わが子が発達障害と診断されたら  | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

佐々木 正美:編著 諏訪 利明・日戸 由刈:著 すばる舎 定価:1400円+税 (2011.12月)


    私のお薦め度:★★★★★


装丁が少し地味めで、題名もいかにも入門書のようなので、もしかすると育てる会の会員の方が手に取る機会が少ないのでは・・・と思い、お薦め本に取り上げさせていただきました。


確かに、我が子が発達障害との診断を受けたばかりのお母さんには、初めて読まれる本としてはお薦めの一冊です。同時に、すでに障害を受け止めて療育にあたられている保護者の方にとっても、これまでの子育てを改めて振り返り、これからの道を見通すために、心の助けとなる本だと思います。


本書は3部構成で、第1章は「医療者の立場から」の章で佐々木正美先生が、2章は「療育の立場から」で、育てる会でも講演をお願いしている諏訪利明先生が書かれています。そして3章は「家族と専門職、両方の立場から」で、自閉症のお兄さんを持ち、現在は横浜市総合リハビリテーションセンターで主に高機能自閉症の方の支援にあたられている臨床心理士の日戸由刈先生が執筆されています。
また、本題に入る前に、佐々木先生による発達障害についての解説もついていますので、入門書としても丁寧な流れになっています。


さて、内容ですが、「発達障害のある子を“育てる楽しみ”を見つけるまで」とあるように、発達障害を肯定的にとらえて、その子育てを楽しもうという方向で、著者の方たちは一致しています。特に、佐々木正美先生は、ご自身や親御さん、息子さんたちを例にあげながら、家族でその暮らしを楽しんでこられた様子を紹介されています。


私には三人の子どもがいますが、私を含めて、どの子にも発達障害的なところがあって、「発達障害スペクトラム」という言い方は非常に適切だと思っています。つまり、発達障害というのは、切れ目のない連続性(スペクトラム)があって、特性が非常な顕著な人から、ごく薄い人がいるということです。


私の三人の息子で言うと、長男は薄いアスペルガー、次男はかなり顕著なアスペルガー、三男がLDのタイプです。結局、これは連続体だと私は思っています。
その根底にあるものは、同時総合機能の弱さです。つまり、同時に複数の感覚を連動させることが苦手ということです。ところが、ある部分に集中して深い興味や関心を持続できたり、そこに没入する力の強さには大変なものがあるという、共通の特徴があるのです。


その強みを、先生は「この道一筋」という表現をしていらっしゃいますが、まさに自閉症やアスペルガー症候群の特性を肯定的にとらえている言葉だと思います。弱さではなく、良いところ・強いところに注目するということですね。そうすれば、普通の子にはない発達の凸凹、ユニークさを持っているだけ、余計に子育てを楽しめるわけです。
もちろん、その前提には「子どもをありのままに受けとめる」という親の気持ちが大切になります。


発達障害ということを受けとめることがなかなかできない人が、「発達障害は能力に偏りがあるのだとすれば、この子には他の子にはない、何か特別に優れたところがあるはずだ」と思って、一生懸命見つけようとするのはよくないのです。
親は無理やり前から引っ張らないで、じっと待っていてやるのがいちばんいいのです。せいぜい後ろをそっと押す程度にとどめたほうがいいですね。そのわけは、待っていてあげないと、結局、子どもにとっては、「今のあなたには不満足よ」という「否定」にしか伝わらないからです。


一方で本書は、これからの療育に必要な具体的なノウハウや技法を紹介するような本ではありません。

もちろん、日本に最初にTEACCHを紹介された佐々木先生や、シャーロットTEACCHセンターで研修を積んでこられた諏訪先生なので、支援技術については書こうと思えば、いくらでも教えていただけますね。実際に、「TEACCHハンドブック」や「絵で見る構造化」などたくさんの書籍も書かれています。

ただ本書では、佐々木先生自らが「わが家ではほとんど「絵カード」や「コミュニケーションカード」は使いませんでした」と書かれているように、また次の第2章で諏訪先生が述べられているように、大切なのは、本人のコミュニケーション・マインド(伝えたいという気持ち)を、いかに引き出して本人が楽に暮らしていけるようにしていくか、ということを主題にされています。


