宮尾 益知:監修 (株)ドコモ・プラスハーティ:協力 河出書房新社 定価:1400円 (2018.2)
私のお薦め度:★★★☆☆
みなさんも「特例子会社」については、名前は聞いたことがあると思います。また、昨年11月には18歳の春を目指すクラブで、ベネッセグループの特例子会社の「ベネッセビジネスメイト」を見学させていただいたので、参加された方は様子もお分かりだと思います(会報235号)。
今、倉敷や福山で障害者の大量解雇で問題となっている就労継続支援A型事業所、その中でも「悪しきA型」と呼ばれている事業所は、「障害者は金になる」と儲けを目的として、いっせいに参入してきた営利企業を認可したためと言われます。では、同じ営利を目的とする親会社が設立・運営する特例子会社には、なぜこんな問題がおこらないのでしょうか?
一つには、親会社が経営規模の大きい、いわゆる大企業といわれる会社で、子会社も安定した経営になっているからでしょう。また、それ以上に障害のある人も安心して働けるようにという社会貢献の経営理念があるからこそのように思えます。もちろん、営利企業ですから、できるだけ利益がでるように、それも「悪しきA型」のように行政からの補助金目当てではないので、いかに働き方を工夫して効率を上げていくかを模索しながらの運営です。
さて、それらを踏まえての本書の登場です。「発達障害者の自立・就労を支援する本:ドコモが実践する発達障害者・知的障害者の理解と対応策」と副題がついています。
本書のコミック部分はNTTドコモグループの特例子会社の株式会社ドコモ・プラスハーティの社内で実際に使われているものだそうです。ストーリー仕立てでわかりやすく、時にユーモアを交えて「コミック」として楽しく読めるようになっています。
「職場全体で発達障害の特性を知る」とあるように、職場の方みんなが私たち保護者や支援者が読むような専門書を読んでくれるわけではありません。また、上司や指導員の方が勉強熱心だとしても、会社に異動はつきものです。それまで理解してくれた方が異動になったとたん、会社に行きづらくなったというのもよく聞く話です。職場全員の方に知ってもらうためには、この本のようなコミックが適しているのでしょう。
また、本書はそのコミック以外にも解説として、発達障害の特性に関する簡単な説明や、職場で起こりそうなトラブルやその対応策、社員を成長させる良い「叱り方」や「ほめ方」、逆に混乱させたり、逆効果になる「叱り方」「ほめ方」、また上手な指示の出し方なども、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如/多動性障害)、知的障害などに分けて、イラスト付きで具体的に網羅されています。その意味では、「特例子会社」だけでなく、普通の会社に一般就労されている方、また発達障害を持つ人と一緒に働かれている方にとって、すぐに役立つような一冊だと思います。
ASDの社員を成長させる「叱り方」
□ 注意する前に本人の言い分を聞いて、ミスの原因を一緒に考える姿勢を持つ
□ 本人に求める仕事のレベルを明確にする
□ 叱る時は、短く具体的な言葉で叱る
□ ミスをしたら時間を空けずにその場で注意する
□ 叱った後は、しっかりフォローする
注意したり叱っても改善が見られない場合は、叱り方を変えて行動の変化を確認します。
それにしても、特例子会社の中では、ここまで特性に配慮した運営を行っている会社があるのですね。ドコモ・プラスハーティは、私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトと同じく、グループ企業のビル清掃などを行っているそうです。
清掃した部分は検査装置(ルミテスター)で測定し、清掃の品質管理を行っています。清掃後のテーブルなどに残った有機物の数を見るもので、名刺大の範囲を綿棒で拭き取って測定します。まな板なら500程度の数値で問題なしとされるところ、目標値を100未満に設定し、それを実現しているそうです。
「ここまで厳しくするのは、障害者が清掃しているのだから、この程度だろうなどと思われないようにするためです。さらに、品質の高さを数値で示すことができ、自分たちが清掃するオフィスで働く人たちの健康に役立っているのだという意識を障害者の従業員たちに持たせることが重要だと考えているからです」
それが仕事へのやりがいや誇り、自分への自信につながっていくことを期待していると、岡本担当部長は力を込めて語っています。 (「ドコモ・プラスハーティ 潜入ルポ」より)
他にも、昼食後に公文式学習を取り入れたり、身体機能改善のためのヨガも行っているそうです。
