自閉っ子のための 道徳入門 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

社会(みんな)の中で生きる子どもを育む会:著  花風社 定価:1600円+税 (2012.6)

    私のお薦め度:★★★☆☆


本書の帯にはこんな風に書かれています。「社会のルールはこう教えよう。実績のある支援者と保護者に学ぶ社会の一員に育てるための方法」「被害者にも加害者にもならず、社会で生きていくために教えておきたいこと。」


そのうえに書名が「道徳入門」とくれば、学生時代の倫理や道徳の時間を連想して、手に取るのを敬遠される方もあるかもしれませんね。でも、表紙や、ページをめくって最初の漫画、いつもの花風社の小暮満寿雄氏のユニークな絵を見れば、ホッとされると思います。
いつもながらの花風社の「自閉っ子」シリーズの本です。


著者名は、自閉症に詳しい方でも、あまり聞いたことのない会だと思います。かく言う私も、初めて耳にするお名前でした。

著者紹介欄には「長年発達障害の当事者・保護者との交流を重ねてきた花風社を中心に研究者・支援者などの有志で作った勉強会。障害があっても、福祉の世界の枠にとどまることなく一般社会で生きる力を持った子どもを育む活動に寄与することが目標」とあるように、固定した枠組みを持つ会ではなく、趣旨に賛同した方が自由に集まる会のようですね。
本書の構成も、花風社社長の浅見淳子さんが、似たような考えを持つ保護者や支援者を訪れ、インタビューした話をそのまま本にした、というような体裁です。ですから、浅見淳子:著、あるいは 花風社:編 と考えた方が分かりやすいかもしれません。


さて、本書の内容ですが、目次の最初の方に「『ありのままでいい』という方針が二次障害を育んでいく」という項目や、最初の漫画で「ありのままのきみでいいのよ」というセリフが悪い意味で使われているために、明石洋子さんの『ありのままの子育て』を読まれて共感を持たれている保護者の中には、エッと思われる方もいるかもしれません。
でも、ご安心ください。ここで言う「ありのまま」とは、明石さんの著書や、吉田友子先生が「その子らしさを生かす子育て」や「あなたがあなたであるために」などで言われているような「自分らしく、そのままで」という意味ではなく、自閉症児の問題行動に対して「障害があるから大目に見て、そのままでいいよ、教えちゃいけない、叱っちゃいけない、と介入しない態度」という意味で使われています。一昔前の完全受容に近い関わり方ですね。


ですから、書名の 『道徳入門』も、絵カードで教えてあげたり、書いて教えてあげたりなど、本人に分かる方法できちんと社会のルール(きまり、法律、道徳など)を教えて、それを守れる人に育てていきましょう、ということです。

その意味では、先日このコーナーで紹介した『レベル5は違法行為! ~自閉症スペクトラムの青少年が 対人境界と暗黙のルールを理解するための 視覚的支援法~』などと同じ主旨で書かれた本だと感じました。安心してお薦めできる一冊だと思います。


「ありのままを大切に」って療育の世界でとても強力に推薦されるけれども、「ルールを守れなくても障害だから仕方ない」という誤解を呼びがちな表現です。
そしてその誤解を大事に守って、「世の中に通じない子ども」にしてしまう人は多いんじゃないかな、と思っていました。


それが、本書を世に出された思いかもしれません。でも、少なくとも育てる会でセミナーや勉強会で正しく障害特性や子育て・療育について学ばれている方は、こんな風な誤解を持つことはないですよね。
自信を持って、本人の「ありのまま」を大切にして、そして18歳の春には、社会の中で自立して暮らせる青年になれるよう、子育てしていきましょう。


浅見さんがインタビューしているのは、保護者の方では優ままさん、賢ままさん、うめさんの3人のお母さんで、みなさんペンネームですが、中には「ああ、あの人だ」と個人的にご存知の方もいらっしゃいますね。共通しているのは、みなさん自分なりに考えて、子育てされていること。共感される方も、ちょっとうちとは違う・・・と思われる方もいると思います。でもそれでいいんですね。
子どもたちが一人ひとり違っているように、子育てもそれぞれのご家庭で違っていて当たり前ですね。


ただ、地域の中で支援を受けながらも、社会の中で普通に働いて、普通に暮らしていくことを目標にされている方にとっては、それぞれ参考になる子育てのやり方だと思います。

また支援者の立場からの性の問題についての瀧澤久美子さんのお話や、愛甲修子さんの知的に重度な方の強度行動障害への対応など、幅広く障害をとらえ、「社会(みんな)の中で」という視点から構成されている本です。


