10年目の 自閉っ子、こういう風にできてます! ~「幸せになる力」発見の日々~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

ニキ・リンコ×藤家 寛子  花風社  定価:1800円 + 税 (2014.6)


私のお薦め度:★★★★☆


育てる会で、昨年、平成25年10月に開催したセミナー、「当事者が語る自閉ワールド」にお越しいただいた、ニキ・リンコさん、藤家寛子さん、それに花風社の浅見淳子社長、お三方の楽しい対談集です。

私たちが企画したのと同じく (当時は9年目でしたが・・(^_^)) 鮮烈だった、元祖「自閉っ子、こういう風にできてます!」が世に出てから10年が経ち、もう一度同じシチュエーションでお話を聞きたいという、ファンの希望で実現できた一冊です。セミナーに参加された方は、お三方の生のかけあいを楽しんでいただけましたので、その人となりも分かって、より親しく読んでいただけると思います。


さて、本書、鮮烈さでは初代には叶いませんが、・・・なにしろ10年前には、ご本人の書かれた自伝と言えば、ドナ・ウィリアムズさんやテンプル・グランディンさん、日本では森口奈緒美さんなど、どちらかというと真面目(?)な本が多く、初代のような感覚の違いを大笑いできるような、愉快な本はなかったですね・・・その分、それからの10年、知りたい方も多かったと思います。


本書の末尾でも紹介されていますが、「この10年に出た本」、初代を含めて19冊の中で、自閉っ子の感覚や日常、考え方や世界観など、ある時はリアルタイムでお知らせいただきました。

その意味では、私たちも一緒に歩いてきた10年間ですので、今では新鮮な驚き、というよりは、親しい方の「やっぱり、ね」「だよ、ね」というぐらいに共感を持って受け止められるようになった気がします。それは10年間、自閉っ子ワールドについて発信を続けていただいたおかげでしょう。


その10年間、いろいろありました。
特に藤家さんは、二次障害に陥り、就労継続支援の作業所での生活立て直しから再スタートし、今は社会人として普通(?)にレジや接客をこなせるようになり、先日は職場で「最も感じの良かった店員賞」までもらわれたそうです。
藤家さんのその努力については、会報184号で紹介させていただいた「30歳から社会人デビュー」に詳しいので、ぜひご覧ください。


藤家さんの「体育会系がんばり」に対し、ニキさんは「おばさん型努力」で、えっちらおっちらと世を渡り、「自閉っ子」から「自閉のおばさん」になり、今は「幸せな自閉のおばあさん」になるため、手抜きしながら頑張られているそうです。

ニキさん、曰く「いやなことからは、逃げたり。あわよくばラクをしよう。あわよくば得をしよう。あわよくば楽しい思いをしよう。そういう方向には貪欲なんです」。


本書はそうした、それぞれにあったやり方で、自閉のまんまで幸せになってきた、という本です。副題も“「幸せになる力」発見の日々”です。
ただ、本書でも繰り返し書かれているように、そのための努力の方向性だけは間違えないようにしないといけませんね。


「普通」は目指さなくていい
「幸せ」を目指してください


そのために長所をのばし 短所に「能力」という言葉をつけて活用してください
短所さえ幸せになるための強みになります
それが この10年間で 私たちが発見したことです


いいところを伸ばす、っていうのは療育の中でたびたび言及されますが、私はこの10年で、それだけじゃないなあ、と思うようになりました。それは『発達障害は治りますか?』という本を作って、「強みは弱みの裏にある」と教えていただき、そしてお二方をはじめとする方たちを見て、それを実感する機会に恵まれたからかもしれません。
決して悪口のつもりではないので、前章でも屈託なく言ってしまいましたが、藤家さは「ケチでミーハー」で、それがゆえに立ち直ってきたと思います。そしてニキさんんは「びびりんで理屈っぽくって面倒くさがりや」で、それがゆえに幸せになっていると思います。(浅見)


そうですね。確かに子育てや療育現場では、「短所を何とかしようとするよりも、長所を伸ばしていってあげましょう」とはよく耳にします。

また、「小さい時には欠点も含めて全体の能力をボトムアップすることも大切ですが、成長するに伴い、出来ない部分は周りからの支援を増やすことで対応しましょう」とも言われます。


もちろん間違いではないのですが、本書はここで逆転の発想です。自閉っ子のもつ短所はカバーするだけのものではなく、「幸せ」になるためには大いに活用していこうという考えです。
浅見社長曰く、 「長所は伸ばす、短所は活かす」 です。


もともと褒めることが苦手な日本人ですので、子どもを褒める練習のため、セミナーなどでも向かい合ってお互いを褒め合うトレーニングをすることがありますが、性格なんて短所を裏返せば長所になって、結構褒めることができますね。
同じように、自閉症の特性、融通のなさや、興味のかたより、空気が読めないなんてのも、“自分”が幸せになるためには結構活かせるのではないでしょうか。
ニキさんと藤家さんが、この10年でそれを実現してこられたように感じました。


また、自閉圏の人と非自閉圏の人がうまく社会を構成していくためには、お互い相手を警戒しすぎない、異端視しないということが大切ですね。


私はニキさんたちの本を出して、「自閉っ子、不思議なことを言ったりやったりするけど、ワケは浅いので、あまり悪意に取らないでほしいな」と世の中に訴えているわけなので、逆に自閉っ子の皆さんにも、世の中を悪意に取らない努力をしてもらいたい、って思っているわけなんですね。
人の注意を悪意に取らない、というのは、会社員をやる上で必要なスキルでもありますし。(浅見) 

