どろだんご ~発達障害と共に生きる~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

瑠璃 真依子:著 文芸社 定価:1000円+税 (2012年3月)


    私のお薦め度:★★★★☆


岡山在住の、広汎性発達障害を持つ瑠璃真依子さんが書かれたこれまでの半生(まだまだ半分にも達しておられないのですが・・・)の体験と、自らの特性を見つめなおしての「取扱説明書」の章から構成された本です。
本書を出版されることを決心されたいきさつについては、書名の「どろだんご」について解説されている部分に象徴されると思います。


題名の「どろだんご」というのは、私が教員をして一年目に子どもたちと一緒に作ったものです。どろだんごを作ると、一人ひとり色も大きさも異なりますが、磨けば必ずピカピカに光ります。くずれてもこわれても、何度でも作り直せます。そんなふうに、障害も一つの個性ととらえ、一人ひとりが輝ける、そんな世の中になってほしいという気持ちを込めました。
誰もが輝ける素材を持っていると信じています。


(ここでの瑠璃さんのどろだんごは、子どもたちがママゴトで作るどろだんごではなく、珪藻土などで作るピカピカに光る「どろだんご」をイメージされています)


ここに書かれているように、瑠璃さんは国立大学の数学科を卒業されたあと、いったんは公立中学校の教諭に採用され、教壇に立たれています。その意味では、それまでは普通の人(小さい頃は「変人まいちゃん」と呼ばれ、その後も変わった子として過ごしてこられたそうですが・・)として育ってこられています。

確かに、子ども時代には少しくらい変わっていても、それなりに大目にみてもらえるところもあったと思います。まして瑠璃さんのように勉強の成績が良ければ、「ちょっと変わったヤツ」ぐらいで、クラスの中でポジションを認められる雰囲気もあったと思います。


でも、やはり障害を持っていて、しかもそれに気づかないで適切な支援もないとしたら、人生は厳しいものになっていきます。高校・大学時代には不登校やリストカットで苦しむのですが、やはり他の発達障害の方と同様、もっとも困難であるのが、学業を離れて人間関係が最重要視される社会にでてからでしょう。
瑠璃さんは、大学時代に自ら教育学部の授業で勉強した「発達障害」の特徴から、自分にあてはまることが多く、WAIS-Ⅲの検査も受けて、広汎性発達障害の可能性が高いことに気づきます。

しかし、残念なことにすでに体調を崩し適応障害の診断を受け、ご家族も発達障害とは認めたくなかったためか、その時点では支援は受けられなかったそうです。


その後、頑張って教員採用試験にも合格し、教壇に立つわけですが、失礼ながら意外にも1年目、2年目まではうまく適応されました。それには、ご本人も書かれているように、同じ学校に恩師のO先生がいらっしゃって、助けになってくれたおかげだと思います。
発達障害を持つ方にとって、キーパーソンの存在が、いかに大切なのかということを改めて感じられた話でした。
そのO先生が退職していなくなった3年目、やはりストレスからダウンしてしまわれ、病気休暇から休職を余儀なくされました。


本書を読んで、最も強烈に感じたのが、その間の入院治療の期間の体験談でした。


部屋は、たたみの六人部屋で、部屋と部屋との間に境はありません。まずその異様な空間に入ることができず、廊下のすみっこに隠れていました。


しかし、大人数などでパニックになることがあって、病院の人も対応がわからなくて、最初は保護室に入れられました。保護室と言っても、まさしくそこはろうやです。鉄格子が二十八本あり、コンクリートの壁にトイレとマットだけです。「早く出して!」とワンワン泣いて頼みましたが、出してはくれませんでした。


境のない環境、大人数での生活・・・災害の後の避難所生活の例をあげるまでもなく、発達障害をもつ人たちには、耐え難い環境だったように思います。


自分はすごく環境に左右されるということを、身をもって感じた入院生活でした。
これが最初でたぶん最後の入院生活になると思います。自由最高。家に帰れると、ばあちゃんの
ピアノの伴奏で童謡が歌えるので、それも最高に幸せです。


現在の瑠璃さんは、復職に向け生活リズムの調整中だそうです。幸い、発達障がい支援センターからの援助も受けられるようになられたそうなので、このまま落ち着いて教壇に戻られる日を楽しみにしています。
「入院生活は苦しかったけど、入院してこんなに元気にしてもらいました」そう前向きに話していただけることが、発達障害に関わる者としての救いですね。
そんな瑠璃さんの講演会が、10月24日(水)に開催されます。平日の昼間ですが、都合のつかれる方は、ぜひお越しください。


それでは、最後に「取扱説明書」の中から1節を紹介します。
これは瑠璃さんだけではなく、私たちの子どもたちの多くにとっても必要な「取扱説明書」ではないでしょうか。


◎ パニック時の対処法。


泣きわめく、あばれる、大声を出す、だまる、動きが止まる等々のパニックが起きてしまったら、黙ってそばで見守ってください。
「頭ごなしに怒ること」「ほうっておくこと」「説明すること」の三点は、決してしないでください。頭ごなしに怒られると、じぶんでもわけがわかりません。ほうっておかれると傷つきます。説明されても、聞ける状態にありません。・・・・


              (「育てる会会報 173号 」 2012.10 より)


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どろだんご 発達障害と共に生きる/文芸社

¥1,050
Amazon.co.jp

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目次


1 序文


2 真依子の歴史


  ① 奇声を発する乳児期
  ② 変人まいちゃんと呼ばれた幼児期
  ③ 認められたかった小学校期
  ④ 点取り虫の真依子 中学校期
  ⑤ 不登校・非行・リストカット 高校期
  ⑥ 大きく挫折 大学期
  ⑦ 教員生活 二年半
  ⑧ 三度目の挫折 入院期
  ⑨ 現在の私


3 取扱説明書


  ① 素直
  ② こだわり
  ③ ずば抜けた集中力
  ④ 敏感と鈍感
  ⑤ 大人数とうるさいところはダメ
  ⑥ 高いところとはだし好き
  ⑦ 口達者
  ⑧ 負けず嫌い
  ⑨ 気持ちを読むこと
  ⑩ 声量
  ⑪ 急な予定変更
  ⑫ 同時に二つのことをやること
  ⑬ 片づけができない
  ⑭ みんなへのお願い


4 終わりに


  参考文献