どろだんご 2 ~発達障害と共に歩む~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

瑠璃 真依子:著 文芸社 定価:1200円+税 (2017.10)
 
          私のお薦め度:★★★★☆
 
5年前に発刊された「どろだんご」に続く瑠璃真依子さんの最新刊です。
瑠璃さんについては、もうみなさんよくご存知だと思います。
育てる会でも講演をお願いした、岡山に住む素適なお嬢さんです。

前著では25歳までの生い立ちと、障害を告知されるまでの苦しみや挫折、大学3年で発達障害と気づくまでの話が綴られています。
 
そして大学三年時、教育学部の授業で勉強した「発達障害」の特徴があまりにすべてを満たしていること、そして心理士の人の対応が発達障害の人への対応と同じことから、「あっ、私はこれだ、これだったんだ」とピンときました。(前著「どろだんご」より)
 
それまで「うつ病」、「拒食症」、「適応障害」、「解離性人格障害」など、さまざまな診断を受けても釈然としなかった疑問がはれた瞬間だったのでしょう。
 
そんな中、やはり私は教師になっていろいろ辛い思いをしている子どもたちを一人でも救いたいと思い、もう一度頑張ることを決めました。(同)
 
そうして、教師となり、やがて再びの挫折から、教師の職を辞め入院・退院を経て (この病休中に主治医から、正式(?)に「広汎性発達障害」の診断を告げられたそうです)、立ち直りに向け歩き始めたところまでが、前著「どろだんご」でした。
 
さて、それから5年後の本著です。
瑠璃さんの5年間、何があったのでしょう。
ご存知の方もあると思いますので、結論から言えば、理解ある今の御主人と知り合って愛し合い、結婚をしてお子さんも生まれ、瑠璃さんも母となる・・・と、いうことなのですが、書いてしまえば、極めて順調な5年間のようですが、やはりそう簡単に一本道ではいかないのが、発達障害の方の人生です。

感覚にも特異性があり、考え方や言葉の受けとり方にも独特のものがあります。
妊娠してからのお話しです。
 
安定期に入る手前、だいぶ悪阻(つわり)も落ち着き、今度は動きたい衝動に駆られていた。そこで先生に、「いつから運動してもいいですか?」と聞いてみると「安定期に入る五か月からは少しずつ体を動かしてもいいですよ」と言ってくれた。そこで安定期に入る五か月ぴったりの日、プールに行って一キロ泳いだ。すると家に帰ったら出血し、病院に運ばれることになった。

赤ちゃんは無事だったけれど、先生に「少しずつって言ったでしょ? 自分の体と相談してくださいね」と言われ、「私、自分の体が分からないのです。疲れているとかしんどいとか、そういう感覚がなくて・・・」と言ったら、「先生もあなたじゃないから分からないよ」と言われ、その通りだと思った。そして加減が分からない私の運動がしばらく禁止になった。

それから八か月になるまで運動は我慢した。そして八か月から具体的に水泳八百メートルと決めてプールに行き、泳いだ。お腹が大きくなる十か月まで泳いだ。水着が入らなくて、最後は母のを借りてまで泳ぎに行った。
なかなか妊婦さんが十か月までクロールで泳いでいる姿はないらしくて、やっぱり私は変わっているのかもしれないと再認識した。
 
思わず笑ってしまいそうなエピソードですが、ご本人にとってはいたって真面目なお話しです。
身体を動かしているのが普通のADHDの人にとって、運動制限はすごいストレスで、瑠璃さんのように鬱になるケースまであるそうです。
他にも私たちが当たり前と思っていることでも、まだまだ気づかない発達障害の方の生きづらさはたくさんあると思います。
本書は当事者としての目線から、それを教えてくれる貴重な一冊であるのは間違いないと言えるでしょう。
 
【風邪を引いた母は嫌い】 
私は、昔から母が風邪を引いた姿を見るのが嫌だった。嫌というレベルではなく、動悸がしてパニックになって泣けるくらい嫌だった。
なぜ嫌かというと、いつもと違う状態を受け入れられないからだった。小さいころならまだしも、高校生になってもそれは同じだった。妹が風邪を引いても意地悪をしてしまうくらい嫌だった。母は「しんどいのに、お茶でも持ってきてくれないだろうか」と思っていたらしい。
 
お母さんの気持ちはわかりますね。発達障害と診断される前であれば、風邪を引いてしんどいのに、なぜ自分が娘に嫌われているのか全く分からなかったでしょう。
私たちにしても瑠璃さんから教えてもらえなかったら、その理由が「いつもと違う状態が許せない」という障害の特性からきているとは気づかなかったのではないでしょうか。
 
