イラストでわかる ABA実践マニュアル | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

NPO法人つみきの会:編  藤坂 龍司・松井 絵理子:著  合同出版  定価:2400円 + 税
 
               私のお薦め度:★★★☆☆
 
応用行動分析(ABA)については、効果があることは知っていても、少しとっつきにくいと二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょか。
それは、先日紹介した「子育てブラック・ジャック」こと、奥田健次先生は別にして(奥田先生は即効的に子どもたちの行動を変化させておられます)、一般的な応用行動分析療法には集中して、また継続して長時間取り組むことが求められ、専門的なセラピストを必要とし、したがってそれにかかる費用も相当な額になることが一因でしょう。

最初にABAを考案したカリフォルニア大学ロスアンゼルス校のロバース博士によると、2~3歳の自閉症幼児に週40時間のプログラムを2年以上継続したところ、47%の子が小学校入学までに知的に正常域まで達したということですから、確かに効果的な療法ではあるのでしょう。
著者によると、米国やカナダでは公費や医療保険で行われる州もあるそうですが、日本では全額親の負担であり、まして週40時間というと常勤者の労働時間ですから、一人の専門家の給料を2年以上自腹で支払うとなると・・・・よほどの資産家、高給取りでないと、あきらめざるをえませんね。
 
そこで、本書の登場です。著者は、自らが子育ての中でABAプログラムを体験し、その効果を実感して、多くの親の方に伝えたいと「NPO法人 つみきの会」を設立し、ABAホームセラピーの普及を目指している 藤坂龍司氏とセラピストの松井絵理子氏です。
なかなか専門家を見つけることが難しい地方都市に住む親にも、家庭で一人でも始められるようにとイラスト入りで、基礎の話から始めて、初級 ⇒ 中級 ⇒ 上級とプログラムも段階を踏んで、具体的なかかわり方を解説しています。
 
例えば、基礎編としては、ABAでは行動の直後に起こる行動を大切にして、強化・消去・罰などの手法により、適切な行動を増やし、不適切な行動を減らすことを目指しているわけですが、本書では事前の工夫の効果についても述べられています。
子育て中の親としては、日ごろの生活の中で、自然に取り組まれていることも多いと思います。これについてもABAの理論から解説されています。
 
行動を本当に変化させるのは、行動の前の出来事ではなく、行動の直後の働きかけ、つまり強化、消去、罰です。ですから問題行動への対処も、これらの結果の操作が中心になります。
しかし、ときには事前の工夫が効果を発揮することもあります。とくに子どもが大きくなってくると、消去に対する抵抗が大きくなってくるので、事前の工夫の必要性が増してきます。
 
物理的な工夫の例
● つなぎの服を着せることで、性器いじりをむずかしくする。
● ドアに二重ロックをして、家からの脱走を防ぐ。
● 踏み台を撤去することで、高いところに登れなくする。
● 教室からの脱走を防ぐために、なるべく入り口から遠い席に座らせる。
 
これらは問題行動を起こりにくくするだけで、根本的な解決策にはならないように思われるかもしれません。しかしそうでもありません。
たとえば、ドアに二重ロックをすると、子どもがドアを開けようとしても開かないので、強化が得られません。つまりドアを開けようとする行動が消去されることになります。事前の物理的な工夫の多くは、実は自動的に消去を引き起こすための事前のしかけ、と考えられるのです。
 
また初級編では、セラピールーム(コーナー)を作るための注意事項や、いすに座るための方法から入るわけですが、教え方はセラピーという形式で、机をはさんでマンツーマンで取り組みます。身辺自立にしても同じです。
 
衣服の着脱などの身辺自立スキルは、日常生活の機会を利用して教えるもの、と思っている方が多いようですが、そうとはかぎりません。
朝のいそがしい時間やかぎられた時間で教えるよりも、セラピーで体系立てて教えた方が身に付きます。
 
こうして、指導は中級、上級と進んでいくわけですが、2語文から3語文、過去と現在・未来から曜日や時間の理解、数の数えから足し算、そして会話も進化していきます。
 
中級では「これ何?」「誰?」「どこ?」「何してる?」などの質問を区別して答えることを教えましたが、上級になると「どうして?」や「どうなる?」が加わってきます。
これらの質問に答えるためには、物事の原因や結果を理解する必要があるので、これまでより高度な知的能力が必要になります。
 
