イラスト版 発達障害の子がいるクラスのつくり方 ~これが基本 子どもが困らない35のスキル~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

梅原 厚子:著 合同出版 定価:1600円+税 (2009年4月)


      私のお薦め度:★★★★☆


著者の梅原厚子先生は、東京都大田区で小学校校長をされたあと、目黒区教育委員会療育相談員として、現場の先生方と協力して子どもたちの支援にあたられておられるそうです。


したがって、本書も理論的体系に基づく・・・というよりは、学校現場での困った事態に対応し、実践と修正を繰り返しながら、適切な関わり方を35のエピソードへの対応として書かれています。


発達障害は、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症(アスペルガー症候群)の総称です。  (「発達障害の理解と支援」より)


え~、我が家の哲平のような知的障害を伴う自閉症も、一応(?)発達障害なんですけど~、と思わずツッコミを入れたくなる出だしですが、その定義の仕方でお分かりのように、本書でいう「発達障害」は普通学級に在籍していて、特別支援教育の対象となる、いわゆる軽度発達障害の子どもたちのことであり、彼らへの対応のスキルの数々です。


また、最初に「イラスト版」と銘打っているように、イラストと文章でそれぞれ「こまったエピソード」をとりあげ、それに対するサポートを、これまたイラストにして紹介しています。
そしてサポートがイラストで示されているように、その多くは視覚的支援を使って子どもたちにわかりやすく伝えるというスキルです。


「給食の配膳サンプルを映像で見せる」「時間割では教科書の表紙の縮小コピーを一緒につける」などはその一例ですし、「教室を出たくなった時の行き場をあらかじめ決めておく」や「味覚の過敏性のある子には、食べられるものだけ食べたり、食べられるものが少ない時は弁当を持たせてもらう」などは、子どもの安全を確保したり安心感を持たせるサポートです。


中でも印象に残ったエピソードとサポートを一つ紹介します。「特別扱いをしない」というサポートです


窓の外の景色が気になって算数テストに集中できなくなったHくんが、自ら「先生、前に行ってもいい?」と先生に聞き、机を掲示板の前までズズズーっと移動させた、Hくんの成長を示すエピソードのあとの対応です。


Hくんに、机の移動を認めると、「ぼくも動いていい?」と言い出す子どもが必ず出てきます。こんな時には、迷わず「どうぞ」と言います。言い出すこどもはせいぜい3、4人です。いったん認めておいて、「自分の席で集中できる子は戻ってくれるとうれしいな」と言うと、ほとんどの子が戻ります。
Hくんだけを特別扱いにすると、「ずるい、Hくんばっかり」と不公平感が生まれ、学級の秩序が崩れます。反対に、発達障害の子だけを特別扱いするわけにはいかないという理由で、適切な特別支援を実施できなくては本末転倒です。このような画一的な平等感は、教室を窮屈にさせます。


自分の位置に戻った子どもたちには、そのことをほめてあげましょう。
その上で、Hくんも自分なりに努力していることやHくんの日常の姿を通してその成長や変化を振り返ることで、学級内で子どもたちが互いの成長を認め、喜び合うことが重要です。


実際の教室でこその適切な対応だと思います。


また、本書の中で示されているサポートの多くは、他の普通の子どもたちにとっても、環境が分かりやすくなり楽に学校生活がおくれるようになるものばかりです。
「発達障害の子どもが生活しやすい学級はすべての子どもに快適」そうあとがきに書かれているとおり、これらのスキルを参考にして、担任の先生方に取り組んでいただきたいと思います。


ただ、最初の発達障害の定義でツッコミたくなったように、学問的というよりは実践的、経験的なエピソードで綴られていますので、他にも、そこは耳栓ではなきイヤーマフの方が、とか、アナログ時計もいいけれどタイムタイマーの方がよりわjかりやすいのでは・・・などと思う箇所もありました。でも、普通学級の先生が、全員の子どもたちを指導しながら、特別支援も行っていくとなると、理論や最新の情報よりも本書のようにすぐに取り組めるところから始める方が現実的なのでしょうね。


ただ、願わくば30分ほどで読める本書だけでよしとするのではなく、その困った行動の根っこにある発達障害の子どもたちの障害特性についても理解していただいたほうが、個々の子どもたちへの応用もできやすいと思います。本書とあわせて基礎的な本も読んでいただきたいと思いました。


            (2010.1)

         

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イラスト版 ADHDのともだちを理解する本―こんなときこうする、みんなでなかよし応援団/原 仁
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イラスト版こころのケア―子どもの様子が気になった時の49の接し方/久芳 美惠子
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目次


  はじめに


  発達障害の理解と支援


生活編


  01 学校生活の不安はイラスト化で取りのぞく
  02 係活動のやり方は図解しながら練習する
  03 給食の配膳の仕方を映像で示す
  04 学習予定を教科書の表紙で提示する
  05 係活動を忘れないためのカードシステム
  06 ノート・教科書はゴムバンドでひとまとめ
  07 クラスの小物は牛乳パックに収納
  08 片づけやすい教室で情緒を安定させる
  09 黒板やそのまわりはすっきりさせる
  10 「朝の時間」に今日の予定を確認する
  11 メモをフル活用する
  12 教室を飛び出した後の行き場を決めておく
  13 クールダウンできる場所をつくる
  14 学習に集中できる場所をつくる
  15 話は小道具を使って印象的に簡潔に
  16 子どもの発言を言語化する
  17 大きな音を予告してパニックを回避する
  18 言語過敏を理解し安心感を与える
  19 場にふさわしい言動をパターン化して教える


学習編


  20 学習の流れをパターン化する
  21 授業中も立ち歩ける場面を設定する
  22 定規の使用法は色で示す
  23 時間は視覚化する
  24 教材は拡大表示する
  25 校外活動の事前指導に映像を取り入れる
  26 体の機能を使いこなす運動をする
  27 はさみやクレパスで手先を使う練習をする
  28 絵を描く前に筆の使い方を練習する
  29 思考をリードするワークシートの活用
  30 ボードを使って自分の意見を発表する
  31 話すことが苦手な子へ 4つのポイント
  32 聞き取りが苦手な子へ 8つのポイント
  33 文字を書くことが困難な子へ 6つのポイント
  34 文章を書くことが困難な子へ 4つのポイント
  35 計算や文章題を解くことが困難な子へ 4つのポイント


  あとがきにかえて


  参考になる本・資料