会話形式で書かれていますから、肩肘はらずに気軽に読んでいただける本として、本書を紹介します。 


              (「育てる会会報 175号 」 トチタロ)


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目次


  巻頭マンガ


1 「世の中への恨み」をどう解きほぐしていったか。
               ・・・「優ままさん」


      積極奇異の性質は、困りものだけど財産です!
      トラブル続きだった子が、人を好きになるまでの日々


   「このままではいけない」
   「叱ってはいけない」というアドバイス
   「ありのままでいい」という方針が二次障害を育んでいく
   「普通の世界」から孤立していく
   「自分は悪くない」という誤学習
   「世の中は敵だ」という考えを改めたい
   親と支援者は求める水準が違う
   医療には出会ったけれど
   やっぱり「けじめ」を教えなければと目覚めた
   「人っていいもんだ」とわかりはじめた
   本気で向き合う大人が必要
   目標を持った中学生活
   支援者よ、「社会人」であれ。
   反省能力という財産
   本物のセルフエスティームを育てる
   子どもに道徳を教えるには、大人に「社会人」の自覚が必要
   未来へ
   告知で前進 

  

2 性の話 被害者にも加害者にもならないために
               ・・・「瀧澤久美子さん」


     性の問題について教えてください
     安定した成人生活のため、前向きに取り組まなければいけないこと


   ルールを教えることの大切さ
   ささいなことが「犯罪扱い」につながる
   「結婚できるんですか」VS「寝た子を起こすな」
   性は恥ずかしいことではない
   夢精・生理は前もって教える
   正しい自慰を教える
   していい場所といけない場所を教える
   障害者同士のセックス
   障害者同士の結婚
   不必要な接触には「ノー」を教える。
   加害者にしない教育
   「共生社会」実現のために必要なこと
   加害者にも被害者にも障害があることもある
   学校の中での加害被害予防
   性の問題から逃げないで、次の学びにつなげよう


3「他人に迷惑をかけない子」に育てる
               ・・・「賢ママさん」


      自分にとってはかわいい我が子だからこそ、世の中で嫌われる人になってほしくない


   大家族は、すでに社会
   老人介護を乗り切れた理由
   世の中のルールはこう教えた ⇒ 知的障害のない子の場合
   世の中のルールはこう教えた ⇒ 知的障害のある子の場合
   我が子が嫌われるのは、親として悲しい
   修正が効かない子たちだからこそ
   だからこそ、最初から教える
   偏食との取り組み
   言語体力
   自傷を止める
   とにかくストレス解消!
   お友だちと一緒に遊べるようになるまで
   大事なのは「観察」
   「ありのまま」の意味を取り違えてはいけない
   とにかく最初から教える
   小さいころからしつけた理由
   「他人に迷惑をかけない子」の「他人」には母も含まれます!
   世界を広げていく(母のためにも)
   制度や施設も大事だけれど
   字は一生書けないと言われたけれど
   重度の人って本当に「何もわかっていない」のか?
   恩に着せるのは支援です
   最初から「社会でやっていける子」が目標だった
   障害告知
   今は子どもにラクをさせてもらっています
   親子で歩いた田んぼのあぜ道
   自閉症の孫がほしい


4 重度の知的障害がある子にきちんと「社会のルール」を教える。
                ・・・「うめさん」 

              
      重度の障害があるとされる我が子に親が遺してあげられる最大の財産とは?


   知的障害が重くても、使える能力はある
   ノースカロライナに渡る
   小学校時代
   自他の区別を教える
   「引かない」方針
   「社会が理解している」の本当の意味
   神田橋先生の治療との共通点
   身体からのコミュニケーション
   道徳は、説教では身につかない
   本人が幸せになる空間作り
   一人で過ごす時間を楽しめるようになると親が自由になる


5 他害行為がなくなっていくとき、何が起きているか?
               ・・・愛甲修子さん


      問題行動を治すのは、ご本人たちのためです。


   家族すら遠ざけてしまう問題行動の人たちと接して
   強度行動障害が治っていくとき何が起きている?
   なぜ行動障害が改善されていくのか
   支援者に大事なもの
   医療との連携
   過敏性には意味がある
   言葉のレベルでは難しい治療
    「納得させる」は「叱る」より有効
   「特別支援教育」の究極の目的
   社会(みんな)の中で生きられる子


  巻末マンガ