自閉症の人たちのらいふステージ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

横浜市自閉症児・者親の会:編 ぶどう社 定価:1800円 + 税 (1997年6月)


       私のお薦め度:★★★★☆


自閉症児・者の療育・生活支援において、日本でもっともすすんでいる地域の一つが横浜である・・これは、自閉症に関わる人たちの意見が一致するところではないでしょうか。


この本は、その「横浜自閉症児・者 親の会(横浜やまびこの会)」の方たちが、自閉症者のよりよいらいふステージを考え、それを支援していくには・・という観点から、専門家の方たちと共に書き上げられた本です。


幼児期からはじまり、やがて自立するまでの道が、親の体験と専門家の方のアドバイスが縦糸と横糸のように織りなして、自閉症の方の安定した人生が織り上がっていきます。日本の各地から、お手本にする取り組みがなされています。
私たちも私たちの地域で、子どもたちのためにできるところから始めていきましょう・・・そんな元気がもらえる明るい本です。


この本のコンセプトは「子どもの生涯を見通す/賢い親に」ということだそうです。年代の違う多くの親のみなさんが、幼児期・学童期・思春期・そして青年・成人期へと、それぞれのライフステージにおける体験談や提言を書かれています。特にまだ小さいお子さんの保護者の方に、将来を見通しての子育てのためにお薦めできると思います。


ただ、親の会が作られた本なので、特定の療育方法などについての話はほとんどありません。それぞれのご家庭での心がけてこられたことや、体験されてきたことがらなのです。それはお互いがやってきたことを認め合うという親の会の大切なところでしょう。


もちろん、本書にも寄稿されている専門家の方々、横浜で本人や親の方への支援を続けられてこられた方々は、序文を書かれている佐々木正美先生をはじめ、内山登紀夫先生、中山清司先生、幸田栄先生などTEACHHを実践されてこられた方も多いですし、篁一誠先生や関水実先生のように実践の現場で支援に携わっておられる方々など、まさに錚々たる執筆陣ですが(それにしてもすごいですね、さすが横浜という思いです)、それぞれ療育というよりは支援の立場から書かれた本書です。


成人後も、一般就労されている方から、通所施設、作業所に通われている方々、入所施設に入られている方、それぞれの場所からの報告です。どちらがイイとか言わないのが、親の会として力を合わせていくためには秘訣なのでしょうね。


本書は全てのライフステージを網羅していると思いますが、あと付け加えるとしたら本人の立場からの発言でしょうか。ただ本書の書かれた当時は、まだ高機能自閉症やアスペルガー症候群ということば自体を聞くことも少なく、あくまで活動の中心は「親の会」であったため、そこまで望むのは無理な時代だったと思います。登場してくる子どもたちも、ほとんどが知的障害を伴う、いわゆるカナータイプの少年・少女たちです。
本書の続編として本を創るとしたら、今の親の会ではアスペルガータイプの子どもたちの話が多くなるかも知れませんね。彼らのライフステージについての本も期待したいと思います。


では最後に、本書の中から、本書の編集委員もされている東やまた工房施設長の関水実氏の、「横浜やまびこの里がめざすもの」の一文を紹介します。


「横浜やまびこの里」は、横浜市自閉症児・者親の会が母体となってつくった社会福祉法人です。
親の会全体の運動として取り組んできた背景には、自分の子どものことだけを考えていれば、自分の子どもも良い援助を受けられない。自分の子どもが良いサービスを受けられるようにするには、横浜全体の自閉症の人たちが良いサービスを受けられる状況を創り出さなくてはならないという考えからです。
ですから、自分の子どもが施設に入れたからいいというのではなく、いつも横浜の自閉症の人たちがおかれている状態を考えて運営しようとしています。


