あらあら ともちゃん先生奮闘記 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

成沢 真介・飯田 朋子:著 ウノ・カマキリ:画  星の環会  定価:1300円+税 (2015年1月)
 
     私のお薦め度:★★☆☆☆
 
ちょっと変わった題名と表紙のイラストに惹かれて手に取りました。
著者の成沢真介さんは、岡山の特別支援学校の現役の先生で、すでに何冊もの著書を出版されているので、ご存知の方も多いと思います。また、担任の先生として受け持ってもらわれた方もいらっしゃるかも知れませんね。
 
その成沢先生による第1部は、特別支援学校の小学部3年の「川野太一」くん:通称「タイちゃん」をモデルにして、自閉症をもつ人(子ども)と、持たない人(先生・大人)とのコミュニケーションの擦れ違い、お互いの理解の難しさについて、たくさんのエピソードを交えて紹介されています。
 
最初は担任の先生(私)から見たタイちゃんの様子や、対応の失敗例を挙げ、次にタイちゃんの視点から、どうしてそのような「問題行動」(と、見えるもの)を引き起こしてしまったかという見方が書かれています。
もちろん、自閉症をよく理解されている、著者の成沢先生ですから、実際にこんな対応をされるはずはなく、全て架空のエピソードだと思います。頭の中で考えられたエピソードだけに、若干ステレオタイプで、これまでお薦め本で紹介してきた、小道モコさんや瑠璃真依子さん、東田直樹さんなど、ご自身の体験を「自分の視点」から語られている本に比べればインパクトは弱いかも知れませんが、その分誰にでもわかりやすい、自閉症児に共通の特性が抽出されていると言えるでしょう。
どちらも良い特徴があるので、読み合わせていただきたいと思います。初めて特別支援学校に赴任してこられたり、来年度から特別支援学級で自閉症を持つお子さんを担任されることになられた先生には、こちらの本の方がお薦めかもしれませんね。
その意味では、本書は成沢先生が後輩の先生方に「これだけは分かっておいてほしいこと」と伝えたい思いで書かれた本と言えるでしょう。
 
例えば、給食の際のエピソードの中からです。
 
【給食】
いただきますの後、唐揚げの前にみそ汁を食べてもらおうと思い、川野さんの前にみそ汁を置いて言いました。
「みそ汁飲んだら、唐揚げあるからね」
でも、手がのびてきます。私はその手を止めました。
「からあげ」
川野さんはそう言いましたが、一口でも飲んでみてほしいと思い、みそ汁を指さしました。食べず嫌いということもあるからです。
すると、みそ汁に口を近づけて一口飲んだではありませんか。
(やった! 飲んだ!)
そう思ったのもつかのま。すぐに、はき出してしまいました。
「タイちゃん、口から出したらダメだよ。ゴックンしないと」
そう言ったとたん、みそ汁を頭からかぶってしまいました。
 
【川野さんの視点で読む】
大好きな唐揚げを食べようとすると、先生は遠ざけてみそ汁を目の前に置いた。
(なにをするんだよ!)
「みそ汁 &◎〇※、▲☆ЙД*◎# からあげ Å∽〇∬」
みそ汁を飲まないと食べてはいけないということかな? ぼくは唐揚げのおさらを引きよせようとしたが、先生がさえぎった。
「からあげ!」
ぼくはさけんだ。でも、先生はみそ汁をゆびさしている。しかたなく、ワカメの入ったみそ汁に口をつけた。それは口の中でドロのように広がりペッと出した。ぼくにとってのワカメがどんな感覚か先生は知らないんだ。
「タイちゃん、Д*◎★#□Θ※ ダメ ■¶☆∽〇щ∽&◎Б▼ж 」
気がつくと、ぼくはみそ汁を頭からかぶっていた。服がドロのようなみそ汁で、べちゃべちゃになっている。
 
無理にみそ汁をすすめたのが間違っていました。わがままではなくて、私たちとは感覚が違うこともあるんだ、ということをもっと考えるべきでした。きちんと「唐揚げ」と言った時に、出してあげればよかったと思います。
 
