あったかさん | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

かしわ 哲:著 小学館 定価:1400円+税 (1998年1月)


      私のお薦め度:★★★☆☆


本書はシンガーソングライターとして知られるかしわ哲さん(「おかあさんといっしょ」にレギュラー出演:「きみのなまえ」「すずめがサンバ」などオリジナル曲多数)が、神奈川県の福祉施設「秦野精華園」の入所者たちとバンド「サルサ・ガムテープ」を創り、デビューして公演を成功させるまでになったドキュメンタリーです。


前半はかしわ氏(本文中では哲ちゃん:息子と同じ愛称です(^.^)・・)が「織口ノボル」のペンネームで書いて、第一回報知ドキュメント大賞を受賞したもので、バンドができてから初めてホールでコンサートを行なうまでの感動の軌跡です。


表題の「あったかさん」はかしわ氏の造語で、新潟県の中部地域で、お年寄りの方たちが知的に障害をもった人たちを「あったかさ」と呼んでおられることを聞いて作られたそうです。この本は、その温かさによって創られたといってもいいと思います。本当に的を得ている呼び方だと思いますが、もちろん氏も、呼び名を変えただけではなんの解決にもならないことは承知されています。


かっては白痴・愚鈍と呼ばれ、それから知恵遅れと呼ばれ、近年は精神薄弱者になり、それが知的障害者に変わる。もし仮に「あったかさん」といつか呼ばれるようになったとしても、一般の人たちの意識が、ガイドブックの域から抜け出せない限り、「あったかさん」の呼称など、年末商戦の安っぽいキャッチコピーのようなものだ。
知的障害者から、「あったかさん」までの道のりは、かなり長いだろうと感じている。
あわよくば本書が、その距離を縮める一端を担ってくれればなどと、そんな大胆な事を目論んではいない。ただ私は、サルサ・ガムテープというバンドと出会ったことで埋められた、心の空白を、少しでも読者の方々に伝えられたらと願っている。


控えめに書かれていますが、本書を読んで感動を覚えた人たちにとって「ガイドブックの域から抜け出せた」ような、本当の意味での意識のゆさぶりがあったと信じたいです。


さて、本書には、自閉症の青年も登場しますが、なんと言っても音楽でノリがよくて、感性を表に出すのはダウン症の人たちでしょう。
「サルサ・ガムテープ」の章にも何人ものダウン症の方がメンバーとして登場しますが、その後の章で紹介されるピアニストの越智章仁さん、彼の旋律を聴いた人は美しさの感動で金縛りになってしまうそうです。サルサ・ガムテープのサンバのノリとは、また違ったあったかさんの音楽の素晴らしさを感じます。


越智章仁くんだけでなく、私がこれまで出会ったダウン症の人たちは、みな驚くほど音楽や美術に長けていて、しかも限りなくやさしい。コンサートをやっているとき一番相性のいい観客は、まちがいなくダウン症の人たちだ。あたかも見えない糸で繋がっているかのごとく、感性のキャッチボールを自在に楽しむことができる。


世界中の政治家がダウン症だったら、ついにこの地上から戦争がなくなるだろう、と知子さん(章仁くんのお母さん)はうれしそうに話してくれた。私もそう思う。「あったかさん」連邦だ。
憎む・争うという遺伝子情報を捨てて生まれてきた人たち。
平和という遺伝子をひとつ余分にもって生まれてきた人たち。
その人たちを知的障害者児と一括し、一般社会から切り離してしまうのは、あまりにも無知で乱暴な行為だ。


それは、ダウン症に限らず自閉症にとっても同じ特性のようです。

息子を見ていると、その「あったかさん連邦」へ入国するパスポート、それは争いを嫌う平和主義者ということではないかと思ってしまいます。


また、本書ではきれい事だけでなく、今の入所施設の現況や、「福祉」がおかれている現状についても踏み込んでいます。例えば選挙の際の公約でも、ほとんどの候補者が「福祉」についての理解者・推進者として自らを訴えていますね。それは “老人・障害者=弱者=可哀そうな人”、それを守ってあげるのが福祉と考えられている方が多いようです。それは一般の方の中にも見え隠れすることもありますね。


私もそうだったが、福祉という枠組みの中で行なわれる交流が、どうも不自然でなじめない。根本に、弱者救済の思想があるような気がしてならない。早い話が嘘っぽい。感動が予想できる。そのあたりの欺瞞性を若者は見抜いているから、福祉の世界に近寄らないわけだ。


事故による死亡者の軽減に無力な交通標語と同じで、「ともに生きるやさしい社会」のような言葉は、風景の中に埋没している。
川村さん(自閉症者・デザイン画家)に会いにくる若者たちは、福祉に興味があるわけではなく、彼女の絵=彼女の感性に興味があるだけだ。自分がカッコイイと思った作家が、たまたま自閉症者であったことにより、彼らは、それまで抱いていた障害者に対するイメージを、根底からひっくり返される。そのリアリティーが誤解や偏見を取り払っていく。


そこまで言い切れる福祉への洞察力、タレント本の域は超えている一冊と言えるのではないでしょうか。


             (2006.10)


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あったかさん/かしわ 哲
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目次


  裏門のあーちゃん(まえがきにかえて・・・・)


ドキュメント 『 サルサ・ガムテープ 』


章仁くんの21番目


「兄はね・・・」と彼女はストックホルムで言った


穏やかなバクハツ


その5秒が待てない


  「あったかさん」ばんざい!(あとがきにかえて・・・)


  ★ こっちにおいでよ! (「あったかさん」応援(サポート)メッセージ)