また、諏訪先生は、保護者の方が必要以上にあせらないで、ゆとりをもって子どもと暮らしていくための療育の果たす役割についても書かれています。


例えば、お母さんとしては「今はこういうことができるようになってもらいたい」と思っている。けれども、子どもは今すぐにはそれができない。でも、もしかしたら一年後にはできるようになっているかもしれない。そうすると、その一年後に向けて、「今、これをやったら、そこにつながっていくので、どうですか」と見通しを持って伝えると、どんな家族もすごく協力的になると思います。
「今はこれでいいんだな」と理解もできるし、その子の発達のラインに合わせて待つこともできるでしょう。
「障害を受けとめることが大事」というなら、まず家族を、安心して子育てができるような場所に置いてあげなければならない。そのうえで家族自体も力を付けて、自分の子どもの理解、子どもに対するかかわり方のポイントというものを捉えていくことが大事でしょう。


4月から始める、小学生対象の児童デイサービス「ぐんぐんキッズ」にも、もちろん「赤磐ぐんぐん」にも活かしていきたい言葉ですね。
(諏訪先生には今年の6月にも、育てる会での講演をお願いしています。ご期待ください。)


他にも、本書には心にとめておきたいアドバイスや、忘れてはいけないと思うことばがたくさんあふれています。その中で、第3章の中で、まだ自閉症についての有効な療育の方法も知られない中、いっしょうけんめい子育てをされたお母さんのそばで、いっしょに知的障害を伴う自閉症のお兄さんと暮らしてこられた日戸さんの言葉を最後に紹介したいと思います。
日戸さんは、現在は専門職として、支援にあたられています。


今の早期療育を受けている子どもたちは、昔とは全く違うと、私ははっきり感じています。通園施設でいちばん重度の知的障害や行動障害を持っている自閉症の子でさえ、おそらく40年前の自閉症の子どもたちより地域社会の中で暮らしていけると思っています。
通園施設などで密に直接指導を受けているから、という要素ももちろんあるのかもしれません。しかし、それ以上に、家族が、この子たちはこういう特徴を持っていて、こういう生活をしていくのがいちばんいいんだ、ということをよくわかっている。将来に向けても見通しがあって、今の関わりで間違っていない、これでいいんだ、という確信を持てている。これが最も大きな原因ではないかと思います。これは昔の混乱を体験しているからこそわかるのです。


確かに、息子が自閉症と告知された20年ほど前でも、そのころ知り合った成人のお兄さんたちの中には、日戸さんのお兄さんのように、自閉の強者(つわもの)とでもいうような、凄い方がまだ多かったですね。最近の自閉症児は、昔に比べて軽くなっている、暮らしやすくなっているとしたら、間違いなくそれは私たちに障害の特性への正しい理解と適切な対応、そして将来の見通しについて安心させていただいた、本書の著者の佐々木先生たちのおかげではないでしょうか。
そして、最初に書いたように、本書も、まだ診断されて間もない保護者の方にとって、確かに「心の助け」となる一冊だと思います。

                (「育てる会会報 166号」 2012.3)


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目次


  編集者まえがき
  筆者 まえがき


はじめに 「発達障害」の基礎知識
             児童精神科医 佐々木 正美


  「発達障害」の基礎


    自閉症・発達障害の定義
    自閉症・高機能自閉症の子どもが持つ特徴
    LDの子どもが持つ特徴
    ADD・AD/HDの子どもが持つ特徴
    発達障害は連続的なもの
    子どものありのままの姿を受けとめてあげることが大切
    発達障害の子どもには、まずまわりの理解が必要
    発達障害を持つ子どもの特徴を知り、上手にかかわることが大切


第1章 医療者の立場から
             児童精神科医 佐々木 正美


  発達障害スペクトラムと家族のエピソード


    国語教育に「この道一筋」だった妻の父
    アスペルガー症候群の人が「この道一筋」になった時の強さ
    子ども時代の要求に十分応えてあげることが、安定した育ちにつながる
    子育てに「この道一筋」だった私の母
    発達障害や、アスペルガーとLDの子どもたちが連続していると感じること
    演奏家を目ざしてから、研究者の道を歩んでいった長男
    特異な分野を見つけてフリーで働くことを選んだ次男
    好きなことに取り組むことで、興味や関心のピントを合わせて行った三男


