自閉症の本 ~じょうずなつきあい方がわかる~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

佐々木 正美:監修 主婦の友社 定価:1400円+税 (2009年6月)


       私のお薦め度:★★★★☆


自閉症について、初歩から解説している入門書です。全ページ、大きな文字にカラー印刷、イラスト付きで読みやすくなっています。


似たような本に、同じ佐々木正美先生監修の「自閉症のすべてがわかる本」(講談社)や、「子どものためのバリアフリーブック 障害を知る本 7 自閉症の子どもたち」(大月書店)などがありますね。
特に、「自閉症のすべてがわかる本」とは、その構成も対象もよく似ている本書だと思えます。


違いは・・・、と比べてみると、前著が二色刷りなのに比べて、本書はフルカラー印刷、きれいですね。その分はっきり見えるため、イラストが小さめで、文字も少し小さめ・・・よって、各ページの内容量、解説や例題が多めと言えるでしょう。
よってこちらがお買い得・・・とは簡単に言い切ってしまえないのが、難しいところです。


もちろん、佐々木先生が監修しておられるので、内容に間違いがあるわけではありませんが、やはり元の文を書かれた方の視点は残るわけですね。


「家庭や園、学校、みんなで連携しましょう」のページでも、うまく協力できることが前提の楽観論で、それができない場合としては「家族の理解が得られないときは」との対処法の項目があるだけで、やはり専門家の側からの視点です。

親からみると、逆に「園、学校での理解が得られないときは」による悩みの方がはるかに多いのに・・・と思ってしまいます。


また「自閉症」と「自閉的」との違いについても、こんな表記があります。


自閉的、自閉という言葉は、統合失調症のひとつをあらわす言葉です。

統合失調症は、思春期から成人期にかけて起きる心の病気です。なんらかの原因で心の状態が不安定になり、実際にはしていない音や声が聞こえる(幻聴)、実際には存在していないものが見える(幻視)、他人に悪口を言われたり見張られていると思い込む(被害妄想)など、現実を逸脱した症状が特徴的にあらわれます。
また、家族や知人とうまく交流できなくなったり、現実から逃避して自分の世界に閉じこもるなど、コミュニケーションの障害が見られることもあります。

これが「自閉的」とか「自閉」などと呼ばれる症状です。


たしかに、学問的にはそうなのかもしれませんが、現実にはまだ小さい場合には、お医者さんからショックをやわらげるためか、「少し自閉的な傾向が・・・」と言われている親御さんも多いように思います。このようにはっきり断定されてしまうとよけい混乱を引き起こしそうで、少し疑問も残る表現でした。
私のブログも「自閉の北斗星」というタイトルですし・・・・(^_^;)


知的障害との合併でも、「80%に知的障害がある」と書かれていますが、それは自閉症の発症率が1万人に4~5人と言われていた時代の話で、診断精度があがり高機能自閉症の診断もできるようになった現在、その%は低くなっているのではないでしょうか。実際、どこの会合に行っても今や半数近くの(もしかするとそれ以上の)知的障害のない自閉症のお子さんを見かけるような気がします。


今は自閉症スペクトラムの子どもの発症率は、100人に1人近くいるとも聞きます。以前との差が、新たに診断されるようになった高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちだとすると、すでにカナータイプとアスペルガータイプは逆転しているのかもしれません。
もっとも、本書ではアスペルガー症候群と自閉症は別の障害(よく似た障害)として分けて考えている立場ですが、それにしても80%という比率は今では多すぎると感じました。


もちろん、本書の価値はそれらによって変わるわけではなく、特にTEACCHを療育の柱にすえて、初心者の方にもわかりやすく説明されている第4章などはお薦めです。


他にもヒントとなることは多く、例えば時間を見える形の量として示すために、15分を1単位としてスケジュールカードを作る・・・などは、なるほどと思いました。
学校で、休憩時間が15分なら、給食時間の30分は倍の大きさのカード、授業時間の45分は3倍の大きさのカードにして、組み合わせて時間割を作れば時間というイメージがつかみやすくなりますね。ともすれば同じ大きさのカードを並べてスケジュールをつくりがちですが、参考になりました。


他にも全編を通して、前向きで明るい本(内容も体裁も)となっていますので、診断を告げられたばかりのお母さんに、これから向かうべき道を示してあげるには適している一冊だと思います。


         (2009.7)


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目次


  はじめに


  プロローグ あなたの周りにこういう子はいませんか?