もちろん、感覚の違いを分かってあげることは大切ですが、それより前に、本書に書かれているように、知的にも遅れている自閉症児たちは、会話の中で、なんとか知っている単語だけをよりどころにして言われたことを理解しよう、応えようとしている健気(けなげ)さも先生方に知っていただきたいと思います。それが成沢先生が後輩に伝えたかったことのように思えます。

彼らはコミュニケーションをしようとしないのではなく、その手段をもらっていないだけではないでしょうか。こちらからも、彼らからも、お互い理解できる方法で伝えあえることができたら、彼らは安心して学校生活をおくれるようになると思えます。
 
第2部は、本書の副題にもなっている「ともちゃん先生」こと飯田朋子先生が主宰する画塾に通っている自閉症や発達障害をもつ子どもたちとの関わりの物語です。自閉症の専門家ではない「ともちゃん先生」が絵や造形を通して、彼らの不思議さやいいところを伸ばしていこうというお話しで、たくさんのこどもたちが出てきます。
そんなエピソードに成沢先生が、自閉症の特性を踏まえて解説していくという構成です。
こちらは実際の子どもたちをもとにしていますので、そのユニークさが大いに発揮され楽しい造形教室の様子が続きます。
 
このように、第2部は、成沢先生、ともちゃん先生、イラストのウノ・カマキリ先生、3人の合作となっています。
ここでイラストのウノ・カマキリ先生を少し紹介すると「落語を演るのは落語家 落語を描くのは落画家」とあるように、障害者のカルチャースクールで講師をされている「落画家」の先生です。
 
ですから本書の中でもその絵の占めるウェイトはかなり大きいものとなっています。
そのデフォルメされた絵はとてもユニークで、まさに落画なのですが、それだけ見る人によっては、好き嫌いが大きいかもしれません。
特に、以前の「光とともに・・・」の光くんのファンのように、“人形のよう” と称される自閉症児ならではの可愛い顔の漫画に慣れている方や、小道モコさんのジャングルに迷い込んでとまどう少女の自画像などが好きな方にとっては、ついていけないかもしれない、とちょっと心配です。

したがって、ここでは本書のイラスト・落画が好きな方、抵抗感のない方にはお薦めしたい一冊としておきます。
 
     (「育てる会会報 202号) 2015.2より)
 
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目次
 
わかって! 自閉症  ~知ること・かかわること~ ・・・ 成沢 真介
 
  はじめに
 
川野太一さん(タイちゃん)の学校生活 ~表と裏~
 
  「新学期」
    川野さんの視点で読む
  「給食」
    川野さんの視点で読む
  「車みたい」
    川野さんの視点で読む
  「プール大好き」
    川野さんの視点で読む
  「言葉って難しい」
    川野さんの視点で読む
  「交流学習」
    川野さんの視点で読む
 
画塾に通う子どもたち
   画塾のともちゃん先生 / 飯田 朋子
   感想と教示        / 成沢 真介
   落語で表現        / ウノ・カマキリ
 
  ともちゃん先生のプロローグ
 
  7歳からのしょうた君(自閉症・現在20歳)との時間の中で
    ほっておけなかった。そしてほったらかしにしてしまった
    しょうた君と絵本
    初めてのオリジナル作品
    油絵をはじめてみたが
    初めての反抗
    しょうた君の涙
    漢字を飽くことなく書き続ける
    しょうた君の変化する漢字の世界
    思春期か
    マラソンの絵       
    苛立つしょうた君
    イラスト図鑑の絵
 
  カッ君(知的障害)との二十年
    出会い
    人気者!
    リトマス試験紙
    ピッカピカの一年生になったが
    カッ君がいたから
    共振しあう子どもたち
    性の問題
    性教育の壁と必要性
    最近のカッ君
    カッ君の絵の歴史
 
  その他の子どもたちの秘めたる世界
    たまちゃん(知的障害) 5年生から来て10年目22歳
    あきら君(知的障害) 4年目27歳
    なみちゃん(軽度自閉症) 3年目20歳
    みどりちゃん(自閉症) 入会してから半年
    ゆういち君(自閉症) 5年生から中学3年生まで
 
  ともちゃん先生エピローグ
 
  おわりに
    「障がい」ってなんだろう?  ・・・ 成沢 真介