福岡 寿・山田 優:著 Sプランニング 定価:1000円+税(2008年1月)
私のお薦め度:★★★★☆
長野県で活動されている福岡寿氏(北信圏域障害者生活支援センター 所長)と山田優氏(西駒郷生活支援センター 所長)のセミナーでの講演録を元にした本です。
今、日本の福祉で注目されている地域の一つが、この長野ではないでしょか。私の妻も今月(2010年12月)行政の方々や地域支援のあたられているみなさんと一緒に、泊りがけで視察に行かさせていただきました。とても参考になる取り組みだったそうです。
本書は第1部では福岡氏による「地域支援はバームクーヘンづくり」と題して地域支援のネットワーク、それこそバームクーヘンのように何層にも重なった支援の大切さについてのお話です。それも、机上で考察された建て前ではなく、現場で求められてきたサービスです。
その中印象に残った話、それは「電話」をキーワードとしているのですが、一つはこれからの地域福祉は固定電話型のサービスから携帯電話型のサービスに変わらないといけないということ。
つまり、従来の福祉は、固定電話で場所が先に決まっていて、そこに行かないとサービスが受けられない、それに対してこれからは、主人公はサービスを受ける当事であり、携帯電話のようにレスパイトとして本人に付き添ってのサービスが主体になるのではという話です。
「施設から地域へ」というのはよく聞くようになったことばですが、地域に出るということは地域の家の中に居るということではなく、街の中で暮らすということですね。そのためには携帯電話型のサービスがなければいけないという話でした。
もう一つの電話に関わる話です。
そこで、システムとして、地域でどうやっていくかというと・・・・。わたし、いろんな地域を見てきていますが、進んでる地域と踏みとどまっている地域と、一番の違いは何かっていうと、「○○さんがちょっと困った」と言ったとき、電話1本で関係者がすぐ集まれるかどうかなんです。これがすべて、これさえできていたら地域支援の8割はクリアできると言っても過言ではないと思います。
「○○さん、困っちゃってるんですけれども、ケア会議に集まってもらえますでしょうか」となったときにね、「どうしてあたしたちが行かなきゃいけないの。どこどこの学校の生徒さんの話でしょ」とか「派遣してもいいけど費用弁償や交通費はどうなるの」とか「派遣文書はいつ来るんだ?」などと言っている地域は話になるません。
さあ、私たちの地域はどうなんでしょう? どのレベルまで進んでいるるでしょう。
第2部は、その長野県にある大規模施設「県立西駒郷」(定員:500名)の所長になられた山田優氏の話です。
西駒郷の施設老朽化に伴う改築へのパブリックコメントに応募したのが縁で、当時の田中康夫前知事に乞われて愛知からやってこられたそうです。
当時の田中知事から、「西駒郷の地域生活移行を進める。こうした大事業を進めるには、しがらみのない人間、つまりよそ者・ばか者でないと思い切ってできない。大変な仕事ですが、あなた来てくれるぅ」と言われ、意気に感じて「はい」と受けることにしました。
こうして、最初は老朽化改築工事の計画であったものが、地域生活への移行事業へと姿を変えていったわけです。
「地域生活のススメ」ですね。
それにしても、長野県の田中前知事や、宮城県の浅野前知事の働きをみても、地域福祉における首長の方向性は大切ですね。政治家のみなさん、選挙の際には口を揃えて「福祉の充実」と言われるのですが、それが実際には公共事業のハコモノ行政であったり、既得権益の維持であったり・・・・と。
「施設から地域へ」子どもたちが、障害を持っていようと持ってなかろうと、普通に働き、普通に暮らし、そして普
通に楽しめる社会を作っていきたいと思います。
本書に書かれているのは、まだまだ私たちからみたら、先進的な取り組みですが、私たちの市でも、先日の「ぼくはうみがみたくなりました」の上映会、市長は最後まで残って見てくださいました。
行政の方も、一緒に長野に視察に行ってくださいました。一歩ずつでも前に進んでいきたいと思います。
もちろん、制度や環境、人材も違い、このままでは地域に導入することはできないのですが、将来のために参考にさせていただきたい例や方向性の載っている一冊だと思います。
(2010年12月)
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地域生活のススメ ~西駒郷の地域生活移行にかかわって~/福岡 寿・山田 優
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目次
はじめに
第1部 地域支援はバームクーヘンづくり
~豊かな地域生活を目指して ・・・・・ 福岡 寿
1 中学校教師から施設職員に
2 卒業がない施設
3 コーディネーターになる
4 レスパイトケア・サービスの始まり
5 レスパイトは携帯電話型サービス
6 伸びる地域と伸びない地域
7 電話1本で人が集まる支援チーム
8 ケア会議は落ちていく車をみんなで支える仕組みづくり
またはバウムクーヘンづくり
9 重症心身障害者のグループホーム設立まで
10 西駒郷の地域生活移行
11 まとめ
第2部 地域生活のススメ
~地域生活移行は利用者主体・・・・・・ 山田 優
1 はじめに
2 入所施設利用にはさまざまな経緯がある
3 忘れてはならない一番肝心なこと
4 地域で暮らすための必要条件
5 進まない現実をふまえて
6 補助金について - 長野県の場合
7 障害の重さを言い訳にしない
8 相談支援体制を整える
9 地域生活移行の実際・・・西駒郷の場合
10 第三者による検証体制
11 新たな地域生活支援の心構え
12 おわりに
おわりに