッチリ!
  14. 吉紀 ○ スケジュールは命綱
  15. 大輔・伸二 ○ おばあちゃんのグッジョブ!

 

    コラム 療育の視点
      「わかるストーリー」の書き方
      気持ちの5段階表
      ハグの効果
      スケジュールとごほうび ①
      スケジュールとごほうび ②
      自立への準備は幼少期から
      サポートブック
      ルールのあるゲーム
      ごほうび・トークン
      「ごほうびのフェードアウト」で思い出すこと
      カームダウンエリア
      抽象的な言葉は理解しにくい
      擬態語・擬音語の効果
      ASDと時系列の混乱
      時計と文字
      エコラリア
      子どもハーネス
      視覚的コミュニケーション 

 

  付録 「ほっと」のオリジナル教材

  おわりに

  参考文献