第1章 自閉症ってどんな障害なの?


  基本的な特性1 人とかかわりを持つことが苦手です
  基本的な特性2 言葉の発達に遅れや偏りがあります
  基本的な特性3 同じ動きをしたり、特定の物にこだわります
  いろいろな特性1 人の気持ちを読むのが不得意です
  いろいろな特性2 あいまいな言葉がわかりません
  いろいろな特性3 突然の変化にはとまどいます
  いろいろな特性4 急にパニックにおちいることがあります
  いろいろな特性5 目や耳、肌などの感覚がアンバランスです
  いろいろな特性6 すばらしい能力を持っています
  どうして自閉症になるの?
  なぜ脳にトラブルが起きるの?
  何歳ごろから自閉症だとわかるの?
  自閉症って治るの? 治せるの?
  自閉症に対する新しいとらえ方があります


第2章 家族として子どもをサポートしていくために


  自閉症のサインはいつ見つかるの?
  どこに相談するの? どんな診察をするの?
  子どもが自閉症と診断されたら
  「療育(治療教育)」って何?
  療育が受けられるところを探しましょう
  部屋を子どもが使いやすく変えましょう
  スケジュール表を作りましょう
  トイレや歯磨きの練習をしましょう
  お手伝いにも挑戦してみましょう
  食事に関する悩みがあるときは
  近所の人たちにも協力をお願いしましょう
  習い事も子どもの成長を促します
  保育園や幼稚園、学校はどう選べばいいの?
  夫婦・きょうだい、みんなで協力しましょう
  子どもの将来はこう考えましょう
  子育てがうまくいかなくて悩んだら


第3章 周りのみんなで支え、共に暮らそう


  周りの人たちがぜひ心がけたいこと
  話しかけるときは、短くわかりやすい言葉で
  使わないほうがいい表現があります
  否定的な言葉はできるだけ控えましょう
  言葉を覚えさせることにこだわらないで
  絵カードで気持ちを伝える方法があります
  次に何が起きるかわからないと不安です
  変更があるときには早めに伝えましょう
  教室を過ごしやすい環境にしましょう
  園や学校で休み時間の過ごし方を工夫しましょう
  友だちの輪に入れなくても強制しないで
  うまくできない遊びがあります
  遊び道具を一人占めしてしまうときは
  ほめることで意欲や能力がはぐくまれます
  ルールやマナーが守れないときは
  パニックはなぜ起きるのでしょうか?
  パニックにはこうやって対応しましょう
  自傷など、危険なことをしそうになったら
  家庭や園、学校、みんなで連携しましょう


第4章 世界で、そして日本で 療育の中心となっている「TEACCH」


  TEACCHってなんですか?
  自分らしく暮らすことが目標です
  目で見てすぐに理解できる「構造化」
  構造化で自宅がもっと快適になります
  構造化で教室をもっと学びやすい空間に
  効果的なスケジュール表(時間割)の使い方
  手順表で生活スキルが身につきます
  集中して課題に取り組めるワークシステム
  希望や要求を伝えられるようになりましょう
  レシピ表を作れば料理もできます
  手順表を持ってひとりで買い物に
  TEACCHは就労も支援していきます


自閉症Q&A


コミュニケーションカードを活用しましょう


コラム
  自閉症の原因は、子育てや家庭環境ではありません
  「自閉症」と「自閉的」。 何が違うの?
  子どもたちと接するときはこんな点にも配慮して
  わかりにくい障害、高機能自閉症とアスペルガー症候群