やまびこの里の施設ができた時、この創設に熱心に関わってこられた横浜の親の方たち、自分の子どもを後回しにしてでも、その時一番困っている方から優先して引き受けられたと聞きました。
その精神が、本書の中にも引き継がれ、後に続く人たちのために書かれた一冊だと思います。
岡山から横浜を羨ましがるだけでなく、その思いも受けとめて引き継がなければと思った本書です。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいと思います。


               (2002. 3)


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目次


 序文 本書の刊行によせて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐々木 正美


 はじめに 「らいふステージ」の視点から見えてくるもの・・・・・・・・宍倉 孝


第1章 幼児期


  心細い妻と無力な夫、そして.困難な息子・・・・・・・・・・・・・・宍倉 孝
     * 子どもとともに堂々と (瀧澤 久美子)
  障害の受容から、子どもの受容へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
     * 診断から療育へ (内山 登紀夫)
  療育の場と、ふれあいの場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宍倉 千衿
  子どもと家族の安定を図るには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宍倉 孝
     * 早期援助のポイント (上原 文)
  通園と幼稚園を並行して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・野尻 美夏
  療育最優先から、地域の中へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・関口 敏江
  「可愛いな」と思う気持ちを大切に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・望月 節子
  幼稚園には楽しい思い出がいっぱい・・・・・・・・・・・・・・・・・原田 南海子
     * 共に育つ子どもたち (栗原 雅弘)
  ご近所や親戚とのおつきあい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・森内 妙子


第2章 学校時代


  就学先を選ぶ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宍倉 千衿
     * 学校を選ぶポイント (幸田 栄)
  特殊学級で学んだ小学校6年間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・望月 節子
  先生とのいい関係を作るには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
  楽しい体験を広げる場も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宍倉 孝
  小学校から中学校へ、そして専修学校へ・・・・・・・・・・・・・ 原田 南海子
  中学校から高等養護へ、そして就職へ・・・・・・・・・・・・・・・ 森内 妙子
     * 高等部の生活 (近野 宏子)


第3章 思春期


  精神的・肉体的に大きな転換期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
     * 思春期をどうとらえるか (関水 実)
  思春期の混乱を越えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・森重 節子
     * 思春期の精神的ケア (内山 登紀夫)
  異性への関心に目覚める頃・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・望月 節子
     * 「性」への援助 (河東田 博)
  娘よ、おしゃれ感覚はいつまでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・原田 南海子
  どんどん広がる余暇活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤崎 安紀子
     * 同世代の友達として (五嶋 忍)
     * ホッとできる場所に (石井 ゆかり)


第4章 さまざまな自立


  就労にむけて学んだこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・望月 節子
     * 就労した二人の青年 (望月 節子)
     * 就労を支える (西村 晋ニ)
  グループホームでの生活を始めた頃・・・・・・・・・・・・・・・・・原田 南海子
     * 母親たちのグループホームづくり (原田 南海子)
     * 五人集ったらグループホーム (菅野 正裕)
  息子が作業所に通っているわけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈴木 美貴子
     * 地域作業所は、今 (佐々木 画生)
   通所施設 ― 東やまた工房の青年たち・・・・・・・・・・・・・・望月 節子
   入所施設で安定した生活をおくる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
     * 施設サービスの現状と課題 (奥野 宏)
  知識はあっても,難しい社会適応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐々木 常夫
     * 高機能の人への援助 (篁 一誠)
  自立してゆく娘と母の距離・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・原田 南海子
     * 自立の形はそれぞれに (福田 年之)


第5章 豊かな人生を


  家族が医療に望むこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・宍倉 孝
  「緊急一時保護」から家族支援へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
  障害をもつきょうだいと生きる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田部井 恒雄
  親に代わって見守ってくれる役割を・・・・・・・・・・・・・・・・・・田村 紀子
  横浜やまびこの里が目指すもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・関水 実
  「援助」について考える・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・関水 実
  「生活の豊かさ」について考える・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・中山 清司


 あとがきにかえて 私たちの本づくり体験記・・・・・・・・・・・・・・・・・森内 妙子