「障害が重い人の中には体の動かし方が不器用だったり特徴的な歩き方をする人もいて、作業中の転倒が懸念でした。そのリスクを減らすために、体幹を強化できるヨガを始めました。ヨガには呼吸法も入っており、深く呼吸をすることで体や精神のストレスを発散できる効果もあります。」(同)
私たちもヨガではありませんが、自閉症児・者の体の動かし方には気になるところもあり、次回の総会記念セミナーでは理学療法士の藤井直基先生をお招きして、体の使い方について指導していただくことにしています。
思いは同じですね・・・余談でした。
こうした努力で、プラスハーティでは雇用を始めた2012年からの5年間で、入社した65名のうち、退職したのは1名だけという高い定着率となっているとのことです。
そんな恵まれた環境の特例子会社ですが、平成29年6月現在で、全国で464社、岡山ではまだ6社だけだそうです(私たちが見学させていただいたベネッセビジネスメイトは、親会社は岡山ですが、会社設立は多摩市のため岡山にはカウントされていません)。
まだまだ特例子会社自体で働かれている方の数は少ないため、本書は一般就労されている方や、就労継続支援A型、B型、就労移行支援などの福祉的就労されている現場で、発達障害の方にも役立てていただきたい一冊となっています。
(育てる会会報 239号」 2018.3より)
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コミックでわかる特例子会社の仕事の進め方
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発達障害の基礎知識
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ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD お母さんができる発達障害の子どもの対応策 問題行...
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目次
はじめに
第1章 発達障害があっても働ける職場
コミック episode 1 長所を上手に伸ばして働ける会社
解説編 徐々に増えている発達障害者の雇用
障害者が働きやすい特例子会社
対談 第1回 発達障害の人たちのために新たな枠組みの職場が求められている
宮尾 益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
岡本 孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)
ドコモ・プラスハーティ潜入ルポ
① 障害者が働くNTTドコモグループの子会社
② 障害があってもプロとしての清掃業務をするために
③ 障害をサポートするジョブコーチが社内にいる強み
④ 長く働いてもらうために勤務時間内に学習時間を設ける
第2章 職場全体で発達障害の特性を知る
コミック episode 2 一人ひとりの特性を見極めて “次” へ
解説編 発達障害は主に三つに分類される
ASD=(自閉症スペクトラム/アスペルガー症候群)の基本的な特性
ADHD(注意欠如/多動性障害)/LDの基本的な特性
Special colomn 特例子会社社員 英 太郎のひとり言 ①
英 太郎のひとり言 ②
第3章 職場内のトラブルを防ぐ
コミック episode 3 特性に合わせた指示や注意が社員を伸ばす
解説編 職場での主なトラブル ASD編
職場での主なトラブル ADHD編
社員を成長させる「叱り方」、「ほめ方」
逆効果になってしまう「叱り方」、「ほめ方」
対談 第2回 「うちは、いい会社だよ」といってはいけない
宮尾 益知 × 岡本 孝伸
第4章 仕事のトラブルを防ぐ指示の出し方
コミック episode 4 それぞれの特性に合わせて指示の仕方を変える
解説編 上手な指示の出し方 ASD編
上手な指示の出し方 知的障害者編
対談 第3回 身体のさまざまな領域が伸びる環境作り
宮尾 益知 × 岡本 孝伸
第5章 あいまいな表現は、伝わらない
コミック episode 5 知的な遅れがなくても特性がある社員への対応
解説編 特性のある人との会話での注意点
第6章 長く勤められるように会社がすべきこと
コミック episode 6 理解のある上司がいれば大丈夫
解説編 特性があっても居心地の良い職場をつくる
対談 第4回 障害者雇用で会社は、より強くなる
宮尾 益知 × 岡本 孝伸
付録 特例子会社一覧/東京版
奥付/参考文献