【フンフン攻撃】
私は、それまで人が話しかけてくれても、自分は聞いているつもりだったが、他の方を向いたり、違うことをしていたと思う。でもこの先生は「人の話を聞く = その人の方を向いてフンフンと頷く」と具体的に教えてくれたから、やっと私は、理解した。多分他の人は自然と身につけていくのかもしれないが、私はこうやって具体的に教えてくれないと分からない。二十歳過ぎてからでも人の話を聞くということを知ることができて本当によかった。
散々「人の話を聞け」とは言われてきたが、こういうことだったのかと初めて納得した。この教えてくれた先生には心から感謝している。だが実際に人の話を理解するには、やはり紙に書いて渡してほしい。
 
こんな風に瑠璃さんは、私たちにたくさんの事を教えてくれています。
瑠璃さん自身もこの“フンフン攻撃”で苦手だった面接試験をクリアし、岡山をはじめ三県での教員採用試験に全て合格できたそうです。
 
そして本書ではそれからの5年間、傍から見れば順調な歩みの蔭には、ご両親やご家族、そしてなによりご主人の理解と支援があったからこそ・・・ということを教えてくれます。
人はお互い助け合って生きている、と言われますが、発達障害など弱い部分、苦手なところのある人にとっては、余計それが大切だと実感させられた本です。
 
今お子さんを育てているご家族、特に女の子をお持ちの親御さんにとっては、理解ある男性に巡り合うことができて、必要な分だけの支援があれば、わが子たちも将来家庭を持ち、母親となることができるのだ、という明るい希望をもらえる一冊だと思います。

・・・男の子の場合には、家庭以外にも、職場での社会性やコミュニケーションも求められますので、ハードルはもう少し高いかもしれませんね。でも適切な支援や環境があれば乗り越えられる、というのは同じだと思います。
 
最後に瑠璃さんがそんなご主人との結婚を決められた時の話です。
 
【結婚】
プロポーズは付き合ってから半年で受けた。そのあと、両家に認めてもらうため、本当に二人でやっていけるかどうか一年という約束で同棲した。結婚を認めてもらうために二人で一生懸命頑張った。家事ができないので週二回家事支援を使って料理と掃除を手伝ってもらった。情緒不安定になったり、喧嘩もたくさんしたが、そのたびに地域生活支援センターに二人で行って仲介してもらいながら振り返り、原因を探ったり対策を考えたりした。
なぜ、彼との結婚を決めたのかは、後に書いているので読んでほしい。
 
さて、ここで問題です。瑠璃さんはなぜ結婚を決めたのでしょう。
それは、ぜひ本書を手に取って、ご自身で読んでいただきたいと思います。
本当に心に残るエピソードです。
私が本書をぜひともお薦め本に入れたかったお話しです。読み終わった貴方と、また本書について語りあいたいと思います。
 
          (「育てる会会報 234号」 2017.10 より)
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目次
 
1 序文
 
2 復職プログラム
 
3 教職退職後
    学習塾経営
    高等学校講師
    発達障害者当事者会
    講演活動
    結婚
    バスケットボール
    スポーツジム
    プール
    妊娠
    出産
    子育て
 
4 人との違い(私の障害の特性)
    自分の体の感覚
    じっとできない(ADHDの特性)
    集めることが好き
    見えないものへの不安感
    人の気持ちを汲み取ること
    大勢の場所や新しい環境
    見ているところ
    片づけができない
    同時にできない
    記憶とフラッシュバック
    コミュニケーションの取り方
 
5 発達障害の特性が現れた事件
    机ひっくり返し事件
    スカートめくり事件
    風邪を引いた母は嫌い
    おにぎり投げつけ事件
    サーモンいくら丼事件
    みんなでのお昼ごはん事件
    フンフン攻撃
    スポーツ飲料事件
    教室ずぶぬれ事件
    体育会は生徒が主役事件
    自殺未遂をしたときのこと
    大型ショッピングモール事件
    子どもの参観日
 
6 障害との付き合い方
   (1) できないことを認める
   (2) 苦手克服よりも得意を伸ばす
   (3) 自分の好きなことをする
   (4) 自分のできることをする
   (5) 無理はしない
   (6) 障害というより個性だと思う
   (7) 「助けて」が言えるようになる
   (8) 「ありがとう」と感謝する
 
7 現在受けているサポート
   (1) 生活面
        家事支援
        移動支援
        スケジュール管理と相談
   (2) 経済面
        障害基礎年金
        精神保健福祉手帳
        自立支援医療
 
8 家族について
    父
    母
    妹
    祖父母
    夫
    息子
 
9 終わりに
 
   あとがき