こんな風に伸びていってくれるといいですね。
でも著者もコラムでも書かれているように 『中級は「行ったり来たり」』 思うように進まないこともあると思います。
また、著者が指摘している通り、それぞれの知的能力もかかわってくるでしょう。

最初に書いたロバース博士が発表した研究結果の裏返しとして、残りの53%では週40時間のプログラムを2年以上続けても、残念ながらそこまでの知的の伸びは見られなかったということでしょうから、上級までは進めなくても、「当たり前にできることが繰り返しているうちに少しずつでも増えている」ことを、親子で喜んでいただけたらと思います。
 
また、その他にもABAが敬遠されることの一つに、専門用語が多くてとっつきにくいということがあるかも知れません。本書では、それらについても身近な例をあげて、わかりやすく説明してくれています。

例えば 
 
DRO(多行動分化強化)「問題行動以外の適切な行動を強化することにより、間接的に問題行動を減らすこと」 : 授業中に席を離れてウロウロしている子には、席についているときに先生がほめてあげる。

DRA(代替行動分化強化)「問題行動の代わりになる特定の行動を選んで強化すること」 : ツバを丸めて口から出し入れしている子には、替わりにチューインガムを与える。

DRI(対立行動分化強化)「問題行動と物理的に両立できない行動を選んで強化すること」 : 性器いじりをする子には、両手を使わない工作などを強化する。

・・・など言葉は難しくて覚えられなくても、どんな風に関わっていけばいいかを教えてくれています。
 
こんな具合に、まずは家庭でお母さんが取り組めるABAホームセラピーの入門書、実践マニュアルです。
週40時間は無理としても、子どもたちに適切な行動が増え、もっと親子に笑顔を増やすためのヒントはたくさんある1冊だと思います。
無理のない範囲で参考にしていただきたいと思います。
 
                   (「育てる会会報 215号」 2016.3より)
 
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目次

  はじめに
  本書の使い方

第1章 ABAの基礎 ① ・・・・ 行動を理解する4つのポイント

  1 行動を理解しよう① 強化
  2 行動を理解しよう② 消去
  3 行動を理解しよう③ 罰
  4 行動を理解しよう④ 行動をする前の出来事

  〈コラム〉 強化、消去、罰のちがい

第2章 ABAの基礎 ② ・・・・ 問題行動に対処する4つの方法

  5 問題行動の原因を理解する
  6 問題行動に対処する① 消去
  7 問題行動に対処する② DRO
  8 問題行動に対処する③ 罰
  9 問題行動に対処する④ 事前の工夫

  〈コラム〉問題行動こぼれ話

第3章 ABAの基礎 ③ ・・・・ 教え方4つの技法

 10 教え方の基本① プロンプトと強化
 11 教え方の基本② ディスクリートトライアルとランダムローテーション

  〈コラム〉強化子の紹介

第4章 ABA初級プログラム

 12 セラピーの準備
 13 はじめの課題・いすへの誘導
 14 マッチング
 15 動作模倣
 16 音声指示
 17 食事スキル
 18 目合わせ
 19 音声模倣
 20 物の名前づけ① 受容的命名
 21 物の名前づけ② 表出的命名
 22 要求表現
 23 衣服の着脱
 24 こだわりを克服する
 25 遊びを教える
 26 関わり遊び
 27 動詞の表出

  動作模倣・音声指示 課題のリスト
  動詞の表出 課題のリスト

  〈コラム〉初級セラピーこぼれ話

第5章 ABA中級プログラム

 28 色・形
 29 2語文
 30 分類
 31 形容詞
 32 位置
 33 社交的応答
 34 時制
 35 物の特徴
 36 3語文を教える
 37 数
 38 ごっこ遊び
 39 お絵かき
 40 トイレトレーニング
 41 集団の中へ
 42 ピアトレーニング
 43 イエス・ノー
 44 質問の弁別
 45 勝ち負け
 46 じゃんけん
 47 服の前後とボタンの教え方
 48 情報交換
 49 順序

  〈コラム〉中級は「行ったり来たり」

第6章 ABA上級プログラム

 50 どうして? どうなる?
 51 会話の発展
 52 文字の読み
 53 文字を書く
 54 曜日と時間の理解
 55 いい・悪い
 56 おにごっこ・かくれんぼの練習
 57 ルールのある遊び
 58 他者視点
 59 あげもらい・受け身
 60 足し算
 61 なわとび
 62 体を洗う

  〈コラム〉小学校入学に向けて

  おわりに (療育関係者のみなさまへ)

  参考になる本