  障害の告知と受けとめについて


    乳幼児健診と発達障害
    発達障害の子に見られる、最も大きな特徴、「ジョイントアテンション」の弱さ
    「親がそばにいなくても平気」という特徴
    障害を告知する時
    自分にとって好ましくないことを受けとめる力の衰え
    医療者の立場
    医療者ができることは、子どものいい点を見つけること
    いいところを、無理やり引っ張り出そうとしないほうがうまくいく
    障害を持つ子どもに対して、親が最大の偏見者にならないために
    親が受けとめられない時は、障害を持つ子どもが親を見守る
    好ましくないことを受けとめる力が弱くなってきた理由
    困窮や貧困が多い社会ほど、人と交わる力は強まる
    忘れられない「できの悪い子ほどかわいい」という村人の言葉


  発達障害を持つ子を育てる楽しみ


    ダメなところを直そうとするのではなく、いいところを伸ばしてあげたい
    たとえ障害の度合いが軽くても、無理に直そうとしない
    本人への告知
    「障害を治そうとすること」にあきらめきったところから、本当の再生が始まる
    発達障害を持つわが子と、上手にコミュニケーションを取るには
    子どもを育てる楽しみは成熟した人間関係の中から生まれる


第2章 療育の立場から
           海老名市立わかば学園 園長 諏訪 利明


  「障害を受けとめる」とはどういうことか
    
    今、この国で障害はどう受けとめられているか
    「家族が受けとめる、その前に社会が障害をどう理解しているかが影響している」と感じた
    エピソード
    障害者として生きることに対する「マイナスイメージ」は、社会が持っている
    知的障害を伴わない発達障害の人への支援は、まだまだ足りない


  家族や本人の葛藤と、障害を受けとめていくプロセス


    子どもを丸ごと受けとめるということ
    親自身の素直な気持ちに正直であればいい
    家族の受けとめや子どもの理解が進むプロセス
    学園に通園している家族の例で、障害の受けとめ方について
    子どもの発達のラインを親が理解できるようになると手応えを感じられる
    通じ合ってくると自信がつく
    家族の中で、子どもや障害に対する理解の度合いが違う時
    初めは家族の理解がそろわなくても、次第に変わってくる
    知的障害を伴わない場合は、受けとめに時間がかかることも
    「自分自身での受けとめ」が必要になった時


  療育とは


    教育・保育と療育の違い
    療育で行うカリキュラムはオーダーメイド
    診断と療育はセットで 診断を一人歩きさせないで、支援につなげることが大事
    診断がついていなくても、幼児期を過ぎても、療育に参加できる
    親の会に出ること


  家族や家庭は、子どもにとって大きな力を持っている


    子どもの本当の力は家庭で養われる
    子どもに合わせて、最適な方法を自然に用意できるようになる
    家庭での支援は、子どもが必要としている場面に合わせて
    子どもと通じ合う体験が何よりも大切
    通じ合った瞬間、子どもは最高の笑顔を見せてくれた
    子どもの中の「伝えたい」という気持ちを育てることが何よりも大事
    通じ合うことは、子どもの気持ちを理解することから
    発達障害を持つ子を育てる楽しみ


第3章 家族と専門職、両方の立場から
        横浜市総合リハビリテーションセンター 臨床心理士 日戸 由刈


    私の三つの顔


  障害を理解し、尊重すること ~「受容」ではなく~


  1.家族として
     兄と母
     大混乱の日々 ~世間の理解が不十分だった時代~
     こだわりに次ぐこだわり
     こだわりを止めない ~家族が歩み寄る大切さ~
     この子の可愛さを知ってほしい! ~複雑、けれども真摯な母の愛~
     愛情と情熱だけの支援が、ひとりの人生を変えてしまった
     見通しと確信こそ、早期療育の最大の効果


  2.専門職として
     ある日の衝撃体験 ~こんなことが楽しい?! こんなことがわからない?!~
     一般社会との接点は大切 ~自分を尊重される経験を持つことは、もっと大切~
     高機能特有の難しさ ~個人的な努力の限界~


  ネットワーク ~つながるということ~


  1.本人同士の仲間づくり
     高機能の人たちの生活寮での経験
     『仲間づくり支援プログラム』の試み
     高機能の人たちが仲間関係を維持できるために ~ポイントは、黒子の存在~


  2.家族同士のネットワーク
     情報交換とエネルギー補給
     家族のネットワークづくりは、無理せず、小さなことから
     高機能だからこそ、ネットワークは重要
     ネットワークの促進も、専門職の役割の一つに
     今だからこそ思うこと ~正確な知識やきっちりとしたプログラムよりも~


おわりに 編著者あとがき