 

家でも学校でも「社会は怖い」とさんざん聞かされたけど、実際社会に出てわかりました。直近のクラスタ(集団・群れ)に適応できればなんとかなるんですね。(ニキ)


そうそう。だから、相当偏りのある人でも実はなんとかなるのよね、世の中って。どこかいやすい居場所を見つければ。そこに特化して生き方探っていけばいいんですよね。周囲の人たちと場の共有ができるように。相性のいい場所では、あんまりつらくないんですよね、それ。(浅見)


ここで分かりやすく活きてくるのが、ちょうど本書の真ん中あたりにある、見開き2ページの小暮画伯の大きなイラストです。

言葉で説明するのは大変すぎるので、ぜひ本書を手にして見てほしいのですが、大宴会場で宴たけなわ、お開き間近という頃のイラストです。
「社会適応」を難しく、“こういうもんだ”と画一的にきめつけないでほしい、という意図から書かれています。


社会とは饗宴なんです。この絵を見ても、みんな好きなことをしている。

一人で手酌で飲んでいる人がいます。酔いつぶれて寝ている人がいます。剣玉している人がいます。ラーメン食べている人がいます。お酌している人がいます。みんなこの場を共有しているんです。

コミュニケーションって結局「場の共有」なのだから、自分にできるやり方で人と場を共有できればいいわけです。ところが療育の世界で語られる「社会適応」って、しばしば社会の人々が一糸乱れぬ行進をしているところに参加してついていくような印象だったり。そりゃ無理だよ、と思います(浅見)


社会を見ると、別に一糸乱れぬ行進はしていないしね。(ニキ)


要は、今の日本、私たちが思っている以上に、自分の居場所さえあれば、自閉症のままでも幸せに暮らすことができるようになる社会だと言えるのでしょう。

相手に直接の迷惑さえかけなければ、少々変わっていても、お互いそんなもんか、と、認め合える社会のように思えます。


この業界(?)に長くいると、人の優しさ、温かさを感じることも多いです。
「世の中、まだまだ捨てたもんじゃない」 10年目のニキさんや藤家さん、そして浅見社長から教えられた1冊です。


       (「育てる会会報 195号 」 2014.7 より)


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目次


自閉っ子大河マンガ


   ちゅん平編
   ニキさん編
   あさみフラワー編  
  

第1部 自閉のまんまで幸せになった
     「10年前に夢見てた日々、かも」


  すてきな黒歴史
  10年の間に、二人に何があったか
  自閉のまんまで幸せになった
  長所は「伸ばす」。欠点は「活かす」
  脳みその無駄遣いかどうか激論
  巨人問題はどう解決していったか
  巨人がいなくなって自発性が芽生えた
  運命って、自分で作っていっていいの?
  自分の身体の仕組みがわかってきた
  それぞれの努力のかたち
  使われていない能力の逆襲
  疲労感とのつきあい方を覚えた
 「社会」によって癒やされる
  「怖いもの」とのつきあい方
  福祉的支援の限界を知ったこと
  「遊ぶ金ほしさに働く」ことの大切さ
  ミーハーなことも力にする
  悩みが一人前になっていく
  人間関係対処法もアセスメントしてみる
  失敗していい場と仕事の場を分ける


第2部 気まぐれな身体感覚は、その後どうなったか?


  ボディイメージの不便さは治ったか?
  季節ごとの体調の変化はその後どうなったか
  発熱のアセスメント→予防
  オートマな身体の動きはできるようになったか
  立ち直りには自分アセスメントが必要
  体調報告を嗤うな


第3部 へんてこな世界観と「不幸をねじ伏せる」という長い道のり


  ありがちな質問
  家族は備品だったから
  怒りが消えた浅いワケ
  診断告知受けたばかりの子にどう声をかけるか
  「空気読めない」と言われることについて
  社会とは饗宴である
  自閉のまんまで幸せになれるためのコツ
  「普通」「他の誰か」を目指さなくなったのはなぜ?
  親亀子亀孫亀
  10年前の理想
  かなえていない夢との折り合い
  「どうしても治らない部分」にどう対応するか
  フラッシュバックへの対応
  小さな「普通」発見の日々
  欠点の中にも「幸せになる力」は潜んでいる
  努力の方向を間違えない
  社会に寄り添うことを選ぶ
  不幸との戦い


第4部 へこんだときはどうやって立ち直る?


  試行錯誤って強いよね
  てへぺろ力鋭意養成中?  
  体感と感情をどう頭脳で使い分けるか
  想像力のモンダイを活かす
  打たれ強さはどこからくるか


第5部 自閉っ子関係の皆様へのメッセージ


  なまはげに注意
  エアお姑さんに仕えるための修行って必要ですかね?
  直近のクラスタに適応すればいいだけ
  ブラック企業と相場観
  一人焼肉をあわれむな
  ニキ・リンコが保護者の皆様に望むこと
  ちゅん平から、当事者の皆様へのメッセージ
  ちゅん平から、保護者の皆様へのメッセージ


  付録 アナログなアセスメントのヒント
    読者の皆様もご一緒に自分アセスメントしましょう!


 この10年に出た本